臨床心理士・公認心理師
にしむら
過去の連載では心理職の「中の人」の声を聴き、その働き方について触れてきました。今回は視点を少し外に転じ、他職種から心理資格を取得した方の声を聴いたうえで、考えていきます。
まず、オンラインを用いた読者アンケート(「他職種からみた心理職の働き方に関するアンケート」結果はこちら)と4回の座談会を行いました。座談会参加者の顔ぶれは、社会福祉士、精神保健福祉士、看護師、キャリアコンサルタント、教員、専門職公務員などの方々でした。働きながら公認心理師試験に合格するのは大変なことで、頭が下がる思いです。
アンケートでは幅広いご意見をいただき、座談会はとても興味深いものとなりました。ご協力いただきましたすべての皆さまに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
では他職種から心理職の働き方はどう見えているか? その理由と対策は? さっそくみていきましょう!
転職に結びついていない理由の一部には、過去の記事でも述べてきた雇用の不安定さと、以下に示すような現在の心理職の求人の条件設定が影響していると思われます。
インターネット上では、心理職に関して「ダブルホルダー」という呼び方があります。これは、臨床心理士と公認心理師の両方を持つ人を指すことが多いようです。心理職の求人では、条件に公認心理師を挙げるものが優勢になってきています。医療保険の診療報酬算定基準と施設基準に、「公認心理師等」とあることの影響でしょう。一部には臨床心理士が併記されたもの、つまりダブルホルダーを求めるものもあります。これには、現任の心理職の多くがダブルホルダーであることや、部門の管理者がダブルホルダーであることなどが理由として考えられます。いずれかのみの「シングルホルダー」にはやや不利な面があるかもしれません。ですが、現役学生からも、「公認心理師を目指しています。臨床心理士は取得できたら」と聞いたことがあります。今後、ダブルホルダー、シングルホルダーの分布は徐々に変化し、医療保険等の制度改正や現場のニーズの変化によって、求人状況も変わっていくと思われます。他職種から心理資格を取得した方が増えることで全体的な求職は厳しくなるかもしれませんが、業界が活性化し、新たな可能性へと広がりが生まれるのではないでしょうか。
もちろん、現職に満足していれば転職の必要性はありません。他職種での経験が豊かである方ほど、雇用が不安定な心理職に新人として就くことに勇気がいることは頷けます。座談会には、努力して取得した資格と技術を活かせないかとの思いから、プロボノ活動※をされている方もおられました。
※プロボノ活動…社会人が自らの専門知識や技能を生かして参加する社会貢献活動
心理職の働く領域は、医療、福祉、教育、司法、産業と幅広く、さまざまな知識とスキルが求められます。キャリアを通じて研さんを続けること、生涯学習としての心理学、答えがないことに関わり続け、成長し続けられること、これらもまた心理職の魅力なのでしょう。他に専門性をもつ方にとっては相互に反映できる点も大きいと思われます。
これには、一人職場や少人数の部署が多いため、他の専門職よりも「社会人としての基礎力」「心理職らしさ」を身に付ける機会が少ないことが理由の一つとして挙げられます。そしてここでも雇用の不安定さが影響していると考えます。
たとえば看護職では、入職後の初期教育、クリニカルラダーなどの研修システムから専門看護師制度、管理職へのルートなど、キャリアパスがあります。その中で揉まれながら、マナー、知識、スキルなどを含めた「社会人としての基礎力」「看護師らしさ」を身に付けていきます。一方、心理職は国家資格化に伴い育成段階から平準化が進んでいますが、以前は各大学でのカラーともいえる教育の特性と、就職後の職場環境に大きく影響を受けてきました。非正規雇用の環境下では、組織内での立ち位置の確保自体が容易ではありません。制度化されたクリニカルラダーやキャリアパスはほぼ存在せず、すべて個人に委ねられています。社会人としての研修機会に恵まれず、会議などの情報共有と意思決定の場に参加する機会がない場合もあるでしょう。さらに一人職場ならば、組織内での継続したOJT (on the job training)を通じた研さんができず、個人の資質と努力、力量次第となります。その状況で多職種連携の場に出ると……困難が伴うことは不思議ではありません。常勤で当たり前に部署に先輩・同僚がいる職種にとっては信じがたいことでしょうが、少なくない心理職が直面している現実と思われます。
しかし筆者は悲観していません。マナーは周りを真似ることや自己学習で身に付けることができます。必要な情報をどのように得ていくか、意思決定の場にどのように関わっていくかも業務の大切な過程です。少数のマイナー職種ならではのフットワークの見せ所だと思います。個人での研さんは苦労もありますが、それは心理職に限らず専門職に課されていることでしょう。あらゆる心の支援場面は固有性をもち一筋縄ではいかないことを、支援者はよくご存じのことと思います。多職種連携での経験を重ねて構築していき、同時に各職種の強みをいかに育むか、職種内外のポジティブなつながりが重要な鍵となると思われます。
地域での多職種連携に関して、江畑ら(2003)は「守秘義務に関する態度は職種や職場によって異なり困難と混乱に陥っている」と報告しています1)。心理職はクライアントとの契約と二者関係を重んじる傾向があるため、情報開示に慎重なことはありえます。他職種からは業務の実態が見えにくく、「壁を感じる」との印象につながるのかもしれません。ここはコミュニケーションと、心理職からの丁寧な説明が必要な場面です。
同じく座談会で「『ハブ(つなぎ役)』になりたい」との声があったことは印象的でした。今回の参加者は中堅以上のキャリアをもつ実力のある専門職の方々です。複数の専門性と経験に基づいた広い視野と実践力を活かし、多職種連携に心理的な視点をもたらし、他の心理職が関わる際のキーパーソンになってくれるポテンシャルをお持ちだと感じました。ダブルホルダーは、彼らから連携スキルを学び、かつまた得意とする個別支援のスキルを発揮し伝えていくことで、好循環が生まれるのではないでしょうか。
研修・情報・交流を求めて「職能団体など心理職のコミュニティに入ろうと思うが、入りにくい」という声もありました。これは何かに似ていると感じました。そう、多職種連携における心理職です。身近に同じ立場の人がおらず、情報が入らない環境は不安なものです。心理職およびコミュニティは、分かりやすい情報発信とオープンな姿勢で、他職種から心理職になった方をあたたかく迎えることが大切と思われます。そうすることで互いに働きやすくなるだけでなく、業界が活性し、クライアント、ひいては社会全体に寄与できるのではないでしょうか。
最後に、今回の座談会のように、少人数でのテーマをもった対話の場は、良いコミュニケーションと情報交換の機会になることを感じました。先に述べたように、心理職自身が、心理的な負担から傷つくことも少なくありませんから、ピアサポートとエンパワーメントにもつながるでしょう。
★「他職種からみた心理職の働き方に関するアンケート」結果はこちら
引用文献
1)江畑敬介ほか.地域支援ネットワークと守秘義務との関係に関する研究.精神神経学雑誌.105(7),2003,933-58.
【本連載へのご意見&ご感想をお待ちしています】
本連載は、皆さまの「モヤモヤ」を語り合い、正体を明らかにし、解決につながる場所になればと考えております。ぜひ、ご意見やご感想、取り上げてほしいテーマなどを教えてください。
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・最終回 心理職の働き方改革(前編)~これまでの連載から見えてきたこと~
・最終回 心理職の働き方改革(後編)~これからの心理職として働き続けるために大切な5つのこと~
にしむら
はじめに
2021年で第4回を迎える公認心理師試験。第3回までの合格者では、当初大半を占めていた臨床心理士から、医療・教育・福祉といった専門資格をもつ人の割合が増えてきています。過去の連載では心理職の「中の人」の声を聴き、その働き方について触れてきました。今回は視点を少し外に転じ、他職種から心理資格を取得した方の声を聴いたうえで、考えていきます。
まず、オンラインを用いた読者アンケート(「他職種からみた心理職の働き方に関するアンケート」結果はこちら)と4回の座談会を行いました。座談会参加者の顔ぶれは、社会福祉士、精神保健福祉士、看護師、キャリアコンサルタント、教員、専門職公務員などの方々でした。働きながら公認心理師試験に合格するのは大変なことで、頭が下がる思いです。
アンケートでは幅広いご意見をいただき、座談会はとても興味深いものとなりました。ご協力いただきましたすべての皆さまに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
では他職種から心理職の働き方はどう見えているか? その理由と対策は? さっそくみていきましょう!
ダブルホルダー/シングルホルダー、気になる転職状況は?
アンケートによると、資格取得後に主たる業務を心理業務へ移した方は、40名中12名でした。具体的には、心理職への転職、心理部門への異動などです。転職等をしていない方でも、「人員配置の加算要件を満たしたため手当が発生」「資格取得で業務に自信と説得力をもつことができた」など、ポジティブな変化があったという意見が複数ありました。一方、「資格を取得したがキャリアプランが立てられない」との声に代表されるように、心理職の雇用の不安定さに関するコメントも多数ありました。転職に結びついていない理由の一部には、過去の記事でも述べてきた雇用の不安定さと、以下に示すような現在の心理職の求人の条件設定が影響していると思われます。
インターネット上では、心理職に関して「ダブルホルダー」という呼び方があります。これは、臨床心理士と公認心理師の両方を持つ人を指すことが多いようです。心理職の求人では、条件に公認心理師を挙げるものが優勢になってきています。医療保険の診療報酬算定基準と施設基準に、「公認心理師等」とあることの影響でしょう。一部には臨床心理士が併記されたもの、つまりダブルホルダーを求めるものもあります。これには、現任の心理職の多くがダブルホルダーであることや、部門の管理者がダブルホルダーであることなどが理由として考えられます。いずれかのみの「シングルホルダー」にはやや不利な面があるかもしれません。ですが、現役学生からも、「公認心理師を目指しています。臨床心理士は取得できたら」と聞いたことがあります。今後、ダブルホルダー、シングルホルダーの分布は徐々に変化し、医療保険等の制度改正や現場のニーズの変化によって、求人状況も変わっていくと思われます。他職種から心理資格を取得した方が増えることで全体的な求職は厳しくなるかもしれませんが、業界が活性化し、新たな可能性へと広がりが生まれるのではないでしょうか。
もちろん、現職に満足していれば転職の必要性はありません。他職種での経験が豊かである方ほど、雇用が不安定な心理職に新人として就くことに勇気がいることは頷けます。座談会には、努力して取得した資格と技術を活かせないかとの思いから、プロボノ活動※をされている方もおられました。
※プロボノ活動…社会人が自らの専門知識や技能を生かして参加する社会貢献活動
非常勤が多い心理職だからできる働き方
意外だったのは、非常勤職が多いことがポジティブな側面として挙がったことです。ライフステージに合わせて、たとえば育児、看護、病気、介護などの理由から常勤で働きにくいときに、資格を活かして職を得られるからとのこと。本連載第1回で述べたとおり、常勤ではジェネラリストとして多種多様な役割を求められるため、職場での拘束時間が長くなりますが、非常勤ではスペシャリストとしてカウンセリングや心理検査など一部業務に専念することができるため、短時間で勤務が終わります(もちろんこれらは環境によります)。心理業務の多くは肉体労働ではなく、年齢と人生経験を重ねることが支援に活かされることもあります。非常勤を選ぶことで、経験を積む/活かす、特定のスキルを磨く、新しい領域にチャレンジするといった柔軟性のある働き方ができることは心理職の特性といえそうです。心理職の働く領域は、医療、福祉、教育、司法、産業と幅広く、さまざまな知識とスキルが求められます。キャリアを通じて研さんを続けること、生涯学習としての心理学、答えがないことに関わり続け、成長し続けられること、これらもまた心理職の魅力なのでしょう。他に専門性をもつ方にとっては相互に反映できる点も大きいと思われます。
連携上手?下手?その理由と心理職の働き方の関係
アンケートと座談会を通じて「多職種連携」がキーワードに浮上しました。チーム医療、チーム学校、地域包括ケアシステムなど多職種チームで動くことがデフォルトの時代を反映していると感じます。内容は、心理職に関する過去の連携の経験から語られていました。「コミュニケーション能力が高い」「安心して任せられる」といったポジティブなものから、残念ながら「マナーが不十分」「壁を感じる」といったネガティブなものもありました。なぜ連携での困難が生じるのでしょうか?これには、一人職場や少人数の部署が多いため、他の専門職よりも「社会人としての基礎力」「心理職らしさ」を身に付ける機会が少ないことが理由の一つとして挙げられます。そしてここでも雇用の不安定さが影響していると考えます。
たとえば看護職では、入職後の初期教育、クリニカルラダーなどの研修システムから専門看護師制度、管理職へのルートなど、キャリアパスがあります。その中で揉まれながら、マナー、知識、スキルなどを含めた「社会人としての基礎力」「看護師らしさ」を身に付けていきます。一方、心理職は国家資格化に伴い育成段階から平準化が進んでいますが、以前は各大学でのカラーともいえる教育の特性と、就職後の職場環境に大きく影響を受けてきました。非正規雇用の環境下では、組織内での立ち位置の確保自体が容易ではありません。制度化されたクリニカルラダーやキャリアパスはほぼ存在せず、すべて個人に委ねられています。社会人としての研修機会に恵まれず、会議などの情報共有と意思決定の場に参加する機会がない場合もあるでしょう。さらに一人職場ならば、組織内での継続したOJT (on the job training)を通じた研さんができず、個人の資質と努力、力量次第となります。その状況で多職種連携の場に出ると……困難が伴うことは不思議ではありません。常勤で当たり前に部署に先輩・同僚がいる職種にとっては信じがたいことでしょうが、少なくない心理職が直面している現実と思われます。
しかし筆者は悲観していません。マナーは周りを真似ることや自己学習で身に付けることができます。必要な情報をどのように得ていくか、意思決定の場にどのように関わっていくかも業務の大切な過程です。少数のマイナー職種ならではのフットワークの見せ所だと思います。個人での研さんは苦労もありますが、それは心理職に限らず専門職に課されていることでしょう。あらゆる心の支援場面は固有性をもち一筋縄ではいかないことを、支援者はよくご存じのことと思います。多職種連携での経験を重ねて構築していき、同時に各職種の強みをいかに育むか、職種内外のポジティブなつながりが重要な鍵となると思われます。
「ようこそ」と迎え合いたい
座談会で、「チームが強調されるようになったのは、複雑化する現場に専門職が個の力で対応することが困難になったから」という意見をいただきました。支援専門職のメンタルヘルスは社会問題であり、心理的な負担が大きいことを表しています。長年個人に委ねられてきたものにチーム体制を引くことへの戸惑いはあって当然ですし、職種間の葛藤も生じるでしょう。地域での多職種連携に関して、江畑ら(2003)は「守秘義務に関する態度は職種や職場によって異なり困難と混乱に陥っている」と報告しています1)。心理職はクライアントとの契約と二者関係を重んじる傾向があるため、情報開示に慎重なことはありえます。他職種からは業務の実態が見えにくく、「壁を感じる」との印象につながるのかもしれません。ここはコミュニケーションと、心理職からの丁寧な説明が必要な場面です。
同じく座談会で「『ハブ(つなぎ役)』になりたい」との声があったことは印象的でした。今回の参加者は中堅以上のキャリアをもつ実力のある専門職の方々です。複数の専門性と経験に基づいた広い視野と実践力を活かし、多職種連携に心理的な視点をもたらし、他の心理職が関わる際のキーパーソンになってくれるポテンシャルをお持ちだと感じました。ダブルホルダーは、彼らから連携スキルを学び、かつまた得意とする個別支援のスキルを発揮し伝えていくことで、好循環が生まれるのではないでしょうか。
研修・情報・交流を求めて「職能団体など心理職のコミュニティに入ろうと思うが、入りにくい」という声もありました。これは何かに似ていると感じました。そう、多職種連携における心理職です。身近に同じ立場の人がおらず、情報が入らない環境は不安なものです。心理職およびコミュニティは、分かりやすい情報発信とオープンな姿勢で、他職種から心理職になった方をあたたかく迎えることが大切と思われます。そうすることで互いに働きやすくなるだけでなく、業界が活性し、クライアント、ひいては社会全体に寄与できるのではないでしょうか。
最後に、今回の座談会のように、少人数でのテーマをもった対話の場は、良いコミュニケーションと情報交換の機会になることを感じました。先に述べたように、心理職自身が、心理的な負担から傷つくことも少なくありませんから、ピアサポートとエンパワーメントにもつながるでしょう。
今回のモヤモヤ・ポイント
①心理資格を取得しても転職やキャリアアップに直結しないことがある。 ②他の専門資格に比べると心理職の雇用は不安定。 ③多職種連携って難しい。 |
今回のモヤモヤ解決のヒント
①ダブルホルダー/シングルホルダー、それぞれの強みを活かそう。 ②非常勤の多さを利用して自分らしく働こう。 ③多職種連携はオープンなコミュニケーションがカギ。 |
★「他職種からみた心理職の働き方に関するアンケート」結果はこちら
引用文献
1)江畑敬介ほか.地域支援ネットワークと守秘義務との関係に関する研究.精神神経学雑誌.105(7),2003,933-58.
【本連載へのご意見&ご感想をお待ちしています】
本連載は、皆さまの「モヤモヤ」を語り合い、正体を明らかにし、解決につながる場所になればと考えております。ぜひ、ご意見やご感想、取り上げてほしいテーマなどを教えてください。
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