フリーランス 臨床心理士 公認心理師
浅見大紀
現在の主な契約先は個人や医療機関、NPO法人です。そこから業務委託を受けるような形で、心理面接(対面、Zoom)、認知リハビリテーション(対面、ビデオ配信)、他職種へのコンサルテーション(Zoom)、地域講演(対面、Zoom)などを行っています。以前は地域包括支援センターからも仕事をいただき、訪問活動や虐待対応などもしていました。
働く場所や仕事内容が毎日違うので、私にとっては新鮮で頭の切り替えもでき、楽しい日々となっています。
ただその半面で、理不尽さを感じても組織のためにしなければならない仕事に時間を費やし、組織の方針に沿って判断しなければならない事柄やスタッフ間の人間関係に神経をすり減らすことが多く、一つひとつの臨床に集中することが難しいな、と感じることがありました。今となっては、私の柔軟性やコミュニケーション能力の低さがそう感じた要因だったと振り返っていますが、当時はしんどかったんですね。
それならば、一度組織という枠組みを出てみようという思いから独立することにしました。独立というと聞こえは良いですが、正直なところ所属から逃げたというほうが正確な記述でしょう。
ただ当初はどうやって仕事を得るかということでだいぶ苦労しました。独立してから、病院や施設、自治体などに電話やメールをしたり、訪問して話を聞いてもらったりとずいぶん営業活動を行い、ある地域包括支援センターで拾っていただくまで3カ月もかかりました。求人サイトに手を出しそうにもなりましたが、なんとかこれは粘り勝ちでした。
現在はコロナ禍ということで経済的な心配はつきまといますが、それでもやりたいことができている、という喜びが今は勝っています。このあたりは人生の価値をどこに置いているかで感じ方がずいぶん違うでしょう。
これは本当にありがたいことです。ここで大切だと考えていることは、なぜ皆さんが私に仕事を依頼しようと思ってくださるのか、継続して関わらせていただけるのかを自問し、その答えだと考えられることを常に意識して仕事に当たることだと思っています。
外からその組織を眺めると客観的にいろいろ見えてきます。私が組織を去った理由と同じことで苦しんでいるスタッフを見たり、「上の立場の方がこういう声かけをしてくれると現場の雰囲気もずいぶん違うだろうな」などと感じたりすることがあるわけです。しかし、ときどきしかその現場を見ていない私は安易にそれらについて言い及んではいけないと思っています。これは認知症の方をお世話する家族への対応とも重なりますが、家族は生活のほとんどの時間と思考や感情をそのことに費やしています。そこに専門家がちょっと見に来て、「もう少し優しく声かけを」などとコメントするのはナンセンスの極みです。大変そうなスタッフに軽く声をかけることはあっても、心苦しくはありますが基本的にはモヤモヤして終わります。
しかし、東日本大震災の支援活動で自分の力のなさに半ば失望し、「心理職だけでできることは本当に少ないんだ」と痛感したことが転機となりました。
目の前の方にとって大切なのは心理職が他職種からわかってもらうことではないという当たり前の認識ができるようになってからは、楽に他職種の方々と働けるようになりました。今では「この職種がいると助かるなあ」「この方のためにはあの職種にもいてほしいなあ」など自然に思い浮かぶようになりました。
しかし、本当に簡単な例ですが、以下をご覧ください。
「Aさんが自宅に帰るためにはもう少しADLの向上が望まれるからリハビリテーション職の方がそこは担当する。一方でAさんがリハビリを継続していくには少し元気がないし、家族も心配そうだから心理職が本人の意欲の維持向上と家族の安心感を高めるために機能しよう。無理がないように全身状態や基礎疾患のフォローは看護師さんがしてくれるから、話し合いながらリハビリと心理面接の頻度、タイミングを検討していこう」。
以上のように、それぞれの役割とどうつながるかを具体的に記述すれば、ほとんど皆さんが日々の臨床で実践されていることだとわかります。これは立派な連携です。というわけで、『連携』という単語は脇に置いています。
少し状況は異なりますが、私はせっかく多職種が連携して支えているであれば、それが本人や家族に伝わる方が良いと思っています。「こんなに多くの方々が私たちを一生懸命にみてくれている」という思いは本人や家族にとって、とても大きな活力になると信じているからです。どうすれば、みんなが協力してあなたに関わっていますよ、ということが伝えられるでしょうか。
組織に所属していても真剣勝負で仕事ができる人がほとんどでしょう。私にはそれが難しかったですが、今はフリーランスになったことで以前より臨床に集中できるようになったと思いますし、ほかの職種の皆さんとほどよい距離が取れるようになったと感じています。また自分を高めるための時間や費用も惜しまなくなりました。
好きなことは本気でやらなければ楽しくないと考えていますので、日々真剣になれる今の環境そのものが私のやりがいであり、モチベーションの源泉だと考えています。今の環境で仕事をさせていただいていることに本当に感謝しています。
著者プロフィール
浅見大紀(あざみ・ひろき)
新潟大学農学部卒業後、経済産業省に入省するもすぐに辞めて東京学芸大学大学院へ。
修了後は成城リハビリテーションクリニック、和光病院、東日本大震災の支援活動(日本プライマリケア連合学会)、筑波大学、東北大学災害科学国際研究所を経て2016年1月に独立。
これまでの契約先として東松島市地域包括支援センター、医療法人医徳会、医療法人社団創知会、医療法人社団創福会、NPO法人語らいの家など。
ほかにも各地でもの忘れや認知症関連の講演、個人契約での訪問認知リハビリテーションなどを実施。
【本連載へのご意見&ご感想をお待ちしています】
本連載は、皆さまの「モヤモヤ」を語り合い、正体を明らかにし、解決につながる場所になればと考えております。ぜひ、ご意見やご感想、取り上げてほしいテーマなどを教えてください。
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・最終回 心理職の働き方改革(前編)~これまでの連載から見えてきたこと~
・最終回 心理職の働き方改革(後編)~これからの心理職として働き続けるために大切な5つのこと~
浅見大紀
はじめに
私は2016年1月から特定の組織に所属するのをやめて、フリーランスとして主に高齢者領域の心理の仕事をしています。現在の主な契約先は個人や医療機関、NPO法人です。そこから業務委託を受けるような形で、心理面接(対面、Zoom)、認知リハビリテーション(対面、ビデオ配信)、他職種へのコンサルテーション(Zoom)、地域講演(対面、Zoom)などを行っています。以前は地域包括支援センターからも仕事をいただき、訪問活動や虐待対応などもしていました。
働く場所や仕事内容が毎日違うので、私にとっては新鮮で頭の切り替えもでき、楽しい日々となっています。
フリーランスのきっかけは『所属』からの逃走
組織に所属していると組織に守ってもらえます。それは、収入や社会保障、福利厚生や組織の看板で仕事ができることなどさまざまあり、組織で働くことの大きなメリットです。私も長く組織の中にいたので、とてもありがたいことでした。ただその半面で、理不尽さを感じても組織のためにしなければならない仕事に時間を費やし、組織の方針に沿って判断しなければならない事柄やスタッフ間の人間関係に神経をすり減らすことが多く、一つひとつの臨床に集中することが難しいな、と感じることがありました。今となっては、私の柔軟性やコミュニケーション能力の低さがそう感じた要因だったと振り返っていますが、当時はしんどかったんですね。
それならば、一度組織という枠組みを出てみようという思いから独立することにしました。独立というと聞こえは良いですが、正直なところ所属から逃げたというほうが正確な記述でしょう。
苦労よりも喜びの日々
まず結論から言いますと、現在はフリーランスとして働くうえでの苦労はほとんど感じていません。つまり私の中で一番大切だった『一つひとつの臨床に集中する』ということができていると感じているからです。ただ当初はどうやって仕事を得るかということでだいぶ苦労しました。独立してから、病院や施設、自治体などに電話やメールをしたり、訪問して話を聞いてもらったりとずいぶん営業活動を行い、ある地域包括支援センターで拾っていただくまで3カ月もかかりました。求人サイトに手を出しそうにもなりましたが、なんとかこれは粘り勝ちでした。
現在はコロナ禍ということで経済的な心配はつきまといますが、それでもやりたいことができている、という喜びが今は勝っています。このあたりは人生の価値をどこに置いているかで感じ方がずいぶん違うでしょう。
活動の展開は紹介や口コミ
はじめの営業以降、同様の活動はしておらず、ホームページを作成したりSNSで発信したりといった展開も現在のところ考えていません。というのも、現在はこれまでお世話になった方からの紹介や口コミ、以前の職場関係者からの依頼などで仕事をいただけるようになっているからです。これは本当にありがたいことです。ここで大切だと考えていることは、なぜ皆さんが私に仕事を依頼しようと思ってくださるのか、継続して関わらせていただけるのかを自問し、その答えだと考えられることを常に意識して仕事に当たることだと思っています。
フリーランスでもモヤモヤ
苦労ではありませんが、仕事の中でモヤモヤすることはあります。それは、自分が委託されている業務以外の事柄についてコメントすることははばかられるということです。外からその組織を眺めると客観的にいろいろ見えてきます。私が組織を去った理由と同じことで苦しんでいるスタッフを見たり、「上の立場の方がこういう声かけをしてくれると現場の雰囲気もずいぶん違うだろうな」などと感じたりすることがあるわけです。しかし、ときどきしかその現場を見ていない私は安易にそれらについて言い及んではいけないと思っています。これは認知症の方をお世話する家族への対応とも重なりますが、家族は生活のほとんどの時間と思考や感情をそのことに費やしています。そこに専門家がちょっと見に来て、「もう少し優しく声かけを」などとコメントするのはナンセンスの極みです。大変そうなスタッフに軽く声をかけることはあっても、心苦しくはありますが基本的にはモヤモヤして終わります。
大切にしていること:『わかってほしい』と考え過ぎない
他職種と一緒に仕事をしていくために私が大切にしていることは、心理職のことを『わかってほしい』と考え過ぎないことです。組織にいたころ、私は心理の仕事を他職種にわかってほしくて躍起になっていました。しかし、手ごたえを感じることが少なく、そのうちに心のどこかで「どうせこの人たちにはわかってもらえないだろう」と投げやりな気持ちになっていました。しかし、東日本大震災の支援活動で自分の力のなさに半ば失望し、「心理職だけでできることは本当に少ないんだ」と痛感したことが転機となりました。
目の前の方にとって大切なのは心理職が他職種からわかってもらうことではないという当たり前の認識ができるようになってからは、楽に他職種の方々と働けるようになりました。今では「この職種がいると助かるなあ」「この方のためにはあの職種にもいてほしいなあ」など自然に思い浮かぶようになりました。
『連携』は脇に置いておく
もう一つ大切にしているのは『連携』という言葉に惑わされないことです。『連携』という抽象的な表現では各人が違う理解をしてしまいそうです。よくわからない概念なので漠然と自分にはできているのか不安な気がしてきます。しかし、本当に簡単な例ですが、以下をご覧ください。
「Aさんが自宅に帰るためにはもう少しADLの向上が望まれるからリハビリテーション職の方がそこは担当する。一方でAさんがリハビリを継続していくには少し元気がないし、家族も心配そうだから心理職が本人の意欲の維持向上と家族の安心感を高めるために機能しよう。無理がないように全身状態や基礎疾患のフォローは看護師さんがしてくれるから、話し合いながらリハビリと心理面接の頻度、タイミングを検討していこう」。
以上のように、それぞれの役割とどうつながるかを具体的に記述すれば、ほとんど皆さんが日々の臨床で実践されていることだとわかります。これは立派な連携です。というわけで、『連携』という単語は脇に置いています。
せっかく連携しているなら
来談者中心療法創設者のロジャースがクライエントのパーソナリティが建設的に変化するために必要にして十分な6条件というものを提唱しており、ご存知の方も多いと思います。この最後の条件を簡単にいうと『カウンセラーがクライエントに対して無条件の肯定的配慮と共感的理解を経験していることがクライエントに伝わっていること』です。少し状況は異なりますが、私はせっかく多職種が連携して支えているであれば、それが本人や家族に伝わる方が良いと思っています。「こんなに多くの方々が私たちを一生懸命にみてくれている」という思いは本人や家族にとって、とても大きな活力になると信じているからです。どうすれば、みんなが協力してあなたに関わっていますよ、ということが伝えられるでしょうか。
フリーランスとしてのやりがい・モチベーションの源
フリーランスは給料という定期的な収入がありません。働いた分の報酬のみが自分の収入になります。ずばり、わかりやすいですね。質の低い、不誠実な仕事をすればすぐに仕事はなくなります。つまり、一つひとつの仕事が毎回真剣勝負です。組織に所属していても真剣勝負で仕事ができる人がほとんどでしょう。私にはそれが難しかったですが、今はフリーランスになったことで以前より臨床に集中できるようになったと思いますし、ほかの職種の皆さんとほどよい距離が取れるようになったと感じています。また自分を高めるための時間や費用も惜しまなくなりました。
好きなことは本気でやらなければ楽しくないと考えていますので、日々真剣になれる今の環境そのものが私のやりがいであり、モチベーションの源泉だと考えています。今の環境で仕事をさせていただいていることに本当に感謝しています。
最後にひと言
一人や少人数の職場で、寂しさや孤独感、頼りなさを抱えながら仕事をされている心理職の方もいると思います。しかし、青くさいことを言いますが、私たち心理職はみんな仲間です。組織ではチームで働く以上、さまざまな観点でほかの職種を意識することは避けられません。それでも、私たち心理職は同じ職場にいなくてもみんな仲間なんだという安心感をベースにしていただきたいと思っています。これからも無理なくいきましょうね。著者プロフィール
浅見大紀(あざみ・ひろき)
新潟大学農学部卒業後、経済産業省に入省するもすぐに辞めて東京学芸大学大学院へ。
修了後は成城リハビリテーションクリニック、和光病院、東日本大震災の支援活動(日本プライマリケア連合学会)、筑波大学、東北大学災害科学国際研究所を経て2016年1月に独立。
これまでの契約先として東松島市地域包括支援センター、医療法人医徳会、医療法人社団創知会、医療法人社団創福会、NPO法人語らいの家など。
ほかにも各地でもの忘れや認知症関連の講演、個人契約での訪問認知リハビリテーションなどを実施。
【本連載へのご意見&ご感想をお待ちしています】
本連載は、皆さまの「モヤモヤ」を語り合い、正体を明らかにし、解決につながる場所になればと考えております。ぜひ、ご意見やご感想、取り上げてほしいテーマなどを教えてください。
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