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トップページ こころJOB 最終回 心理職の働き方改革(後編)~これからの心理職として働き続けるために大切な5つのこと~|そのモヤモヤを一緒に解決しませんか?
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臨床心理士・公認心理師
にしむら

プレ公認心理師世代とポスト公認心理師世代の間で

いただいた感想で印象深かったのは、世代をめぐる観点でした。

あるベテランの方から「心理職の働き方が話題に上ること自体が職業として確立してきたからだと思う」との感想をいただきました。手本となる実践も資格もないなかで海外の文献を読み込み、手探りでクライアントと向き合い、現場の片隅から懸命に居場所をつくってこられたのだと思います。本当に頭が下がります。プライベートの時間を削りながら取り組まれてきた先輩方の実践が、私たちの働く場所をつくってくださったことは間違いありません

一方、若手の方からは「心理職も普通の職業の一つととらえている」との声もありました。学校では当たり前にスクールカウンセラーがいて、心理職が職業の選択肢にあり、キャリア初期に公認心理師を取得していく世代です。心理支援のノウハウは書籍や先輩方の実践から学ぶことができます。平成時代全体を指して “失われた30年”と呼ぶそうですが、豊かな日本を知らない世代ともいえるでしょう。彼らは、社会的成功を求めるよりも、自分らしい生き方、ワークライフバランスを重視する傾向があるようです。

誠に勝手ながら、ここでは前者を「プレ公認心理師世代(以下、プレ世代)」後者を「(ポスト公認心理師世代(以下、ポスト世代)と呼ばせていただきます。両者は同時に心理職として働きながら、生きてきた社会的背景も価値観も異なります。

プレ世代の目には、後輩たちが自由な働き方とプライベートの楽しみを求めることは物足りなく映るかもしれません。ポスト世代は、雇用が不安定なうえに自己研鑽にお金と時間がかかることに釈然としない思いをもつかもしれません。中間世代にある筆者はいずれにも共感する面があります。

プレ世代には、過去の経験と知恵を伝えていただき、これからもリードし続けてほしいと考えます。ポスト世代は、今の心理職の状況に至るまでの経緯を知ったうえで、従来の型にはまらず、自分たちがよりよくしていこうと希望をもってもらえればと思います。そして中間世代は、両世代の橋渡しをしつつ、働きやすい構造をどのようにつくるか、真剣に取り組む必要があるのではないでしょうか。今の不安定な雇用が継続すると、心理職を志す若者が減ることや、現任者が離れていくことも懸念されます。すると、クライアントへ安定したサービス提供ができず、職種の信頼性を損なうおそれもあります。並外れた努力や幸運がなくとも落ち着いて働ける環境をつくるため、世代を超えて連帯する姿勢が求められるでしょう。

正社員がなくなる? 新時代における心理職の可能性

より広い目でみれば「安定した雇用」自体が、これからの日本では考えにくいことも確かです。日本経済は停滞し続けており、格差社会の広がりがより明らかなのを感じているのは筆者だけではないでしょう。2016年に厚生労働省が発表した資料では「2035年には正社員がなくなる」との予測が出ています1)。具体的には、会社など組織が恒常的に人を抱えるのではなく、プロジェクト型の雇用、つまりプロジェクトごとに人材が出入りするような働き方が主体になっていくという内容です。第1回で示した常勤と非常勤の比較表はあくまで「所属していること」を前提としていました。これからは、第6回で寄稿いただいた浅見氏のような自立したフリーランスが主流になることも推測され、プロジェクトに臨機応変に対応できる人材が求められるかもしれません。またプロジェクトの企画とマネジメントができる人が重宝されることも予測されます。心理職が中心となってプロジェクトを展開することも面白そうですね。

これからの心理職として働き続けるために大切な5つのこと

モヤモヤと悩みっぱなしの筆者ですが、たいへん僭越ながら、これから心理職として働いていくための大切と思われることをまとめてみました。

①心理職としてのスキルを高めて価値ある存在になること

心理支援の対象は幅広く、各技法の専門性はより高まっています。「自分はこれができる」という強みをもつことはさらに重要となります。専門資格の取得、学会・論文発表、講演の経験など、見える形での成果はキャリアのマイルストーンになるでしょう。

②心理的支援以外のスキルをもって付加価値を上げること

唯一の専門性にこだわらないことが可能性を拡大すると思います。例えば、福祉、医療、教育等の関連領域の資格取得はもちろんのこと、Webデザインやプログラミングなど将来性があるもの、写真やイラストなど得意なことを活かしたスキルが挙げられます。これらは、現職での業務の発展、転職やフリーランス、開業を目指すうえでも有効と思われます。

③働くことに関する知識と情報を得ること

労働法や制度をよく理解せず不利な立場になることは避けなければなりません。困ったときは、労働局など公的な窓口や社会保険労務士に尋ねるのがおすすめです(第3回第4回記事参照)。特定の職場に関する情報は、心理職のコミュニティから得るのがよいでしょう。ほかに大事なことは、「やりがい搾取」に陥っていないかの自己チェックです。いくらクライアントが大切でも、安心して働けない環境での長居は無用です。とくに若いときの非正規雇用ではハラスメント被害に要注意です。また、長く働いているために不合理なローカルルールに縛られることや、自覚なく不文律を周囲の人に強いていることもあるかもしれません。同窓生や同僚など近い関係だけでなく、上下の異なる世代や複数のほかの職場・職域の方に客観的な意見をもらうことは、視野を広げてくれます。

④ネガティブなモヤモヤを一人で抱えないこと

ハラスメントに代表されるように、自分が不当な目にあい傷つくと、自覚することにもまた苦痛を伴います。違和感があったとき、我慢せず、相談をすることが大切です。「そんなの、心理職であれば当然そうするでしょう」とのお声、その通りです。しかし、筆者もさんざん他者には勧めてきましたが、自身のことでは相談をためらった経験があります。

⑤新しい分野に目を向けていくこと

今後の心理職の働き方として、他業種とのコラボレーションが選択肢となるでしょう。ここ数年、ITベンチャー、NPO法人、ヨガやフィットネスとの協働を目にするようになりました。厳しい社会状況のなか、心理的支援の潜在的なニーズは高いと思われます。従来の5領域(医療、教育、司法、福祉、産業)を軽やかに超えていくような、新しい心理的支援の形が現れるかもしれません。同時に、これまで通り、小さいカウンセリング室で、ベッドサイドで、地域の集いの場で、静かに紡がれる心理的支援という営みは変わらず存在し続け、一層の光を放つのではないでしょうか。

モヤモヤを変化の原動力に

皆さまと共にさまざまな角度から見てきたモヤモヤの正体、筆者の答えは「社会」でした。具体的にいうと、モヤモヤは、心理職の不安定な雇用と社会的な立場によって生じており、背景には、心理的支援が普及していない現状、メンタルヘルスへの偏見、ジェンダー格差、女性が働き続けることが難しい構造、日本経済の停滞が影響をしていると考えました。もちろん、内省をすることは重要ですが、自分の内面や特定の個人や組織に原因を求めていくと、堂々めぐりで、モヤモヤは増すばかりではないでしょうか。

「社会が原因なら変わらない」とは思いません。日本初の有料のカウンセリング機関の開設は1980年だそうです。今では、各地にカウンセリングオフィスが存在します。日々、多くの心理職が悩みながらクライアントの支援を続けています。目立たず地味で、ほかの対人支援に関する専門職よりも少数で、支援の効果はデータにはっきり現れるものではないかもしれません。しかし、確実に心理職は社会にコミットし、重要な役割の一端を担ってきたはずです。思い切って書かせていただくと、「社会は変わっていく」と思いますし、ポジティブに変えていくのは一人ひとりの力だと信じています

まずは、個人的なモヤモヤを言葉にして、信頼できる人と分かち合うこと、不当な扱いには声を上げることから始めましょう。心理職同士が力を合わせていくことが、ポジティブな変化をもたらすのではないでしょうか。

ご自分の働き方に満足していますか? 苦しんでいる人は見かけませんか? あなたのできること、私のできることは何でしょうか?

一人ひとりの働き方が、心理職の働き方を良い方向に変えていくと思います
お読みいただきありがとうございました。また何かの機会にお目にかかれましたら大変うれしく思います。
まもなく訪れる2022年が、心理職の働き方改革の大切な一年になりますように。

 

引用・参考文献
1)厚生労働省 2016年8月「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会.「働き方の未来2035~一人ひとりが輝くために~」報告書.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000133449.pdf(2021年12月28日閲覧)
2)皆藤章.恩師を語る:〈なにもしない〉ことに全力を注げ生きている〈あなた〉一人ひとりを見つめつづけた臨床家.京都大学広報誌:紅萌.2017年秋号.
https://www.kyoto-u.ac.jp/kurenai/201709/onshi/(2021年12月5日閲覧)




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