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トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【連載】CDCガイドラインニュース「ワクチン未接種者での破傷風」

矢野邦夫先生に「ワクチン未接種者での破傷風」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。


ワクチン未接種者での破傷風 


CDCの週報(MMWR)に破傷風の症例報告があった。この症例は破傷風トキソイド未接種の米国外で生まれた人であった。日本でも1972(昭和47)年9月30日以前に生まれた人はまったく接種していないので、破傷風に罹患する危険性がある。明日にでも同様の症例を経験するかもしれないので、この報告を紹介する[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/pdfs/mm7224a5-H.pdf]。

症状

 2022年6月、42歳のメキシコ生まれの男性建設労働者(英語を話せない)がオレゴン州の救急部門を受診した。彼は開口困難と背中、腕、首の疼痛が2日間続いていた。静脈内輸液とジアゼパムを投与した後、症状が改善したので退院した。翌日、症状が悪化したため、別の救急部門を受診したが、再び静脈内輸液とジアゼパムの投与後に退院した。数時間後に、彼は咬痙と全身痙攣で再診し、その時点で破傷風の臨床診断がなされた。最初の2回の受診時にはワクチン接種歴は記録されなかった。3回目の救急部門受診時に、家族は彼が最近仕事で釘を踏んだことと、彼には破傷風のワクチン接種歴がないことを報告した。

治療

 入院後、静脈内メトロニダゾール、破傷風免疫グロブリン、Tdap(破傷風・ジフテリア・百日咳の混合ワクチン)が投与された。その後すぐに呼吸困難となり、挿管され、大病院の集中治療室に移された。13日目に気管切開が実施され、集中治療室に45日間滞在したが、48日目に抜管された。退院時(50日目)には会話や飲食、短距離を歩くことができる状態となった。

破傷風

 破傷風は、土壌に一般的に存在し、開放創から侵入する嫌気性の芽胞形成グラム陽性菌であるClostridiumtetaniが分泌する神経毒素によって引き起こされる。破傷風はしばしば生命にかかわる病状を呈し、回復するまでに数ヵ月の医療ケアが必要となることがある。CDC は、破傷風のワクチン接種歴がない成人に対して、破傷風トキソイドを含むワクチンを接種することを推奨している。

考察

 移民労働者は破傷風に罹患するリスクが高い。彼らの職業上の怪我のリスクは、米国生まれの労働者の2倍であることが示されている。COVID-19パンデミックによるワクチン接種率の低下に伴い、医療従事者は予防可能な疾患の再興を警戒する必要がある。

 また、移民はワクチン接種率が低く、予防可能な疾患の発生率も非移民よりも高いことを医療従事者は認識する必要がある。米国でのワクチン接種率は、米国外で生まれた成人の方が米国内で生まれた成人よりも有意に低い。アメリカ大陸全体では、国ごとのワクチン接種スケジュールは近年ほぼ同等になり、子どもや若者では高い接種率が確保されているが、成人での接種率は低いままである。米国の医療従事者は、米国外で生まれた患者での予防可能な疾患に対して特に警戒し、推奨されるワクチンを接種する機会を逃さないようにする必要がある。

 さらに、医療従事者と患者間のコミュニケーション不足は治療の遅延を引き起こす可能性がある。この報告に記載されている患者は、3回目の救急部門の受診までワクチン接種歴が聴取されておらず、破傷風と診断されてから初めてワクチン接種歴が記録された。この症例は「コミュニケーションの実践」「深刻でまれな予防可能な疾患への警戒」「ワクチン接種歴の早期の確認」「移民でのワクチン接種率の低さを認識すること」の重要性を示している。ワクチン接種を受けていない人には、迅速にワクチン接種を提供するべきである。

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*INFECTION CONTROL32巻11月号の掲載予定の先行公開記事となります。

*本記事の無断引用・転載を禁じます。