技術(Technology)と信頼(Trust)の“TT”
コンサルタントになるな、主治医であれ
私の背骨は、当時2連直がデフォルトであった東京の公立昭和病院の救急部で鍛えられました。そこで恩師から授かったのは、「コンサルタントになるな、主治医であれ」という名言。家族に寄り添い、信頼される「主治医」であること。これが医療の核だと叩き込まれました。
気管挿管チューブのテープの貼り替え
「自分、結構イケてる小児科研修医かも」という根拠のない自信を持って異動してきた長野県立こども病院PICU。しかし、指導医から放たれた「君たちのことは1ミリも信用していない」という一撃と重症呼吸不全の女児に何もできないことで、私のプライドは秒で崩壊しました。 私のできることは、挿管チューブのテープの貼り替えでした。しかし、この「自分は無力だ」という思いが、新しい知識を吸収するための「心の空白」を作ってくれたと思います。
臨床も研究も「ぼっち」ではムリ
PICUの後、NICUに移動した私は、ヘリウムガスを使った臨床研究にチャレンジしました。窒素の代わりに密度の小さいヘリウムを使えば早産児の呼吸が楽になるはず。一人で産前の両親に同意を取りに走り、すべての出産に立ち会う……「研究もイケてる自分」を気取っていましたが、結果は惨敗。論文化にも至らず。また、時を同じくしてNICUでの単独主治医制の崩壊。教訓はシンプル。「臨床も研究も、チームでやらなきゃ無理」。そんな時に出会ったNAVAという新技術。「これは面白そうだ」と直感しました。
人工呼吸器じゃなくて椅子を買いなさい
2016年、NAVAを学ぶためフィンランドへ留学。しかし、そこで見たのはNAVA以上に衝撃的なfamily centered care(FCC)でした。 個室のNICU では、挿管中の赤ちゃんの隣で親が笑顔。二人いる恩師の一人は、NAVA管理の早産児に対して「Trust baby !」と言い、もう一人は個室の安全性を問うた時に「Trust parents 100%!」と答えました。医療は医療者と患者・家族の「信頼」で成り立っていると
いう原点に再び立ち返らせてくれました。帰国後その恩師たちを長野県立こども病院に招いたとき、「アラタ、人工呼吸器じゃなくて両親のために椅子を買いなさい」というこれまた名言。その辺りの話を聞いた後輩がフィンランドに留学し、FCCの教育プログラム(CCトレーニング)を日本で推進し、再びフィンランドの恩師たちと仕事をする機会をくれました。
Technology とTrust
最新技術はエキサイティングで素晴らしいですが、それだけでは、命は救えても、患者・家族のHappyには必ずしもつながりません。技術(私にとってはNAVA)と、家族への信頼(私にとってはFCC)。この両輪が揃って初めて、赤ちゃんと家族のHappyに結び付く。それを実証したいと思っています。
長野県立こども病院 新生児科 部長
小田 新
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
写真は秋に職場のみんなとBBQをやったときのもの。地元松本のアウトドアメーカーのタープが映えます。
す!がおのひとこと
そして、働くわれわれのHappyも同じく大切です。患者・家族もわれわれ医療者もHappyになれる、そんな職場や家庭を目指したいと思っています。「すみません」より「ありがとう」が飛び交う現場。「産休」が「Thank you」になり、「育休」も「行ってQ!」になる職場。そして、趣味でもある「BBQ専門医制度」の創設を企んでいます。独りよがりの塊肉を焼くオレ様BBQではなく、家族にも喜ばれるBBQレシピ30例を目指しています。
本記事は『with NEO』2026年5号の連載「新生児医療の あ!のひと」からの再掲載です。