矢野邦夫先生に「保育施設で麻疹アウトブレイク」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
*INFECTION CONTROL35巻9月号の掲載の公開記事となります。
「保育施設で麻疹アウトブレイク」
2025年、米国では2000年の麻疹排除宣言以降で最多となる麻疹患者数が報告された。中でも、テキサス州ラボックの保育施設で発生したアウトブレイクは、保育施設における迅速な公衆衛生対応とワクチン接種の重要性を示す事例となった。CDCが詳細を報告しているので紹介する[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/75/wr/pdfs/mm7521a1-H.pdf]。
発端症例の発症と診断へのプロセス
今回のアウトブレイクの端緒となったのは、2025年3月21日にラボック公衆衛生局に報告された3歳の幼児である。この児は3月15日に発熱し、その後、咳嗽(cough)、鼻漏(coryza)、結膜炎(conjunctivitis)という、いわゆる麻疹の典型的症状である「3つのC」を呈した。さらに、3月20日には全身に発疹が出現し、中耳炎や下痢といった合併症も伴っていた。麻疹ウイルス感染は、RT-PCR(reverse transcription PCR、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)検査によって確定された。この症例はワクチン免除を取得した未接種者であった。
臨床現場で注意すべき点は、診断に至るまでのタイムラグである。この児は発症初期の3月17日まで登園しており、この時点ですでに感染力をもっていた。3月21日の午前中にはドライブスルー形式のクリニックでレンサ球菌感染症の検査を受けていたが、その日の午後に救急外来を受診して初めて麻疹の検査が実施された。最終的に陽性結果が判明したのは3月24日であり、施設に通知されたのはその翌日であった。
施設内での感染拡大
発端症例の判明後、同じ施設に通う児やその家族へと次々に感染が拡大した。この施設には職員48人、園児287人、12ヵ月未満の乳児39人が在籍していた。最終的に、小児7人と成人1人(41歳男性)の計8人が感染し、全員がRT-PCR検査で陽性と判定された。特筆すべきは、感染した小児のうち3人が、ワクチン定期接種の対象年齢に達していない生後12ヵ月未満の乳児であったことである。
患者の中には、典型的な「3つのC」以外にも、口腔粘膜にコプリック斑を呈した例や、肺炎を合併した4歳の児も含まれていた。また、曝露から3日以内に曝露後予防投与(postexposure prophylaxis, PEP)としてワクチン接種を受けたものの、症状出現のわずか3日前の接種であったために発症を防げなかった症例も報告されている。
公衆衛生上の介入
ラボック公衆衛生局と保育施設は、アウトブレイクの拡大を防ぐため、多面的な感染対策を実施した。ラボック郡におけるMMR ワクチン接種率は、1~3歳児で82%、4~5歳児で90%にとどまっていた。一方、当該保育施設では、12ヵ月以上の児におけるMMRワクチン接種率は96%と高かったものの、10人の児が信念にもとづく理由などにより接種免除を受けており、この未接種群から3人の感染者が発生した。公衆衛生当局は、曝露した未接種児に対し、最終曝露日から21日間の自宅待機を求めた。
さらに、特筆すべき対策として、生後6ヵ月未満の乳児を守るためのクラス分離があげられる。乳児を専用の出入り口をもつ1つの教室に集め、担当職員を固定して他クラスとの接触を最小限に抑えた。また、テキサス州当局は緊急措置として、通常は12ヵ月以降に行うMMRワクチン接種を、流行地域内の生後6~11ヵ月の乳児に対しても早期接種するよう勧告を出した。
集団免疫の重要性
麻疹はきわめて感染力が強く、免疫をもたない集団では1人の患者から接触者の約90%が感染する。この伝播を防ぐには、地域のワクチン接種率を95%以上に維持し、集団免疫を確立することが重要である。しかし、ラボック郡では近年、信念にもとづく接種免除の割合が増加しており、感染拡大の背景となっている。MMRワクチン2回接種の予防効果は97%と高いが、未接種者が存在する環境ではウイルス侵入後に急速な拡大が起こり得る。臨床現場では、疑い例の早期発見と、公衆衛生当局や施設管理者と連携した隔離、PEP、情報共有を迅速に行うことが重要である。
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*INFECTION CONTROL35巻9月号の掲載の先行公開記事となります。
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