金城武士先生(琉球大学大学院 医学研究科 微生物学講座 教授)に「レジオネラ症の感染対策~レジオネラ症防止指針(第5版)のエッセンス~」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
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レジオネラ症の感染対策~レジオネラ症防止指針(第5版)のエッセンス~
はじめに
レジオネラ属菌は環境中に普遍的に存在し、温泉やレジャー施設などの人工水系から基準値を超えて検出され報道されることも少なくないことから、われわれにとって身近な細菌といえる。レジオネラ症は建築設備の多様化や人工環境の拡大を背景として、近年増加傾向にある。医療関係者のみならず、多数の人が利用する施設の管理者・経営者・技術者、さらには行政担当者など、建築物衛生に関与する者が本症の予防に関する知識を有することが重要であることから、1994年に日本建築衛生管理教育センターより『レジオネラ症防止指針』(以下、指針)が刊行された。その後、これまでに4度の改訂が行われ、2024年9月には第5版が発刊された[1]。本稿では、指針第5版の要点をまとめつつ、主にレジオネラ症の予防に焦点を当てて解説する。
レジオネラ属菌とは
歴史
1943年、米国軍隊内で原因不明の熱性疾患の小規模な流行が発生した。軍医のTatlockは患者の血液をモルモットに接種して、マキャベロ染色でよく染まるリケッチア様の桿菌を見出したが菌の培養には至らなかった(この菌はのちにLegionella micdadeiと同定された)。それから30年以上が経過した1976年7月、米国ペンシルベニア州フィラデルフィア市のホテルで米国在郷軍人会(The American Legion)の支部総会が開催された。ここで原因不明肺炎の集団発生があり、221人が肺炎を罹患し、29人が死亡した。米国のリケッチア学者McDadeがモルモットを介してTatlockと同様の菌体を確認し、ヒメネス染色でよく染まる桿菌を分離した。今回は人工培地での発育に成功し、新しい属「Legionella」と新しい種「Legionella pneumophila」が命名された。レジオネラ属菌はブドウ糖非発酵の好気性グラム陰性桿菌であり、L. pneumophilaの発見以降、次々と新しい菌種が発見されており、現在66菌種が登録されている。また、L. pneumophilaはリポ多糖抗原の違いにもとづき15の血清型に分類されている。
分布
レジオネラ属菌は河川、池、沼、土壌など自然界に広く分布し、特に環境中ではアメーバなどの原虫や藻類内で増殖し、共生関係を形成している。日本各地の表層部土壌を調査した研究では、1,362検体中86検体(6.3%)でレジオネラ属菌が分離され、最も多かったのは、L. pneumophila血清型1で全体の25.9%を占めた[2]。また中国で行われた調査では、河川、湖、池などの水検体の22%(129/575)、鉢植えや庭先の土などの土検体では9%(41/442)からレジオネラ属菌が検出されており[3]、レジオネラ属菌はわれわれの身の回りに広く生息していることが分かる。自然環境におけるレジオネラ属菌の検出状況とは対照的に、20℃以上、特に36℃前後の水が停滞または循環する人工環境水ではレジオネラ属菌がさらに高率に検出され、国内外の調査ではいずれも60%前後の検出率となっている。人工環境水の種類によって検出されるL. pneumophilaの血清型に違いがあり、2000~2002年に日本で実施された調査[4]では、冷却塔水からは圧倒的に血清型1が多い(55%)一方、温泉水・循環式浴槽からは血清型5、6が比較的多く検出されている(15~20%)。
レジオネラ症の臨床病型と発生動向
レジオネラ症の原因菌種で最も多いのはL.pneumophilaであるが、これ以外に少なくとも26菌種がヒトに病原性を示す。原因菌種には地域差があり、ニュージーランドやオーストラリアではL. longbeachaeの検出率が高いことが知られている[5]。エアロゾルや粉じん吸入でヒトに感染し、ヒト体内では肺胞マクロファージに寄生して増殖する。レジオネラ症の臨床病型にはレジオネラ肺炎と、肺炎には至らずインフルエンザ様症状を呈して自然治癒するポンティアック熱の2つがあり、潜伏期は前者では2~10日、後者では12時間~3日である。日本では1999年に感染症法が施行され、本症は四類感染症の全数把握疾患となった。2000年頃は100例前後だったが近年は増加傾向であり、2024年は2,419例と最多を更新している。
レジオネラ症の一次予防
レジオネラ症の対策は、平常時の対策と患者発生時の対応に分けられ、一次予防(感染の未然防止)、二次予防(早期の診断・治療)、三次予防(感染拡大の防止)からなる。米国CDCの医療施設対象のレジオネラ症防止指針[6]では、院内感染事例が発生していない場合の対策(一次予防)として、レジオネラ症に関するスタッフ教育、環境サーベイランス、医療器具や院内環境への対応が示されている。環境サーベイランスとは、骨髄・臓器移植患者などの免疫不全患者がいる施設においては院内水系の定期的なレジオネラ環境調査を実施することである。医療器具や院内環境への対応とは、基本的にレジオネラ属菌による汚染を低減することであり、以下が含まれる。
医療器具や院内環境への対応
① レジオネラ属菌の増殖およびバイオフィルム生成の防止
水が停留しにくい構造にする、水に殺菌剤(次亜塩素酸、モノクロラミンなど)を添加したり、加温したりするなど微生物活性を抑制する方法がある。加温殺菌は60℃では5分間、55℃では60分間で浮遊性菌は殺菌できるが、バイオフィルムを形成したレジオネラ属菌を完全に殺菌するためには75℃まで温度を上げる必要がある。給湯系の加温殺菌では水温を70~80℃まで上げるがその効果は一時的であり、できるだけ高温で時間を長くすることが望ましい。
② 設備内に定着するバイオフィルムなどの除去
ブラシなどによる物理的除去、あるいは過酸化水素などの薬剤を使用する化学洗浄がある。
③エアロゾルの発生抑制
冷却塔型式の選定(丸形は角型より飛散水量が約10倍多い)、エリミネータ(除滴板)の強化、設置場所を工夫するなどの方策がある。
④ エアロゾルとともに飛散したレジオネラ属菌の空調システムへの侵入防止
施設の建設に際しては、冷却塔はできるだけ外気取り入れ口から離れた場所に設置するよう設計する。また、空調機に中性能以上のエアフィルタを設置することで、菌を捕集することができる。
レジオネラ感染危険度のスコア化
感染源だけでなく、レジオネラ症の発症にはさまざまな因子が関与する図1[1]。これらの因子を考慮して、指針では感染危険度をスコア化する方法が示されている。レジオネラ感染危険度のスコア化は1999年発行の「新版 レジオネラ症防止指針」で初めて提案されたものであるが、第5版ではWHO や米国CDCからの報告を参考に改訂が加えられている。スコアは感染危険度の目安であり、絶対的な安全性や危険性を示すものではないが、自施設・設備の感染危険度の把握や対応策の立案に活用できる。指針には、感染危険度スコア化の具体例と求められる対応についても記載されている。
図1 レジオネラ感染症の発症に関わる諸因子(文献1より作成)
レジオネラ症の二次予防(早期診断)
塗抹検査と特殊染色によるレジオネラの検出
レジオネラ症の診断に用いられる検査には、塗抹検査、培養検査、尿中抗原検査、遺伝子検査などがある。グラム染色は感染症診療においてまず行われる塗抹検査であるが、喀痰などの臨床検体中のレジオネラ属菌はグラム染色では染色されにくい。その理由はグラム染色液の細胞内移行性が悪く細胞内寄生菌である本菌の染色は困難なためである。レジオネラ症を疑った場合にはヒメネス染色などの特殊染色も追加して検査する。なお、ヒメネス染色はリケッチアの染色法であるが、細胞内のレジオネラ属菌を容易に観察できることから本菌の染色法として頻用されている。
培養検査の特徴と位置付け
培養検査は血清型や菌種を問わずすべてのレジオネラ属菌を検出できるため、診断のゴールドスタンダードに位置付けられている。感度は20~80%と報告によって幅があるが、特異度は100%である。熱処理か酸処理後の検体をレジオネラ用の特殊培地(BCYEa and/or WYOa寒天培地)に塗布し35~37℃の湿潤環境で3~10日間、好気培養する。通常3~5日程度でコロニーを確認することができるがL.pneumophila以外の菌種ではさらに数日を要する遅発育菌がいる。
尿中抗原検査と遺伝子検査の有用性と限界
尿中抗原検査はレジオネラ症の診断において頻用されている検査法であるが、L. pneumophila血清型1を検出する尿中抗原検査の診断性能を評価したメタアナリシス論文では、L. pneumophila血清型1によるレジオネラ症診断の感度は86%、特異度は100%と報告されている[7]。
日本では2019年からL. pneumophilaの血清型1~15を検出できる尿中抗原検査「リボテスト®レジオネラ」が利用できるようになっている。尿中抗原検査はベッドサイドで実施でき、迅速に結果が得られる簡便な方法であるが、軽症例では陽性率が半減すること[8]、対象抗原以外の血清型や菌種は検査できないなどの限界がある。
われわれが実施した全国調査では、レジオネラ症が疑われる患者にまず行う検査は尿中抗原検査(93%)であったが、検査結果が陰性だった場合にそれ以上の検査を行わないと回答した医師が63%に上った[9]。尿中抗原検査一辺倒では多くのレジオネラ症を見逃す可能性があり、海外の検討では、尿中抗原検査に加えて遺伝子検査や培養検査も組み合わせて積極的に検査を行うと、実際のレジオネラ症患者数は10倍以上になるという報告もある[10]。遺伝子検査の感度は93~97%で尿中抗原検査より優れており[11]、日本で保険収載されているLAMP法(すべてのレジオネラ属菌を検出可能)などの遺伝子検査をもっと有効活用すべきである。
レジオネラ症の三次予防(感染拡大と再発の防止)
レジオネラ症はヒトからヒトへは感染しないため、感染拡大を防止するには汚染源を迅速に特定し、適切な対策を施すことが重要である。レジオネラ症は感染症法において四類感染症に位置付けられており、レジオネラ症を診断した医師はただちに保健所に届け出る。保健所は医師からの届出にもとづき、レジオネラ属菌による感染拡大や汚染源を特定するため、感染症法第15条にもとづきすみやかに、医師の協力のもと患者や家族への聞き取り調査を行い、患者の喀痰などの臨床検体(あるいは菌株)確保を依頼する。また、患者の行動歴や施設利用歴などから感染源の疑いがある施設が特定された場合には、感染症法第35条にもとづいて感染源特定のための施設調査を行う。そして、施設調査によりレジオネラ属菌が検出された場合、新たな患者発生の防止やまん延を予防するため、感染症法第27条および第29条にもとづき、施設管理者に掃除・消毒に関する措置を命令するとともに、状況に応じて施設の使用自粛を要請する。
最後に
レジオネラ症は発症してから治療するだけの感染症ではなく、水環境の管理と密接に関係する“予防可能な感染症”である。日常の感染対策や環境管理の積み重ねが、結果として患者の発生を未然に防ぐことにつながる。指針(第5版)は、そのための具体的な考え方と実践方法を整理した実用的な手引き書といえる。レジオネラ症対策は特別な対応ではなく、日常の感染対策の延長として継続して取り組むことが重要である。
【引用・参考文献】
1) レジオネラ症防止指針編集委員会.第5版レジオネラ症防止指針.東京,日本建築衛生管理教育センター,2024,184p.
2) 古畑勝則ほか.土壌からのレジオネラ属菌の分離状況.日本防菌防黴学会誌.30(9),2002,555‒61.
3) Zhan, XY. et al. Presence of Viable, Clinically Relevant Legionella Bacteria in Environmental Water and Soil Sources of China. Microbiol Spectr, 10(3), 2022, e0114021.
4) 国立感染症研究所感染症情報センター.レジオネラ症.病原微生物検出情報(IASR).24(2),2003,27‒8.
5) Chambers, ST. et al. Legionellosis Caused by Non-Legionella pneumophila Species, with a Focus on Legionella longbeachae. Microorganisms. 9(2), 2021, 291.
6) CDC. Guidelines for preventing health-care-associated pneumonia, 2003:Recommendations of CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee(HICPAC). MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 53(RR03), 2004, 1‒36.
7) Kawasaki, T. et al. Diagnostic accuracy of urinary antigen tests for legionellosis:A systematic review and meta-analysis. Respir Investig. 60(2), 2022, 205‒14.
8) Yzerman, EP. et al. Sensitivity of three urinary antigen tests associated with clinical severity in a large outbreak of Legionnaires’ disease in The NetherlandsJ Clin Microbiol. 40(9), 2002, 3232‒6.
9) Kinjo, T. et al. National survey of physicians in Japan regarding their use of diagnostic tests for legionellosis. J Infect Chemother. 2022. 28(2), 129‒34.
10) von Baum, H. et al. Community-acquired Legionella pneumonia:new insights from the German competence network for community acquired pneumonia. Clin Infect Dis. 46(9), 2008, 1356‒64.
11) Avni, T. et al. Diagnostic Accuracy of PCR Alone and Compared to Urinary Antigen Testing for Detection of Legionella spp.:a Systematic Review. J Clin Microbiol. 54(2), 2016, 401‒11.
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*INFECTION CONTROL35巻5月号の掲載の先行公開記事となります。
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