MENU
新規会員登録・ログイン
トップページ 新生児・小児/助産/ウィメンズヘルス Cure&Care&Nursing 先輩助産師との出会いと別れが道しるべに|稲田千晴|Roots|#031

日本赤十字看護大学 母性看護学・大学院国際保健助産学

稲田千晴


 私には、助産師を志望した誇れる理由がありません。学生時代、ぼんやりとした憧れのようなものはありましたが、勉強もせず遊んでばかりで、自分がこれほど長く助産師を続ける未来は想像していませんでした。

 そんな私が現在も助産師を続けることができているのは、プリセプターだった先輩助産師との出会いと別れがあったからです。彼女は笑顔が素敵な聡明な助産師で、誰からも慕われ、信頼されていました。ただ、仕事には厳しく、就職して半年ほど、私は彼女とほぼ同じシフトで働き、彼女から毎日のように「観察が足りない」「判断が遅い」「ケアが美しくない」「お母さんと赤ちゃんに優しくない」と怒られていました。後から知ったことですが、毎日シフトが一緒だったのは彼女の想いからで、今では感謝しかありませんが、当時は毎日が修行のようでした。

 とはいえ、プライベートではお酒が好きな優しい人でした。仕事終わりは飲みに誘われ、飲みすぎて自宅に帰らず彼女のアパートに泊まったり、夜勤明けにそのまま遊園地に行き、ビールを飲んでジェットコースターで大騒ぎしたり、仕事以外でもいつも一緒にいました。

 ところが、突然先輩は病に倒れ、ほどなく旅立ってしまいました。そこから、私の助産師としての旅が始まりました。いつからか、母子に向き合うときに、決まって彼女の声が聞こえるようになりました。「よく見たの?」「診断は?」「このケアは今のベスト?」―優しい笑顔で母子に触れる彼女の姿も思い出され、何度もピンチを救ってもらいました。そして、その問いに導かれるように助産師を続けていました。

 現在、私は彼女のRootsである学舎で助産の教員をしています。人に教えるのが不得手な私が教職に就いていることも、きっと彼女の導きだと思います。そして、真面目なこころざしのある学生さんを前に、私はいまだに彼女の問いに応え続ける日々を過ごしています。「私はあなたのような助産師に近づいていますか?」



本記事は『ペリネイタルケア』2026年8月号の連載Rootsからの再掲載です。