三重大学 みえの未来図共創機構 感染症みらい社会教育研究センター 教授/三重大学医学部附属病院 感染制御部 部長 田辺正樹先生に「2026年度診療報酬改定の要点」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
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2026年度診療報酬改定の要点
はじめに
2026年度診療報酬改定が公表された。診療報酬改定は2年ごとに実施されるが、通知や疑義解釈を含めた関連資料は膨大であり、全体像を把握することは容易ではない。感染対策担当者にとって、感染対策・抗菌薬適正使用関連業務や感染対策向上加算等の施設基準の変更は日常業務に直結するため、要点を整理して理解することが重要である。本稿では、診療報酬の改定内容の確認方法を整理するとともに、感染対策の実務に影響の大きいポイントについて概説する。
診療報酬改定資料の確認方法
診療報酬改定の内容は、厚生労働省ウェブサイト「令和8年度診療報酬改定について」[1]で確認できる図1[1]。まず、図1-①[1]にある「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」を進み、図1-②[1]にある説明資料「令和8年度診療報酬改定の概要」にて全体像を把握する。今回、感染症分野は大きな改定がないため、(がん・難病・感染症)の枠組みで掲載されている図1-③[1]。
図1 令和8年度診療報酬改定ウェブサイト(診療報酬改定の概要確認)(文献1より引用)
本資料では、薬剤感受性検査の算定要件の明確化、微生物学的検査体制加算の新設、感染症の入院患者に対する個室・陰圧室管理の対象疾病の範囲の拡充などが示されている。このようなポンチ絵(全体像を示した概念図)は、概要の把握には有用であるが、医科点数や留意事項などの詳細は、診療報酬算定の医科点数表(図2-①、②[1])を確認する必要がある。また、基本診療料の施設基準等については、「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(図2-③[1])を参照する。
たとえば図1-③[1]の「薬剤感受性検査の算定要件の明確化」については、図2-①[1]の医科点数表を検索することで、1菌種185点、2菌種240点、3菌種310点、薬剤耐性菌検出50点、抗菌薬併用効果スクリーニング150点であることが確認できる。さらに、図2-②[1]の医科点数表を用いることで、表1[1]のように詳細な算定要件を把握することができる。
図1-③[1]で示されている感染対策向上加算1に関連し新設された加算「微生物学的検査体制加算の新設」については、図2-③[1]「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」を参照し検索を行うことで確認できる。具体的には、感染対策向上加算1、2、3の後に「指導強化加算」「連携強化加算」「サーベイランス強化加算」と並ぶ形で追記されている。
感染対策向上加算に追加して算定可能な加算は、加算1の届出を行っている施設では、「指導強化加算」と「微生物学的検査体制加算」、加算2または加算3の届出を行っている施設では、「連携強化加算」と「サーベイランス強化加算」となる。
感染防止対策加算が感染対策向上加算に変更となった令和4年(2022年)の改定のように、改定の目玉となる場合には変更点を把握しやすい。一方で、今回の「微生物学的検査体制加算」の追加のような改定では、個々の改定項目や施設基準を確認し、必要な届出を行うことが重要となる。このような見落としを防ぐための資料として、図2-④[1]に施設基準届出チェックリストがある。要件変更や新設など、厚生局への届出に必要な施設基準一覧が掲載されているため、あわせて確認しておきたい。【病院用】では、項目番号27に、「感染対策向上加算1の注3に規定する微生物学的検査体制加算」、項目番号111に、「ウイルス・細菌核酸及び薬剤耐性遺伝子多項目同時検出」が記載されている。
図2 令和8年度診療報酬改定ウェブサイト(施設基準等の詳細確認)(文献1より引用)
表1 薬剤感受性検査の算定要件(文献1より引用)
感染症の入院患者に対する個室・陰圧室管理の対象疾病の範囲の拡充
令和6年(2024年)度診療報酬改定において、「特定感染症入院医療管理加算」(治療室の場合200点、それ以外の場合100点)が新設、「特定感染症患者療養環境特別加算」(個室加算300点、陰圧室加算200点)が改定された[2,3]。これまでの対象疾患は感染症法にもとづく感染症で構成されていたが、感染対策上重要であるものの感染症法の類型には含まれていないクロストリジオイデス・ディフィシル感染症(Clostridioides difficile infection, CDI)と基質特異性拡張型β‒ラクタマーゼ(extended spectrum β‒lactamase, ESBL)産生腸内細菌目細菌が対象に加えられた。両者はいずれも臨床現場において接触予防策の対象となる感染症であり、感染対策の実態を反映した改定と考えられる。
抗菌薬適正使用体制加算におけるAWaRe分類の集計方法の変更
令和6年(2024年)度診療報酬改定において、外来における抗菌薬適正使用推進の観点から、外来感染対策向上加算および感染対策向上加算に追加して算定可能な加算として、「抗菌薬適正使用体制加算」が導入された[2]。直近6ヵ月において外来で使用する抗菌薬のうち、Access抗菌薬に分類されるものの使用比率が60%以上、またはサーベイランスに参加する医療機関全体の上位30%以内であることが算定要件となっている。しかし、Access比率が60%を超えている施設は病院・診療所ともにまだ少なく、実際には上位30%に入るかどうかが算定の可否を左右する状況にある。診療所については診療所版J-SIPHE(OASCIS)のウェブサイト[4]、病院についてはJ-SIPHE(Japan Surveillance for Infection Prevention and Health-care Epidemiology) のウェブサイト[5]にて結果が公開されている。
抗菌薬適正使用体制加算は、アウトカムを評価する指標として画期的な診療報酬といえるが、AWaRe分類にもとづき抗菌薬使用量を評価する点には課題もある。外来抗菌薬使用に関して、年齢階級別にセファロスポリン系・キノロン系・マクロライド系抗菌薬の投与日数と投与量との関連性を検討した研究では、65歳以上の高齢者群において、1年間に91日以上の長期間マクロライド系抗菌薬が投与された患者は11.2%に過ぎない一方で、総使用量の66.4%を占めていることが示された[6]。
抗菌薬がAMRに与える影響の観点から、AWaRe分類と使用量にもとづく評価は妥当と考えられるが、診療報酬として各医療機関の抗菌薬適正使用を評価する際には、診療特性の影響も考慮する必要がある。このような背景から、日本の診療の実態に即した評価方法が検討され、14日以上の処方はマクロライド系、テトラサイクリン系、スルファメトキサゾール/トリメトプリム、リファキシミンといった特定の抗菌薬に多くみられることが示された。これらは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)・びまん性汎細気管支炎(DPB)に対するマクロライド系抗菌薬、あるいは肝性脳症における高アンモニア血症に対するリファキシミン投与など、ガイドラインで推奨される治療である可能性が示された図3[7]。
上記の検討の結果、令和8年(2026年)度より、①リファキシミンは、その大部分が肝性脳症・高アンモニア血症に対する処方と考えられ、基本的に適正使用と判断されるため集計対象から除外された。②テトラサイクリン系、ST合剤、マクロライド系、フルオロキノロン系の4カテゴリの経口薬については、同一月内の同一薬剤の処方日数の合計が14日以上となる場合、14日分相当の使用量として換算して集計されることとなった。
これらの変更により、上記薬剤の使用頻度が高い医療機関ではAccess比率が変動する可能性がある。そのため、自院の抗菌薬使用状況を改めて確認し、院内における抗菌薬適正使用の推進に活用することが望まれる。
図3 AWaRe分類に基づく抗菌薬使用動向の実態(文献7より引用)
【引用・参考文献】
1) 厚生労働省.令和8年度診療報酬改定について. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
2) 厚生労働省.令和6年度診療報酬改定について.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html
3) 田辺正樹.2024年度の診療報酬改定における疑問―改定のポイントと今後私たちが行うべきことは何?―.INFECTION CONTROL.33(8),
2024,22‒7.
4) AMR臨床リファレンスセンター.診療所版J-SIPHE.OASCIS ウェブサイト.https://oascis.jihs.go.jp/publish-infomation
5) AMR 臨床リファレンスセンター. J-SIPHE ウェブサイト.https://j-siphe.jihs.go.jp/
6) Yamasaki, D. et al. Impact of long-term macrolide therapy on the evaluation indicator of outpatient oral antimicrobial use according to the
AWaRe classification. J Infect Chemother. 31(2), 2025, 102491.
7) 厚生労働省.第99回厚生科学審議会感染症部会.資料4. 2025年10月22日.https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_64503.html
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*INFECTION CONTROL35巻8月号の掲載の先行公開記事となります。
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