提供:メドライン・ジャパン合同会社
はじめに:CLABSIからCABSIへのパラダイムシフト
2025年、米国感染管理疫学専門家協会(Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology, APIC)より『CABSI Implementation Guide』が発行された。中心ラインだけでなく、末梢ラインも含めたすべての血管アクセスデバイスに関連するカテーテル関連血流感染(Catheter-Associated Bloodstream Infection, CABSI)へと拡大されている。
本稿では、ガイドライン(guideline, GL)の要点と、世界的に標準化が進むANTT®(Aseptic Non Touch Technique、無菌非接触操作)の理論、およびその実践を支えるカスタムキット(キット)の活用について解説する。
GLにおいてICTが押さえるべき要点
「Essential Practices(不可欠な実践)」として、挿入時はもちろん、ドレッシング材の交換やライン操作時においても無菌操作の徹底が強調されている。
無菌操作の標準化:ANTT®とは
曖昧になりがちな無菌操作を明確に定義し、標準化するためのフレームワークとしてANTT®が推奨される。ANTT®の核となる概念は、「Key-Part」と「Key-Site」の保護である。Key-Partは汚染された場合に患者に感染を引き起こす可能性のある器具の部品(例:シリンジの先端)を指し、Key-Siteは微生物の侵入門戸となる患者の身体部位(例:カテーテル刺入部)である。ANTT®の鉄則は「Key-PartはKey-Siteか、無菌のKey-Partにしか触れてはならない」である。
カスタムキットの活用とその有効性
GLでは、手順の標準化とコンプライアンス向上のための「Additional Practices(追加の実践)」として、挿入キットなどの専用物品の活用が推奨されている。具体的には、ディスポーザブル駆血帯、ドレッシング材、アルコール綿、処置用シーツなどが1パックになった「カスタムキット」の導入が有効である。
ANTT®の視点から見ると、キットには利便性だけでなく、感染対策上の意義がある。
①Key-Part/Key-Site の保護
必要な物品がすべて手元にそろっていることは、ANTT®においてきわめて重要である。処置中に物品を取りに離席すると、手指や環境が再汚染され、Key-Partを汚染させるリスクが高まる。キット活用によりこのリスクを排除できる。
②効率と標準化
物品を探す時間を削減できるだけでなく、誰が実施しても同じ物品、同じ手順で処置を行えるため、手技の標準化が促進される。
現場指導のポイントと臨床のピットフォール:カスタムキット活用がもたらす安全
ICTやリンクナースが現場スタッフを指導する際には、キットの使用によって“どのようなリスク(ピットフォール)を防げるのか”を、ANTT®の概念を用いて具体的に示すことが重要である図1。
以下に、臨床現場で陥りやすいピットフォールと、キットの活用によってそれがどう防げるかをあげる。
①物品不足による無菌操作の中断と汚染
【ピットフォール】処置中に衛生材料の準備不足によりスタッフステーションに戻る行為は、手指や物品などの汚染を招く。
【キットによる防止】必要物品がパッケージ化されているため、無菌操作の中断のリスクを排除できる。
②駆血帯・衛生材料の汚染リスク回避
【ピットフォール】共有の駆血帯は、消毒を確実に実施しないと微生物を患者間で伝播させる媒体となり得るほか、使用後に環境やほかの清潔な衛生材料を汚染するリスクがある。
【キットによる防止】キット内のディスポーザブル駆血帯を使用することで、駆血帯自体の汚染を防ぎ、ほかの清潔な衛生材料への交差汚染のリスクを排除できる。
おわりに
CABSI予防、ANTT®にもとづく「無菌操作の標準化」が重要である。多忙な臨床現場において、これらを個人の努力のみで維持することは困難である。カスタムキットの戦略的な導入は、誰もが安全かつ確実に無菌操作を実践できる体制を作るための具体的かつ有効なツールとなるだろう。
引用・参考文献
1) The Association for Safe Aseptic Practice(ASAP). ANTT Procedure Guidelines. https://www.antt.org/
2) Shannon, DJ. et al. Preventing catheter-associated bloodstream infections(CABSI)in adults. Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology(APIC). 2025. https://www.hider.org.tr/kilavuzlar-pdf/uluslararasi/CABSI_Implementation_Guide_006.pdf