矢野邦夫先生に「乳児のB型肝炎免疫に関する最新のCDC推奨事項(2025年改訂版)」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
*INFECTION CONTROL35巻4月号の掲載の公開記事となります。
「乳児のB型肝炎免疫に関する最新のCDC推奨事項(2025年改訂版)」
2025年12月16日、CDCが乳児のB型肝炎免疫についての推奨を更新したので、その重要ポイントを紹介する[https://www.cdc.gov/media/releases/2025/fact-sheet-hepatitis-b-immunization.html]。
はじめに
2025年12月16日、CDCは予防接種諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices, ACIP)が同年12月の会議で採択した「B型肝炎の検査が陰性の女性から生まれた乳児に対するワクチン接種に関する個別的意思決定」を採用した。今回の改訂の核心は、母体がHBs抗原(-)である乳児に対し、出生時接種のタイミングについて「共同意思決定(shared clinical decision-making, SCDM)」という新たな枠組みを導入した点にある。これは、一律の出生時接種を基本としてきた従来の公衆衛生戦略から、個別のリスクと便益を考慮した柔軟なアプローチへの転換を示唆している。
改訂の主要ポイント:母体のHBs抗原の有無にもとづく戦略の層別化
今回の最新推奨事項では、母体の検査結果および感染リスクの状態にもとづき、接種戦略が明確に層別化されている。
母体がHBs抗原(-)の場合は、保護者と臨床医が共同意思決定を行い、出生直後に接種を開始するか、あるいは乳児期後半に接種シリーズを開始するかを決定する。出生時接種を延期することを選択した場合、接種シリーズの開始は生後2ヵ月以降とすることが推奨されている。
母体がHBs抗原(+)または不明の場合は、従来の方針が維持される。すなわち、出生後12時間以内に B型肝炎ワクチンの初回接種を行う。特に母体がHBs抗原(+)の場合は、ワクチンに加えてB型肝炎免疫グロブリン製剤(hepatitis B immune globulin, HBIG)のすみやかな投与が必須である。
推奨変更の科学的・疫学的背景
ACIPがこの変更を推奨するに至った背景には、米国内における周産期B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus, HBV)感染予防システムの成熟と、蓄積された疫学的エビデンスがある。第一に、出生前スクリーニングのきわめて高い信頼性である。現在の検査システムは、妊娠中のHBV感染をほぼ完全に特定できる精度に達している。第二に、既存の予防策の徹底により、米国における周産期のHBV伝播(母子感染)の発生率がきわめて低水準に抑えられている。第三に、母体がHBs抗原(-)であることが確認されている低リスク児に対しては、接種のタイミングについて家庭と医療提供者に柔軟性を認めることの妥当性が判断されたためである。これにより、高リスク群における確実な防御を維持しつつ、低リスク群における個別化された医療の提供が可能となった。
臨床現場における「SCDM」の定義と運用
本推奨で導入された「SCDM」とは、単なる選択制ではない。CDCの免疫スケジュールにおいては、保護者と医療提供者が「ワクチンの便益」「ワクチンのリスク」「感染リスク」をともに検討し、個別の状況に応じた最適な開始時期を決定するプロセスを指す。感染リスクの検討にあたっては、リスク因子(「HBV感染者が同居家族に存在するか?」「HBVの有病率が高い地域から来た人物との頻繁な接触があるか?」)が考慮されるべきである。
結論
2025年12月のCDC推奨事項の更新は、米国のHBV免疫戦略における個別化医療の進展を象徴するものである。感染対策の専門家は、母体がHBs抗原(-)である場合の柔軟性を確保しつつも、陽性または不明例における「12時間以内の接種」という鉄則を遵守し、周産期感染の根絶という目標を堅持しなければならない。
(本誌のご購入はこちらから)
*INFECTION CONTROL35巻4月号の掲載の先行公開記事となります。
*本記事の無断引用・転載を禁じます。