妊娠や授乳の時期は、母親にとって大きな変化と不安を伴う特別な時期です。その中で「くすり」はしばしば誤解に包まれています。「妊娠中だから薬剤は一切使えない」「授乳中は治療を控えるべき」といった風潮が、必要な医療を遠ざけてしまうことがあります。結果として、母親や胎児・新生児にとって本来得られるはずの薬剤の恩恵が失われることも少なくありません。
本特集では、薬剤を正しく理解し、必要なときに適切に使用することが、母子双方にとって大切なケアであるという視点を重視しました。一方で、不必要な薬剤を避けること、誤った使用を防ぐこと、妊娠期・授乳期だからこそ注意すべき副作用や影響を知ることも欠かせません。さらに、近年は「ファーマコジェネティクス(pharmacogenetics)」や「ファーマコゲノミクス(pharmacogenomics)」といった学問領域の発展により、個々の遺伝的背景に応じて薬剤の効果や副作用を予測し、より適正に薬物治療を行う時代に移り変わりつつあります。これは「プレシジョン・メディシン(精密医療)」の一端を担うものであり、妊娠期・授乳期の薬剤の使い方にも、今後大きな変化をもたらす可能性があります。
また、産婦人科以外の診療科においても「妊婦だから」という理由で治療を控えたり、必要な医療を十分に提供しない場面がしばしば見受けられます。妊婦や授乳婦に対する薬物療法の正しい理解は、周産期医療に携わる者だけでなく、あらゆる診療科の医師や医療従事者にとっても重要な知識です。本特集はそのような現場でも参考にしていただける内容を目指しました。
母親自身が十分に情報を得て、納得して意思決定を行えるよう支援することは、医療者の大切な役割です。本特集が、助産師・看護師・若手産婦人科医のみならず、幅広い医療職の皆さんにとって、日常の診療やケアの中で母親の選択を支える力となり、最新の知識を共有し合う機会になることを願っています。
※本特集の情報は、2026年1月現在のものです。記載内容には正確を期するように努めておりますが、薬剤情報は変更されることがありますので、薬剤の使用時には最新の添付文書などをご参照ください。また、従来の治療や薬剤の使用による不測の事故に対し、著者および当社は責を負いかねます。
プランナー
高知大学医学部 産科婦人科学講座 教授
永井立平
本記事は『ペリネイタルケア』2026年3月号特集扉からの再掲載です。
*** 今号からスタートの新連載 ***
日本母体胎児医学会 MEME プロジェクト
助産師のためのCTGレッスン
①CTG の読み方
CTG(胎児心拍数モニタリング)は、母児の安全を守るために欠かせない重要なツールです。 「波形の読み方が難しい……」「この判読で合っているのかな……」と日々悩む方に向けて、 第一線で活躍する産科医が交代で解説していきます。
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