矢野邦夫先生に「野兎病の抗菌薬治療と曝露後予防に関するCDC推奨」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
*INFECTION CONTROL35巻2月号の掲載の公開記事となります。
「野兎病の抗菌薬治療と曝露後予防に関するCDC推奨」
CDCが野兎病の抗菌薬治療および曝露後予防に関する推奨事項を公開した[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/rr/pdfs/rr7402a1-H.pdf]。野兎病は、グラム陰性球菌である野兎病菌(Francisella tularensis[以下、F. tularensis])によって引き起こされる。まれではあるが潜在的に重篤な疾患である。自然発生のほか、バイオテロリズムの潜在的病原体としても分類されているため、意図的な放出にも対応するための指針も提供されている。
疾患概要
野兎病は、北半球全域で風土病として存在しており、米国では年間約200~300例が報告されている(ハワイ州を除く全州で報告例がある)。感染経路は、節足動物(ダニ、アブ、蚊など)の咬傷、感染動物の解体や接触による経皮的曝露、汚染された飲食物の摂取、エアロゾル化した粒子(吸入)など多岐にわたる。ヒトからヒトへの伝播はきわめてまれである。
症状は曝露経路によって大きく異なり、最も一般的なのは潰瘍腺型および腺型野兎病である。エアロゾル化したF. tularensisを吸入すると、最も重篤な病型である肺炎型野兎病を引き起こす。F. tularensisには病原性や地理的分布の異なる2つの主要な亜種(Type AとType B)が存在するが、未治療の場合、Type A 感染症の致死率は約2~3%、Type B感染症の致死率は1%未満である。
治療の第一選択薬
野兎病患者(成人および生後1ヵ月以上の小児)に対する第一選択の抗菌薬療法として、フルオロキノロン系抗菌薬(シプロフロキサシン塩酸塩水和物またはレボフロキサシン水和物)またはアミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン硫酸塩)、テトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリン塩酸塩水和物)が推奨される。
重症感染症の治療
血行動態の不安定性、臓器機能不全、呼吸補助の必要性などの敗血症や重症疾患の徴候がある患者には、初期治療としてアミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン硫酸塩)を用いる。また、2つの異なるクラスの有効な抗菌薬(例:ゲンタマイシン硫酸塩+シプロフロキサシン塩酸塩水和物またはゲンタマイシン硫酸塩+ドキシサイクリン塩酸塩水和物)の併用療法が推奨される。
バイオテロリズムが疑われる場合の治療
F. tularensisの意図的な放出が疑われる場合、遺伝子操作による抗菌薬耐性のリスクがあるため、感受性パターンが判明するまでは、少なくとも1つが第一選択薬である2つの異なるクラスの抗菌薬による初期治療が推奨される。
曝露後予防投与(PEP)の推奨
意図的な放出が発生した場合、曝露の可能性が高い人に対しては、できるだけ早く、理想的には曝露から48時間以内に曝露後予防投与(postexposure prophylaxis, PEP)を開始する。PEPの第一選択薬は、シプロフロキサシン塩酸塩水和物、レボフロキサシン水和物、ドキシサイクリン塩酸塩水和物である。
妊婦の治療
妊婦に対する治療および予防においては、抗菌薬の有効性が最優先される。第一選択薬はシプロフロキサシン塩酸塩水和物、レボフロキサシン水和物、ゲンタマイシン硫酸塩である。PEPの第一選択薬はシプロフロキサシン塩酸塩水和物またはレボフロキサシン水和物である。
新生児(生後28日以内)の治療
治療の第一選択薬はゲンタマイシン硫酸塩またはシプロフロキサシン塩酸塩水和物である。PEPの第一選択薬はシプロフロキサシン塩酸塩水和物、レボフロキサシン水和物、ドキシサイクリン塩酸塩水和物である。
高齢患者の治療
高齢患者(65歳以上)は、肺炎型およびチフス型野兎病を発症しやすく、致死率も高い。治療推奨は一般成人と同じであるが、基礎疾患や多剤併用による薬物相互作用にも十分な注意を払う。
免疫不全患者の治療
免疫不全患者の治療推奨は、一般集団と変わらない。しかし、肺炎型やチフス型の発症頻度が高い傾向があり、慎重なモニタリング、治療期間の延長、および臨床判断にもとづいた膿瘍ドレナージ処置の検討が必要である。
神経侵襲性野兎病(髄膜炎など)の治療
中枢神経系感染症はまれであるが致命的となる可能性がある。ゲンタマイシン硫酸塩とフルオロキノロン系抗菌薬(シプロフロキサシン硫酸塩水和物またはレボフロキサシン水和物)の併用療法が推奨される。フルオロキノロン系抗菌薬は中枢神経系への浸透性が比較的良好である。
(本誌のご購入はこちらから)
*INFECTION CONTROL35巻2月号の掲載の先行公開記事となります。
*本記事の無断引用・転載を禁じます。