白石三恵
現在、私は助産師・看護師を養成する大学で働いている。学生時代には全く想像していなかった教員・研究者という道に進んだことは、今でも不思議に思っている。
助産師として働き始めて3年目の頃、新しく立ち上がる「助産師外来」の担当に志願した。病棟業務には慣れていたが、外来の経験はなく、知識にも自信がなかった。それでも「妊娠期から継続して関わりたい」という強い思いがあった。意外にも志願者は少なく、私は金曜日の外来担当に決まった。
妊婦健診を担当してみると、その難しさに圧倒された。次の受診までの経過を予測し、教科書には載っていない生活上の質問にも即座に答えなければならない。間違ったことを伝えてしまっても、次にお会いするのは数週間後。心の中で冷や汗をかきながらも平静を装い、知識を総動員して対応する日々だった。会計のところまで妊婦さんを追いかけて「さっきの説明、補足させてください」と声をかけたことは何度もある。
なかでも苦戦したのが「栄養指導」だった。妊娠中期の1日の食事記録を持参してもらい、それをもとに助言するのだが、何をどう伝えるべきか毎回悩んだ。「この栄養素が不足しているので、こんな食材を意識して摂りましょう」「朝食は毎日食べましょう」それらしいことは言える。けれど、それは本当に効果があるのだろうか? 十分な知識や根拠が足りず、自信がないまま手探りで妊婦さんに栄養指導を行う自分に、「このままではいけない」と思った。病院の図書室で調べてみたが、参考になりそうな研究はほとんど見つからない。「あれ? 意外とエビデンスがない」そう気づいた時、「自信をもって対応するためにもっと学びたい」と思った。その短絡的ともいえる思いが、大学院進学、そしてその後の研究へとつながった。
あれから十数年。その後もさまざまな出来事があったが、振り返れば、行き当たりばったりのようでいて、その時々の出会いと経験に導かれ、道が開けてきたように思う。これまで私の歩みを支えてくださった方々、そして一つひとつの経験に、心から感謝している。
本記事は『ペリネイタルケア』2026年1月号の連載Rootsからの再掲載です。
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