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トップページ こころJOB 病院内の自殺を防ぐには | 病院内の自殺予防とメンタルヘルス対策

病院内でどのぐらいの自殺事故が発生しているのか

2025年現在、日本国内の病院における自殺事故件数について、全国規模の統計調査は実施されたことがありません。 2015年に公益財団法人日本医療機能評価機構認定病院患者安全推進協議会が実施した調査によると1)、患者安全推進協議会会員病院1,376施設のうち回答のあった529施設で、過去3年間に発生した自殺事故は、以下のとおり報告されています。

  • 精神科病棟のない一般病院(432施設):約2割で自殺事故が発生
  • 精神科病床のある一般病院(63施設):約7割で自殺事故が発生
  • 精神科病院(34施設):約8割で自殺事故が発生

この結果を全国規模に換算すると、決して少なくない件数の自殺事故が病院内で発生していることが考えられます

さらに、本調査では自殺事故の直前の出来事や予兆についても集計され、患者さんには何らかのメンタルヘルス不調や自殺のリスクが見られたケースが多いことが明らかになりました。 一方で、予防に関する院内での研修機会が不足していることや、自殺事故後のスタッフケアが不十分であることも指摘されています。

自殺対策基本法の改正で自殺予防教育がマストに

日本では2006年に自殺対策基本法が公布され、自殺者数は減少傾向にあります。 しかし、子どもや若年層の自殺は増加傾向にあり2)、こうした背景を受け、2025年6月に同法の一部改正が公布されました3)。 改正後の第十八条では、下記のように、医療従事者における教育の拡充が新たに盛り込まれました

(医療提供体制の整備)
 第十八条 国及び地方公共団体は、心の健康の保持に支障を生じていることにより自殺のおそれがある者に対し必要な医療が早期かつ適切に提供されるよう、精神疾患を有する者が精神保健に関して学識経験を有する医師(以下この条において「精神科医」という。)の診療を受けやすい環境の整備、精神科医その他の医療従事者に対する自殺の防止等に関する研修の機会の確保、良質かつ適切な精神医療が提供される体制の整備、身体の傷害又は疾病についての診療の初期の段階における当該診療を行う医師と精神科医との適切な連携の確保、救急医療を行う医師と精神科医との適切な連携の確保、精神科医とその地域において自殺対策に係る活動を行うその他の心理、保健福祉等に関する専門家、民間の団体等の関係者との円滑な連携の確保等必要な施策を講ずるものとする。

このように、日本ではさまざまな病院のスタッフが病院内における自殺予防と事後対応について体系的に学ぶことが求められています

本書の特徴

『病院内の自殺予防とメンタルヘルス対策』では、第1部を「病院内の自殺にかかわる基礎知識」とし、自殺の危険因子、疾患と自殺の関係、地域における自殺対策、遺された方々のメンタルヘルス支援などをまとめました。精神科医療を専門としない医療従事者にも理解しやすい内容となっており、現場で役立つ知識を網羅しています

第2部「病院内の自殺対策の実践」では、自殺事故を防ぐために必要な具体的な取り組みを詳しく解説しました。自殺対策の行動計画を策定するうえで重要となる1次予防・2次予防・3次予防の考え方()を中心に、現場で実践できる具体的な方法を提示しています。ここでは、自殺事故を経験したスタッフのケアの方法を提示し、産業メンタルヘルスの詳しい解説を付記しました。


 自殺対策の基本概念:疾病予防の概念との比較

予防の段階 疾病の予防
自殺の予防
考え方 対策
1次予防 病気にかからぬように行う事前の取り組み 自殺を生じないための事前の取り組み
  • 啓発と教育
2次予防 治療 自殺をくい止める
  • 高危険群のスクリーニング
  • リスクアセスメント
  • 危機介入・治療
3次予防 リハビリテーション、再発予防 自殺が生じてしまった後の対応
  • 遺された人への支援とケア
  • 群発自殺の予防
  • 心理学的剖検

(河西千秋、『病院内の自殺予防とメンタルヘルス対策』p66より転載)

おわりに

病院内での自殺事故、あるいは自傷・自殺未遂は、医療従事者なら避けて通ることのできない問題です。 自殺事故は、予防することが可能です。ぜひ本書を活用し、自施設での対策にお役立てください。 患者さんの命と心を守るために、そして医療者のメンタルヘルスのために今すべきこと・できることに取り組んでいきましょう

本書がその第一歩となることを願っています。

(2025年12月 編著者より)



引用・参考文献
1)河西千秋ほか.院内自殺の予防と事後対応に関する検討会報告 病院内の入院患者の自殺事故調査.患者安全推進ジャーナル.45,2016,85-91.
2)こども家庭庁 こども家庭庁支援局総務課自殺対策室.資料3:こどもの自殺対策について.2025.https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5d5fbbe8-fc30-4cc4-9c20-cb131a506ad6/a47c3926/20250423_councils_kodomo_seisaku_kyougi_5d5fbbe8_04.pdf(2025年11月閲覧)
3)厚生労働省.令和7年6月11日自殺対策基本法の一部を改正する法律の公布について(通知).https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1414737_00017.htm(2025年11月閲覧)


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医師・看護師・医療安全管理者などすべてのメディカルスタッフ必携
病院内の自殺予防とメンタルヘルス対策
患者安全とスタッフケアのために今すべきこと・できること

表紙

一般社団法人日本自殺予防学会 監修
岩手医科大学医学部神経精神科学講座 教授/災害・地域精神医学講座 特命教授 大塚 耕太郎 編著
札幌医科大学医学部神経精神医学講座 主任教授 河西 千秋 編著
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 所長 張 賢徳 編著


● 立ち読みページはこちら


目次を見る

―第1部 病院内の自殺にかかわる基礎知識
【第1章 病院内の自殺事故】
■1 病院内の自殺事故
自殺は主要な重大医療事故
自殺事故の事態の深刻さ
自殺事故は予防可能
精神科病院における自殺対策
認定病院患者安全推進協議会による研修会
自殺事故後の医療者支援の意義
■2 病院内の自殺事故の実態
認定病院患者安全推進協議会による院内自殺についての調査
2005年調査
2015年調査
[コラム]海外での自殺事故研究

【第2章 自殺企図行動に関する基礎知識】
■1 日本の自殺問題
自殺者数の推移からみえてくるもの
自殺行動の実態:日本で自殺の激増が起こる背景
がん患者の自殺
子どもの自殺の状況と対策
■2 自殺対策基本法と自殺総合対策大綱
自殺対策基本法と自殺総合対策大綱の成立過程
自殺総合対策大綱での基本施策領域
施策と医療機関の対策との連携例:自殺未遂者ケアや被災地の心のケア等
地域自殺対策緊急強化基金から自殺対策交付金への流れと市町村計画
医療機関で求められること
■3 自殺と自殺関連行動
自殺とは
自損行為と自殺企図行動
自殺未遂と自傷行為
自殺念慮
自殺関連行動
■4 自殺の危険因子
個人的要因
人間関係の要因
地域的要因
社会的要因
保健医療システムの要因:ヘルスケアへのアクセスの障壁
[コラム]災害と自殺問題
[コラム]パンデミックと自殺問題
■5 精神疾患と自殺
心理学的剖検から得られた知見
主な精神疾患と自殺
自殺対策と精神保健
[コラム]認知症と自殺
[コラム]心理学的剖検
■6 身体疾患と自殺
悪性腫瘍以外の身体疾患と自殺の関連
身体疾患における自殺リスク
自殺リスクの高い身体疾患(悪性腫瘍以外)
身体疾患の治療薬と自殺リスク
治療的介入
[コラム]せん妄による事故
[コラム]周産期の自殺問題
■7 がんと自殺
がん患者の自殺
がん対策推進基本計画
臨床的な対応
まとめ
[コラム]がん告知直後の対応
■8 アディクション(依存症)と自殺の関連
アディクション(依存)と自殺の密接な関係性
アディクションの対義語はコネクション
アディクションの理解における重要なポイント
なぜアディクションは自殺リスクを高めるのか
アディクションにおける自殺の予防
アディクション支援のポイント:回復の種をまく
■9 自殺に傾く人の心理
自殺に至るプロセス
なぜ死にたくなるのか
自殺のリスク評価:自殺念慮を確認する
自殺念慮への対応

【第3章 自殺予防医療の取り組み】
■1 自殺対策の基本
自殺の危険因子
自殺の1~3次予防
WHOの自殺対策戦略
■2 精神疾患治療における自殺予防
精神疾患治療における自殺予防の特異点
入院診療
外来診療
[コラム]依存症者の院内自殺予防
■3 身体疾患治療における自殺予防
身体疾患と自殺リスク
自殺リスクと心理社会的要因
がん患者の自殺予防のための介入例
■4 自殺未遂と自傷行為への対応
ACTION-J研究とは
ACTION-J研究の成果の社会実装
自殺未遂者・自傷行為者への対応
[コラム]自殺未遂者支援のソーシャルサポート
[コラム]チーム医療による自殺未遂者支援

【第4章 地域自殺対策】
■1 地域自殺対策の基本
自殺対策の重要な視点
心理的危機に対応するネットワーク
地域での自殺対策の進め方
地域での自殺対策の具体例
ネットワークの重要性
[コラム]地域の自殺対策のエビデンス:NOCOMIT-J
■2 自殺対策のためのゲートキーパー
ゴットランド島における一般医への介入
日本のゲートキーパー養成の推進体制
ゲートキーパーの役割
医療従事者が担うゲートキーパーの重要性
■3 地域自殺対策での病院の役割・連携
自殺者の最多の動機である健康問題
精神科への受診経路からみえること
医療へのアクセスと連携の重要性
自殺対策における地域の連携やケアの基幹的役割
精神障害にも対応した地域包括ケアシステム
[コラム]こころの連携指導料
■4 関連職種と専門教育
医療従事者などへの自殺対策の教育的アプローチ
国家的なゲートキーパー養成プログラム
病院内の自殺予防とスタッフケア
[コラム]看護職へのゲートキーパー教育
■5 自死遺族支援
自死遺族支援の意味
遺族が求める情報
つながる社会資源と医療者の役割

【第5章 自殺が生じた後の課題】
■1 自殺事故の周囲への影響と遺された人の反応
病院の自殺事故の実態
事故の影響を受ける人々
事故後の対応は自殺予防のための要諦
事後対応に関する課題
■2 遺された人とメンタルヘルス不調
遺された人におけるメンタルヘルスの不調
急性ストレス反応
複雑性悲嘆
適応障害
うつ病
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
[コラム]遺族外来

―第2部 病院内の自殺対策の実践
【第6章 病院内の自殺予防対策の課題と実践】
■1 病院内における1次予防対策
ホットスポット対策
自殺予防の教育・研修
患者・家族に対する情報提供

[コラム]入院患者の荷物確認・物品管理
■2 病院内における2次予防対策
リスクアセスメント
危機介入:自殺へ傾く人へのコミュニケーションと死にたい気持ちへの対応
部署内・部署間の情報伝達・共有
専門診療科へのつなぎ
社会資源へのつなぎ
[コラム]EM-PASS
[コラム]両立支援コーディネーター
■3 病院内における3次予防対策
自殺発生後の対応
事後の遺族対応
遺された医療者への対応:対応モデル
[コラム]医療者に必要な産業保健の知識
[コラム]休復職対応

【第7章 患者の自殺と病院の法的責任】
法的責任を考える意味
精神科病棟の場合
一般病棟の場合
説明義務違反
通院やオンライン受診の場合

【第8章 病院内の体制整備】
■1 病院全体の体制づくり
病院管理の視点から
診療の質の管理
部署内・部署間の連携
職場環境と職員の健康管理
[コラム]災害下のスタッフケア
[コラム]安全配慮義務
■2 病院外資源の活用と連携
社会資源とは何か
社会資源の活用の際の留意点
「生きづらさ」にアプローチする社会資源の登場
■3 自殺事故対応のための病院の体制と全体のフロー
自殺発生時の対応における病院の体制
事故現場での対応
[コラム]院内自殺予防の実践1:埼玉医科大学国際医療センター
[コラム]院内自殺予防の実践2:聖隷三方原病院



本書の特徴
★病院内での自殺対策について体系だって解説している国内初の一冊!
★患者さんのメンタルヘルス支援に役立つ!
★スタッフケアなど病院内の体制整備に活用できる!
★病院内にかぎらず、あらゆる場所での自殺対策に活用可能!

書誌データ
・価格:5,020円(本体4,800円+税)
・発行:2025年11月
・サイズ:B5判 200頁
・ISBN-13:978-4-8404-9084-9