最終回 寄生虫界の王者−条虫症−
*本連載は2019年1月号~12月号の本誌連載の再掲載記事になります。
*本記事の無断引用・転載を禁じます。
患者の特徴
56歳男性。食後、おしりがむずむずするためトイレで見るとひものようなものが垂れ下がっていた。引っ張ったところちぎれ、怖くなり病院を受診した。自覚症状なし。仕事で頻繁に海外に行く。持参したものを(図1)に示す。さて、この寄生虫は?
さてこの寄生虫は…?
◎日本海裂頭条虫
圧倒的な長さと存在感を誇る、筆者憧れの寄生虫である。今回は条虫ハンティングのため、九頭竜川までやってきた。もはや完全にINFECTION CONTOROLの趣旨から外れているが、最後なのでお許しいただきたい。
まずは情報収集へ
日本海裂頭条虫を入手するためには情報収集が必要である。日本の条虫症の発生状況について、国立感染症研究所寄生動物部の山﨑浩先生にお話を伺った。
条虫とひと口に言っても、種類はさまざまである。なかでも国内で最も多いのが、この日本海裂頭条虫であり、形態が真田紐に似ていることから「サナダムシ」とも呼ばれる。そのほかにも、無鉤条虫、アジア条虫が国内では報告が多い。条虫類はそのライフサイクルを完結するために、中間宿主(幼虫が寄生する宿主)と固有宿主(成虫になれる宿主)を必要とする。日本海裂頭条虫の第1中間宿主はミジンコ類(ただしまだ発見されていない)、第2中間宿主はサクラマスやシロザケ(トキシラズ)である。ヒトへの感染は、この第2中間宿主たるサケ属の刺身、寿司などの摂食を通して発生する。レセプトデータを分析すると、年間300〜500例ほどの裂頭条虫症が国内で発生していると推計される。
狙うは一本釣り
肝心の日本海裂頭条虫攻略情報をいただいた。いざ、条虫ハンティングへ向かおう。
トキシラズは北海道の沿岸部で捕れるため入手が難しいため、今回はサクラマスをターゲットとした。彼らは海に下って回遊し、3〜5月に遡上してくる。サクラマスは慣れた釣り師でも20回のうち1回釣れるかどうかの幻の魚である。日本海裂頭条虫の症例報告は、消費量が多い東京を除くと北海道や中部沿岸が多い。日本海裂頭条虫の幼虫(プレロセルコイド)は背びれから尾びれの間の筋肉内に多いという情報も入手した。集まった情報をもとに、筆者の教え子とその父であり釣り師歴十年以上の森岡親子とともに、サクラマス情報が多い九頭竜川に挑んだ。
……2日間をかけて挑んだ結果は、1匹もサクラマスは釣れず、サナダムシに未練を残しつつ九頭竜川を後にした。
寄生虫探訪は終わらない
今回で寄生虫をめぐる連載は終わる。しかし私の虫への想いは消えることなく、今後もライフワークとして国内外を駆け巡る予定である。虫出ずるところに倉井あり、どこかで見かけたらお声がけいただきたい。
⇧最新情報は こちら から