矢野邦夫先生に「小児インフルエンザ関連脳症および急性壊死性脳症」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
*INFECTION CONTROL35巻1月号の掲載の先行公開記事となります。
「小児インフルエンザ関連脳症および急性壊死性脳症」
CDCが2024~2025年インフルエンザシーズンにおける小児インフルエンザ関連脳症および急性壊死性脳症について報告しているので紹介する[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/wr/pdfs/mm7436a1-H.pdf]。
インフルエンザ関連脳症の背景
2024~2025年インフルエンザシーズンは重症例が多く、米国の小児インフルエンザ関連死亡サーベイランスが始まった2004年以降(2009年パンデミックを除く)で最多の小児死亡が報告された。
インフルエンザ関連脳症(influenza-associated encephalopathy, IAE)は、インフルエンザ感染に伴う神経症候群であり、炎症反応の調節不全を介してさまざまな程度の脳機能障害をもたらす。最重症型が急性壊死性脳症(acute necrotizing encephalopathy, ANE)であり、急速な神経学的悪化と視床の壊死や出血を特徴とし、予後は不良である。
症例の収集
対象は「18歳未満」「2024年10月1日~2025年5月30日に急性期病院で入院または死亡」「インフルエンザウイルス感染が確定」の条件を満たす症例で、脳症や発作、意識変容、神経画像異常の記録も必要とされた。
症例の分類
CDCに提出された192人の疑い報告(1人は除外)のうち、109人(57%)がIAE に分類され、残りの82人(43%)はIAE の定義を満たさないインフルエンザ関連神経疾患として分類された。IAEの109人のうち、37人(34%)がANE に、72人(66%)がその他のIAEに細分類された。ANE症例は、両側視床の炎症性病変を示す神経画像報告があれば「確実なANE」として、特定の神経画像所見がないがANEの退院診断があった場合は「可能性の高いANE」として定義された。
IAE症例の特性
IAE患者の年齢中央値は5歳(四分位範囲:3~10歳)であった。IAE患者の約半数(55%)は基礎疾患のない健常者であった。インフルエンザウイルスA感染が89%の患者で確認され、サブタイプが判明した症例では、A(H1N1)pdm09が63%、A(H3N2) が37%を占めた。入院時に最も一般的に報告された徴候および症状は、意識変容(88%)、呼吸器症状(87%)、発熱(85%)であった。神経症状は、発病から中央値で2日後に発現した。
ANE経過と高い致死率
IAE 患者全体のうち、74%が集中治療室(ICU)に入室し、54%が侵襲的機械換気を受けた。IAE患者全体の致死率は19%であった。特にANE患者は、その他のIAE患者と比較してより重症な経過をたどった。ANE患者(37人)は全員(100%)がICUに入院し、89%が侵襲的機械換気を受けた。入院時の痙攣発作の頻度は、ANE患者で87%と、その他のIAE患者(45%)の約2倍であった。
ANE患者の致死率は41%と非常に高かった。死亡したANE患者は、死亡までの入院期間中央値が4日と、急速に病状が進行した。生存者(13人)のなかで、退院時に神経学的ベースラインに戻っていたのはわずか1人であり、入院期間の中央値は30日間であった。
治療と予防接種状況
IAE患者の84%が抗インフルエンザ薬治療を受けたが、治療開始日(発病から中央値3日後)は遅く、IAE患者全体の90%は入院日以降に治療が開始されていた。ANE 患者では、94%が抗インフルエンザ薬を、88%が全身性コルチコステロイドを、67%が静注用免疫グロブリンを投与された。
インフルエンザワクチン接種資格のあるIAE患者のうち、2024~2025年シーズンのインフルエンザワクチンを接種していたのはわずか16%であった。ANE患者に限ると、接種率はさらに低く13%であった。インフルエンザおよびIAEなどの重篤な神経疾患を含む関連合併症を予防するために、生後6ヵ月以上のすべての小児に対し、インフルエンザワクチン接種が推奨される。
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*INFECTION CONTROL35巻1月号の掲載の先行公開記事となります。
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