妊娠中や産後の腰痛・関節痛、尿漏れなどの身体的トラブルは、新生児の予後や妊産婦の生命に関わるものではないことから“マイナー”トラブルと呼ばれ、妊産婦自身も医療者も「しょうがない」と片付けてしまいがちです。しかし、身体トラブルは、妊娠への肯定的感情、産後の育児・家事・復職、次子妊娠に影響することが知られており、“マイナー(小さい存在で、重要ではない)”なものと片付けられるべきではありません。
胎児の成長に伴う姿勢や重心の変化、臓器や筋骨格への物理的圧迫などが複合的に生じ、身体的トラブルが起きているだろうということ、運動・トレーニング、日常生活の工夫により症状を改善できることは容易に想像できても、何から指導すればいいのか、その指導方法でいいのかには自信を持てない人も多いと思われます。この背景には、身体トラブルの原因を探るために必要な身体評価の適切な方法や介入手段といった、リハビリテーションに関する知識やスキルが少ないがゆえに苦手意識を抱いていることが関係していると推測されます。
そこで、本特集では、症状別に、症状の原因、理学療法的評価、妊娠期・分娩期・産後のケアの解説とケーススタディにより、リハビリテーションの基本的な知識を得られるようにしました。また、トピックスとして、相談を受けることが多いと思われる、産後ケアの場面での初期対応のTips、近年注目されている分娩時肛門括約筋損傷(OASIS)や無痛分娩での周産期リハビリテーションを紹介します。これらを通じて、助産師によるプライマリなリハビリテーション、理学療法士などとの連携による専門的リハビリテーションといった周産期リハビリテーションをご理解いただければ幸いです。
プランナー
東北大学大学院 医学系研究科 ウィメンズヘルス・助産学分野 教授
吉田美香子
本記事は『ペリネイタルケア』2025年12月号特集扉からの再掲載です。
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