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トップページ こころJOB 病院内の自殺予防とメンタルヘルス対策

自殺に関する情報と対応の技術論を収載

自殺対策基本法の改正により、医療従事者への自殺の防止に関する研修機会の確保が盛り込まれた。本書は、入院患者の自殺予防に限らず、自殺がなぜ起こるのかを丁寧に解説し、自殺予防のための院内体制の構築、医療スタッフへの教育、自殺事故を経験したスタッフへのケアに至るまで、包括的な内容を網羅した。


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本書の特徴
★病院内での自殺対策について体系だって解説している国内初の一冊!
★患者さんのメンタルヘルス支援に役立つ!
★スタッフケアなど病院内の体制整備に活用できる!
★病院内にかぎらず、あらゆる場所での自殺対策に活用可能!

書誌データ
・価格:5,020円(本体4,800円+税)
・発行:2025年11月
・サイズ:B5判 200頁
・ISBN-13:978-4-8404-9084-9

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巻頭言より


本書をお手に取っていただき、ありがとうございます。本書発刊の経緯を紹介しつつ、病院内の自殺予防とメンタルヘルス対策の意義について述べたいと思います。

今から20年前の2005年度から2年間、日本医療機能評価機構認定病院患者安全推進協議会に「精神科領域における医療安全管理検討会」(南 良武座長)が設けられました。これは、決して「精神科」に話題を限定した検討会ではなく、「精神・心理・行動科学的な問題が関与する医療安全」を扱う検討会であり、主要課題として、1)患者の行動制限、2)転倒・転落、そして3)入院患者の自殺の3つが選ばれ、各課題について実態調査が行われました。私は、自殺対策専門家の立場で、同協議会会員病院(認定病院)における入院患者の自殺事故の調査を行いました。入院患者の自殺に関する全国レベルでの大規模、かつ専門的・網羅的な調査は初のことで、世界初とも言える品質のものとなりました。折しも、日本では1998年に自殺者数が歴史に刻印されるほど激増し、そのまま高止まりを続けていた時期でした。私は、病院は自殺のホットスポットであるという仮説を立てていましたが、病院内では予想通り多くの自殺が生じていることが明らかとなり、調査結果を踏まえて、上記検討会により自殺対策のための提言が作成されました。ちなみに、当時、調査結果はテレビ・新聞等で大きく報道されました。

その後、上記協議会は事の重要性を鑑みて、新たに「院内自殺の予防と事後対応に関する検討会」(座長:河西千秋)を設置しました。検討会には、自殺対策専門家だけでなく、精神医学、看護、患者安全、病院管理、福祉、そして後にサイコオンコロジー、心身医学などのさまざまな領域から専門家が参画しました。検討会では病院内の自殺事故対策のための教育研修プログラムを開発しましたが、これは2日間にわたり、入院患者の自殺事故の実態、自殺予防学の基礎、精神保健や患者安全の観点による自殺予防対策などを講義と実習から学び、さらに自殺事故を経験した医療者のケアをも含む内容でした。このプログラムによる「院内自殺の予防と事後対応のための研修会」と銘打った当該教育研修会が2011年に開始され、2024年まで開催された後、2025年より、その研修事業と教育資材は、公益財団法人日本医療機能評価機構と一般社団法人日本自殺予防学会との協議と文書の取り交わしを経て日本自殺予防学会が継承することとなりました。そして「院内自殺の予防と事後対応のための研修会」(Hospital On-Site Suicide Prevention Educational Course:HOSP研修会)が2025年8月に日本自殺予防学会主催で開催されました。本書は、事業継承を機に、新訂され発刊されたものとなります。

本書は、入院患者の自殺予防だけに特化しているわけではなく、自殺のハイリスク者であるがん患者の自殺問題、最も強い自殺のリスク因子である自傷・自殺未遂などの自殺関連行動、自殺のリスク・アセスメントと問題解決アプローチ、自殺を経験した医療スタッフの悲嘆ケアや産業メンタルヘルスの観点からのスタッフ支援、国の自殺対策施策、地域の自殺対策のための地域介入活動に至るまで、多くの情報と技術論に溢れ、最近のトピックス紹介も豊富です。本書はどこから読んでいただいてもよいように構成されており、自殺予防やメンタルヘルス対策の実践に取り組む方から知識の獲得や整理をしたい方まで、この領域に関心をもつ多くの方々に多くの役立つ情報を提供できるものと確信しております。

「医療者は、患者の病気だけを診るのではなく、人としての患者全体を診なければならない」と、私たち医療者は幾度となく聴かされてきましたが、私たちはそのために何をしてきたのでしょうか。確かに医療者は接遇教育を受けるようになり、医療サービスや地域連携にかかる相談室等も多くの病院に設置されています。しかし、日本の医療は、果たして苦悩している患者のこころの問題にどれほど対応できているのでしょうか。日本は世界有数の高自殺率国です。自殺は、患者が苦悩してきた過程で生じる悲劇的な結末であり、自殺で死亡した患者や自殺未遂患者の多くが、自殺を企図した際に精神疾患に罹患していたことが明らかになっています。患者を自殺から守るためには、その患者の苦悩の具体的な中身とメンタルヘルスの状態を真に理解し、真に役に立つ具体的な問題解決アプローチをしていかなければなりません。つまり、患者の自殺対策を考えることこそが、真に患者に向き合い、真に人生と生活の支援、およびメンタルヘルス支援を行うことに他ならないのです。

本書を読み進められた皆様は、ぜひ、HOSP研修会に参加なさってください。研修会で皆様をお待ちいたします。

2025年9月
編著者を代表して
河西千秋

目次を見る

―第1部 病院内の自殺にかかわる基礎知識
【第1章 病院内の自殺事故】
■1 病院内の自殺事故
自殺は主要な重大医療事故
自殺事故の事態の深刻さ
自殺事故は予防可能
精神科病院における自殺対策
認定病院患者安全推進協議会による研修会
自殺事故後の医療者支援の意義
■2 病院内の自殺事故の実態
認定病院患者安全推進協議会による院内自殺についての調査
2005年調査
2015年調査
[コラム]海外での自殺事故研究

【第2章 自殺企図行動に関する基礎知識】
■1 日本の自殺問題
自殺者数の推移からみえてくるもの
自殺行動の実態:日本で自殺の激増が起こる背景
がん患者の自殺
子どもの自殺の状況と対策
■2 自殺対策基本法と自殺総合対策大綱
自殺対策基本法と自殺総合対策大綱の成立過程
自殺総合対策大綱での基本施策領域
施策と医療機関の対策との連携例:自殺未遂者ケアや被災地の心のケア等
地域自殺対策緊急強化基金から自殺対策交付金への流れと市町村計画
医療機関で求められること
■3 自殺と自殺関連行動
自殺とは
自損行為と自殺企図行動
自殺未遂と自傷行為
自殺念慮
自殺関連行動
■4 自殺の危険因子
個人的要因
人間関係の要因
地域的要因
社会的要因
保健医療システムの要因:ヘルスケアへのアクセスの障壁
[コラム]災害と自殺問題
[コラム]パンデミックと自殺問題
■5 精神疾患と自殺
心理学的剖検から得られた知見
主な精神疾患と自殺
自殺対策と精神保健
[コラム]認知症と自殺
[コラム]心理学的剖検
■6 身体疾患と自殺
悪性腫瘍以外の身体疾患と自殺の関連
身体疾患における自殺リスク
自殺リスクの高い身体疾患(悪性腫瘍以外)
身体疾患の治療薬と自殺リスク
治療的介入
[コラム]せん妄による事故
[コラム]周産期の自殺問題
■7 がんと自殺
がん患者の自殺
がん対策推進基本計画
臨床的な対応
まとめ
[コラム]がん告知直後の対応
■8 アディクション(依存症)と自殺の関連
アディクション(依存)と自殺の密接な関係性
アディクションの対義語はコネクション
アディクションの理解における重要なポイント
なぜアディクションは自殺リスクを高めるのか
アディクションにおける自殺の予防
アディクション支援のポイント:回復の種をまく
■9 自殺に傾く人の心理
自殺に至るプロセス
なぜ死にたくなるのか
自殺のリスク評価:自殺念慮を確認する
自殺念慮への対応

【第3章 自殺予防医療の取り組み】
■1 自殺対策の基本
自殺の危険因子
自殺の1~3次予防
WHOの自殺対策戦略
■2 精神疾患治療における自殺予防
精神疾患治療における自殺予防の特異点
入院診療
外来診療
[コラム]依存症者の院内自殺予防
■3 身体疾患治療における自殺予防
身体疾患と自殺リスク
自殺リスクと心理社会的要因
がん患者の自殺予防のための介入例
■4 自殺未遂と自傷行為への対応
ACTION-J研究とは
ACTION-J研究の成果の社会実装
自殺未遂者・自傷行為者への対応
[コラム]自殺未遂者支援のソーシャルサポート
[コラム]チーム医療による自殺未遂者支援

【第4章 地域自殺対策】
■1 地域自殺対策の基本
自殺対策の重要な視点
心理的危機に対応するネットワーク
地域での自殺対策の進め方
地域での自殺対策の具体例
ネットワークの重要性
[コラム]地域の自殺対策のエビデンス:NOCOMIT-J
■2 自殺対策のためのゲートキーパー
ゴットランド島における一般医への介入
日本のゲートキーパー養成の推進体制
ゲートキーパーの役割
医療従事者が担うゲートキーパーの重要性
■3 地域自殺対策での病院の役割・連携
自殺者の最多の動機である健康問題
精神科への受診経路からみえること
医療へのアクセスと連携の重要性
自殺対策における地域の連携やケアの基幹的役割
精神障害にも対応した地域包括ケアシステム
[コラム]こころの連携指導料
■4 関連職種と専門教育
医療従事者などへの自殺対策の教育的アプローチ
国家的なゲートキーパー養成プログラム
病院内の自殺予防とスタッフケア
[コラム]看護職へのゲートキーパー教育
■5 自死遺族支援
自死遺族支援の意味
遺族が求める情報
つながる社会資源と医療者の役割

【第5章 自殺が生じた後の課題】
■1 自殺事故の周囲への影響と遺された人の反応
病院の自殺事故の実態
事故の影響を受ける人々
事故後の対応は自殺予防のための要諦
事後対応に関する課題
■2 遺された人とメンタルヘルス不調
遺された人におけるメンタルヘルスの不調
急性ストレス反応
複雑性悲嘆
適応障害
うつ病
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
[コラム]遺族外来

―第2部 病院内の自殺対策の実践
【第6章 病院内の自殺予防対策の課題と実践】
■1 病院内における1次予防対策
ホットスポット対策
自殺予防の教育・研修
患者・家族に対する情報提供

[コラム]入院患者の荷物確認・物品管理
■2 病院内における2次予防対策
リスクアセスメント
危機介入:自殺へ傾く人へのコミュニケーションと死にたい気持ちへの対応
部署内・部署間の情報伝達・共有
専門診療科へのつなぎ
社会資源へのつなぎ
[コラム]EM-PASS
[コラム]両立支援コーディネーター
■3 病院内における3次予防対策
自殺発生後の対応
事後の遺族対応
遺された医療者への対応:対応モデル
[コラム]医療者に必要な産業保健の知識
[コラム]休復職対応

【第7章 患者の自殺と病院の法的責任】
法的責任を考える意味
精神科病棟の場合
一般病棟の場合
説明義務違反
通院やオンライン受診の場合

【第8章 病院内の体制整備】
■1 病院全体の体制づくり
病院管理の視点から
診療の質の管理
部署内・部署間の連携
職場環境と職員の健康管理
[コラム]災害下のスタッフケア
[コラム]安全配慮義務
■2 病院外資源の活用と連携
社会資源とは何か
社会資源の活用の際の留意点
「生きづらさ」にアプローチする社会資源の登場
■3 自殺事故対応のための病院の体制と全体のフロー
自殺発生時の対応における病院の体制
事故現場での対応
[コラム]院内自殺予防の実践1:埼玉医科大学国際医療センター
[コラム]院内自殺予防の実践2:聖隷三方原病院



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