矢野邦夫先生に「ニューヨーク市におけるNDM産生カルバペネム耐性腸内細菌目細菌」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
*INFECTION CONTROL34巻10月号の掲載の先行公開記事となります。
「ニューヨーク市におけるNDM産生カルバペネム耐性腸内細菌目細菌」
2019年から2024年にかけてニューヨーク市(New York City, NYC)において、「ニューデリー・メタロ—β—ラクタマーゼ産生カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(carbapenem-resistant Enterobacterales, CRE)」の症例が著しく増加している。その状況をCDCが記述しているので紹介する[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/wr/pdfs/mm7423a2-H.pdf]。
カルバペネム耐性腸内細菌目細菌
腸内細菌目細菌は、大腸菌や肺炎桿菌を含む、グラム陰性菌の大きなグループである。これらの感染症の治療には、しばしば広域抗菌薬であるカルバペネム系抗菌薬が用いられる。CREの出現は、さまざまなメカニズムによって引き起こされるが、特に、カルバペネム分解酵素の産生がその一因である。カルバペネム分解酵素を産生するCREは、その遺伝子がプラスミドを介して容易に拡散するため、特に懸念される。
カルバペネム分解酵素
米国においては、1996年以降、KPC(Klebsiella pneumoniae carbapenemase)が腸内細菌目細菌において主要なカルバペネム分解酵素であった。これに対し、NDM(New Delhi metallo-β-lactamase)は米国では一般的ではなく、海外渡航者と関連付けられてきた。NDM 産生CRE はKPC 産生CRE の治療に通常用いられる抗菌薬(セフタジジム・アビバクタム配合薬など)に対しても耐性を付与する。
ニューヨーク市におけるNDM産生CREの疫学的動向
NYC 保健局は、2019年から2024年にかけてNDM産生CRE症例の顕著な増加を継続的に観察している。NDM産生CRE症例数は、2019年の58件から2024年には388件へと大幅に増加した。一方、KPC産生CRE症例数は年間277件から332件の間で比較的安定している。特筆すべきは、2024年にはNDMがKPCを上回り、CRE症例で最も頻繁に報告されるカルバペネム分解酵素となったことである。
症例の特徴と感染経路の可能性
NDM 産生CRE 症例の増加の具体的な原因は、まだ完全に解明されていない。診断時の患者の住所にもとづくと、NDM 産生CRE 症例1,069件のうち、30%が長期療養施設(long-term care facilities, LTCF)の居住者であった。この割合は2021年には38%(96件中36件)でピークに達したが、2024年には25%(388件中96件)となった。既知のLTCFへの曝露がない人々の間でNDM 産生CRE の割合が増加していることは、CREの伝播がこれまで特定されてきた医療環境を超えて、市中感染が起こっている可能性を示唆している。
2019年から2024年にかけて、NDM 産生CRE の年齢調整罹患率は市全体で毎年増加し、2018~2021年には10万人当たり1件未満であったものが、2024年には3.8件に達している。NDM 産生CRE症例において、肺炎桿菌が最も頻繁に報告された菌種であり(68%)、尿が最も一般的な初期検体源であった(43%)。
今後の対策
KPC産生CREとNDM産生CREによる感染症では、異なる種類の抗菌薬による治療が必要となる場合がある。医療提供者は、CRE感染症患者に対して抗菌薬治療を開始する際に、自身の臨床環境で現在優勢なカルバペネム分解酵素の種類を認識しておくべきである。
NDM の増加を考慮すると、CRE 感染のリスクがあるNYC住民を治療する医療提供者は、特に重症CRE感染症の患者に対して、セフィデロコルの投与、またはセフタジジム・アビバクタムとアズトレオナムの併用療法など、NDM 産生CRE に有効な経験的治療を検討し、カルバペネム分解酵素や感受性検査の結果にもとづいて必要に応じて治療を調整することが推奨される。

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*INFECTION CONTROL34巻10月号の掲載の先行公開記事となります。
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