新約聖書『コリントの信徒への手紙二』4章18節に「わたしたちは見えるものにではなく、見えないものに目を注ぎます」という一節がある。宗教には疎い筆者の勝手な解釈で、移ろい変わる物事の表層ではなく、変わることのない本質を見ることが大切なのだという教えと受け止めたが、日々物言わぬ赤ちゃんの声なき声に耳を傾け、内面で進行している目に見えない病態を見つめていかなければならないわれわれ周産期医療に携わる者にとっても大切な教えだと思う。
さて、このたび2015年の『新生児の症状別フィジカルアセスメント』、2020年の『パーフェクト版 新生児のフィジカルアセスメント』に引き続き、『決定版 新生児のフィジカルアセスメント』を皆さんのもとにお届けすることができた。本書では、物言わぬ赤ちゃんが全身を使って訴えかけてくるさまざまな生体情報を読み解く技を全国の現場で活躍する診療の達人たちに施設で受け継がれてきた貴重なノウハウも含めて解説していただいた。さらにそれぞれの施設で実際にケアを担っている看護師たちから看護実践のコツも紹介していただき、情報満載の充実した一冊になっている。
日々進歩する医学の世界では、新しい診断機器や検査方法が次から次へと登場し、以前ではできなかった診断が下せるようになってきている。しかし、どれだけ医療の先端環境が変わろうと、本書に示されている赤ちゃんたちが発する生体情報の意味はこれからも変わりはない。それらを見逃さずにしっかりと受け止め、自身の知識と経験に照らし合わせて読み解いていくことの重要性も今後も揺るがないであろう。
「見えないものに目を注ぎ」「聞こえない声に耳を傾けて」いく姿勢は、赤ちゃんの命を支えていくスタッフにとって必須のものである。本書が、皆さんの日々の実践に少しでもお役に立つことを願っている。
編著
聖隷こども家庭総合支援センターセンター長
大木 茂
本記事は『with NEO』2025年秋季増刊号 序文からの再掲載です。
