蛎﨑奈津子
「看護のすばらしさを伝える仕事に就きたい…」高校1 年生の私が進路相談で発した言葉である。幼少期、母と妹とともに向かった月に数回の大好きな父のお見舞い。看護師たちが父の入院生活を優しく支えている姿が、7歳で最愛の父と別れるという事実とともに、幼心に焼き付いていた。今振り返れば、「看護」が何かもわからぬまま、進路指導の教諭に思いを伝えていたことに赤面する。
幸運にも、教育学部で看護学を学べる大学に進学することができた。終末期の看護に関心を寄せて過ごす中、実習でいのちが生み出される瞬間に立ち会う機会をいただいた。助産師による自律した判断と温かなケア。新しいいのちの育みへの関わりに一気に心を奪われた。
晴れて助産師となり、大学病院と診療所に勤務し、多くの妊産婦とご家族に関わることができた。喜びにあふれる出産場面に心を震わせる一方で、唯一経験した母体死亡と年に数回遭遇してしまう胎児死亡に心を痛め続けた。その後、縁あって看護基礎教育に携わることとなった。師と思える多くの上司から「教えること」の実際を細やかに伝授していただき、試行錯誤の日々を過ごした。
そのような日々の中で、一冊の本に出会った。『誕生死』という周産期に子どもを亡くした経験を綴った本である。このとき初めて、子どもを亡くした方々の苦しい胸の内とつらい現実を初めて知ることとなった。そして、仲間とともに子どもを亡くした経験のある者同士が自由に思いを語り合える「ちいさなお星さまの会」を立ち上げるに至った。途絶えた小さないのちの存在は、親たちの語りによって生かされ続けていくことを教わった。幼い自分にはできなかった“語ることの大切さ”を痛感した。
今は幸いにも、助産師関連の複数の職能団体と関わらせていただいている。少子化が加速する地方都市で懸命に奮闘している助産師たちが、この地でやりがいと誇りを胸に活動できるよう、その環境整備の役に立ちたい。看護師や助産師を目指して進学してくれる学生たちの未来をつなぐ教育に尽力し続けたい。幸運によってつながれたかけがえのない日々への感謝を胸にそう願いながら、私は今、ここにいる。
本記事は『ペリネイタルケア』2025年9月号の連載Rootsからの再掲載です。
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