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トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【連載】CDCガイドラインニュース「キャンピングカーの水を用いた鼻うがいに関連する原発性アメーバ性髄膜脳炎」

矢野邦夫先生に「キャンピングカーの水を用いた鼻うがいに関連する原発性アメーバ性髄膜脳炎」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。

*INFECTION CONTROL34巻9月号の掲載の先行公開記事となります。

「キャンピングカーの水を用いた鼻うがいに関連する原発性アメーバ性髄膜脳炎」

 キャンピングカーの水で鼻うがいをすることによって、原発性アメーバ性髄膜脳炎(primary amebic meningoencephalitis, PAM)に罹患した可能性のある症例をCDC が報告しているので紹介する[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/wr/pdfs/mm7419a4-H.pdf]。

原発性アメーバ性髄膜脳炎

 PAMは、自由生活性アメーバであるNaegleria fowleriによって引き起こされる、まれではあるが致命的な脳感染症である。通常、この感染症はレクリエーション活動における水への曝露と関連しているが、鼻うがいを行う際に水道水を使用することもPAMの危険因子となる。不適切に管理された水道水システムやキャンピングカー(recreational vehicle, RV)の水系システムは、水系感染症の発生源となる可能性がある。

症例

 これまで健康であった71歳の女性が、テキサスのキャンプ場においてRVの水系システムからの水道水を満たした鼻うがい装置を使用した後、4日以内に重度の神経症状を発症した。症状には発熱、頭痛、精神状態の変化があった。PAM感染が疑われ、医療処置が施されたにもかかわらず、症状発現から8日後に死亡した。CDCでの検査により、脳脊髄液中にN. fowleriが確認された。

感染源の調査

 テキサス州保健サービス局による疫学調査が行われ、患者の病歴および曝露歴のレビューが含まれた。患者には新鮮な水でのレクリエーション曝露はなかったが、発病前の4日間に、RVの飲料水栓から得た非沸騰水を使用して鼻うがいを数回行っていた。この習慣が二つの水源を示唆した。一つはRVの飲料水タンクであり、患者が3ヵ月前にRVを購入する前に貯水された水が充填されていた。二つ目はキャンプ場の水道水システムであり、患者が鼻うがいのために水を使用した際には、RVの飲料水システムに接続されており、タンクはバイパスされていた。

 これらの水源を評価するため、12の環境サンプルを収集した。これらのサンプルには、患者が使用した鼻うがい用ボトル、RV給湯器の水、RVシャワーヘッド、キッチンおよびバスルームのシンク蛇口のスワブが含まれた。さらに、RV飲料水タンクおよびRVが接続されていたキャンプ場水道からも検体が収集された。

 CDCはすべてのサンプルでN. fowleri の検査を実施したが、キャンプ場水源やRV水系システムからはN. fowleri のDNAやアメーバは検出されなかった。しかし、キャンプ場の水道水システムのサンプルにおける総塩素およびモノクロラミンのレベルは、最小消毒薬残留レベルを大きく下回っていた。また、RVが接続されていたキャンプ場での水には不十分な消毒効力が示唆された。不十分な消毒効力は、バイオフィルムの成長につながった可能性がある。バイオフィルムは細菌やN. fowleri のようなアメーバを含む病原体の保護シールドとして機能し、アメーバを消毒薬に対してより感受性を低くすることが示されている。

鼻うがい

 鼻うがい以外の曝露が特定されなかったこと、および、キャンプ場水道水およびRV水道水の水質に懸念があったことを考慮すると、鼻うがいでの水道水の使用が推定される曝露経路である。採取されたサンプルから病原体が分離されなかったことは、サンプリングが、患者が水を使用してから23日後に行われ、感染が発生したときとは環境条件が異なっていた可能性があることで説明できる。加えて、病原体はサンプリング時に存在していたが、検出限界以下のレベルであった可能性もある。

結論

 今回の致命的な症例は、日常的な行為である鼻うがいに潜む希少ながら深刻なリスクを明確に示した。特に、管理が行き届いていない可能性のあるRV の水系システムや、水道水の消毒状態が不十分な地域では、一層の注意が必要である。個人レベルでは、鼻うがいには必ず安全な水(蒸留水、滅菌水、沸騰後冷却した水道水)を使用することが最大の予防策となる。

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*INFECTION CONTROL34巻9月号の掲載の先行公開記事となります。

*本記事の無断引用・転載を禁じます。