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トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【連載】『感染症界隈』が苦手な人の会「発熱性好中球減少症」

*本連載は2017年9号本誌連載の再掲載記事になります。

今月の会のテーマ 発熱性好中球減少症

??会員からの質問

 急性白血病の患者が抗がん剤による化学療法によって白血球が低下しているときに発熱しました。その直後から血圧が一気に低下し、敗血症性ショックになってしまいました。何とか回復したのですが、アッという間の出来事でした。どうして、このようなことになったのでしょうか?

ざっくり解説すると!!

  • 抗がん剤による化学療法では、骨髄での血液細胞の増殖が抑制されるため、好中球が大きく減少します。好中球の減少によって腸管内で細菌が大量に増殖します。
  • 抗がん剤は粘膜も障害します。その結果、腸管の粘膜に潰瘍や糜爛びらんが多数発生し、そこから細菌が血流に容易に侵入します。
  • 好中球が減少している患者での発熱の原因となっている病原体は腸管に由来します。この場合、緑膿菌にも有効な抗菌薬の投与を迅速に開始することが大切です。

理解しておくべきキーワード

好中球 :白血球には好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球があります。これらの細胞が占める末梢血液の中の白血球での割合は、一般的に好中球50~60%、好酸球3%、好塩基球1%、リンパ球30~40%、単球5%程度です。この割合は同じ人でも毎日のように変動しています。白血球のなかで好中球が減少した状態を好中球減少症といいます。好中球は細菌などの異物を取り込んで殺菌する白血球なので、その減少によってヒトは感染症に脆弱になります(図1)。

インフェ2017年9号 感染症界隈 図1

図1 好中球の働きのイメージ
好中球は病原体から体を守るシールドの1つ。好中球が減少すれば、病原体の攻撃から身を守れない。





好中球減少患者 :好中球減少患者とは「好中球500/μL未満の患者」もしくは「500/μL未満までの低下が予測される1,000/μL未満の患者」のことをいいます。実際には、好中球が1,000/μL未満になると感染の危険性が高くなり、500/μL未満になると危険性は相当高くなります。そして、100/μL未満となればきわめて危険な状態になります(図2)。

インフェ2017年9号 感染症界隈 図2

図2 好中球減少(≒株価暴落)への対処





それでは、矢野が解説します!分かりにくかったらすみません

高層ビルでの綱渡り 

 好中球減少症のイメージは「高層ビルと高層ビルの間で綱渡りをしている!」というのが当てはまるのではないかと思います。映画化されたシーンを思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれませんが(注:「ザ・ウォーク」〔原題:TheWalk〕)、ニューヨークにあるワールドトレードセンターの2つのタワーの間で本当に綱渡りをして人々を驚かせた、あのフランスの綱渡りの大道芸人の綱渡りシーンのような状況です。とにかく、危険な状況といえます。

 そして、発熱性好中球減少症は「綱渡りしているときに足を滑らした!」という状況となります。綱渡りでは、綱の上にいるときには元気ですが、綱を踏み外したときには一気に生命が危うくなります。これと同様に、好中球減少症だけならば何とか無事なのですが、その状況で発熱すると敗血症が引き起こされ、一気に血圧が低下し生命が危険になるのです。そのため、発熱性好中球減少症では迅速に抗菌薬投与を開始しなくてはなりません。

 高層ビルでの綱渡りでは落下すれば生命が危うくなるのですが、高さ1メートルほどならば最悪な状況で骨折程度かもしれません。しかし、発熱性好中球減少症ではそうはいきません。たとえ、1メートルの高さであっても、その下には川が流れており、そこには人食いワニが多数すんでいる状況なのです。落下すればワニに食べられてしまうのです。この発熱性好中球減少症の場合では緑膿菌がワニ役を果たしています。

 ワニが生息している川に落下した人がいたら、どうすればよいのでしょうか? やはり、ワニをやっつけて落下した人を救い出さなければならないでしょう。発熱性好中球減少症では、すなわち、緑膿菌に有効な抗菌薬の投与を開始するのです。金魚やフナに有効な抗菌薬であっても仕方がありません。そのような抗菌薬では患者を救うことができません。

 緑膿菌は腸管内にすみ着いていて、好中球が減少しているときに増殖します。そして、抗がん剤などで腸管粘膜に障害がみられたときに、そこから血中に入り込み、敗血症となるのです。

 ワニが繫殖している川に落下すると危険ですが、ワニを駆除すれば危険性は大きく減少します。そのため、発熱性好中球減少症ではワニ対策として緑膿菌に有効な抗菌薬を迅速に投与するのです。


ダメージ加工されたジーンズ 

 子どものころ、友達と遊んでいたとき、友達が転んでズボンに穴があいてしまったことがあります。友達は「穴があいちゃった!お母さんにおこられる!」と泣いて帰っていきました。せっかく、買ってもらった衣類に穴があいてしまったら、修繕するか買い直すかということになります。

 最近、街を歩いていると、穴があいているジーンズをはいている若者を多く見かけます。その穴は小さなものではなく、比較的大きいのです。初めて見たときには驚きました。「ジーンズが傷んでも、修繕も買い替えもできないなんて気の毒だなあ!」と思ったのです。しかし、そのような穴あきジーンズをはいている若者があまりにも多いので、それがファッションだと気付くまでに時間はかかりませんでした。あのような中古品にもならないものが、新品として販売されているというのはまったく驚きです。それはさておき。

 抗がん剤が投与され、白血球が低下している人の腸管をイメージするにはダメージ加工された「穴あきジーンズ」が最も適切かもしれません。穴の部分から土埃が内側に入り込み、冷たい空気も侵入します。抗がん剤でダメージを与えられた腸管にも多数の潰瘍や糜爛びらんが発生しているので、腸管内に存在する病原体がダメージ部分を通過して容易に血流に入り込むことができるのです。「発熱性好中球減少症の患者の腸管粘膜=穴あきジーンズ」というイメージは大切なことと思います。


あれ?うまくいかないときはどうすればいい?

好中球減少症の患者が発熱した!  発熱性好中球減少症は抗がん剤によって好中球が低下したときに発生します。もちろん、抗甲状腺薬などの副作用によって好中球が減少することもあります。臨床現場では、好中球が低下している患者の把握は重要です。「すでに、好中球が減少している」もしくは「そろそろ、好中球が減少してきているであろう」という患者が発熱したならば、主治医に「患者が発熱しました!」と単に報告するのではなく、「好中球が減少している患者が発熱しました!」と告げることが大切です。そうすれば、主治医も適切な抗菌薬投与を迅速に開始することができるのです。


●文献

1) Freifeld AG, et al. Clinical Practice Guideline for the Use of Antimicrobial Agents in Neutropenic Patients with Cancer:2010 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis.52(4),2011,e56-93.


インフェクションコントロール34巻6号表紙

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