国立病院機構岡山医療センター小児神経内科
竹内 章人(小児神経専門医・周産期専門医)
★動画の内容を少しご紹介します
ここでは、新しく始まる5歳児健診について、わかりやすくお話しします。
※注:この動画の視聴期限は、2025年12月31日です。
なぜ5歳児健診?
まず、なぜ今5歳児健診が導入されることになったのかというところをお話しします。キーエイジでの健診は1歳半や3歳などで行われています。重篤な身体的疾患については多くは3歳児健診までに指摘されているといわれています。典型的な自閉スペクトラム症などは3歳でもすでに気づかれていることが多いです。
5歳児では、さらに社会性が発達してきている年齢になっていて、集団生活を営む上で必要な社会性の発達などの行動面の評価が重要になってきます。また肥満ややせのチェック、食事、睡眠などの生活面にも注目していきます。
体の問題のチェック
健診ですので、全身くまなくチェックしていきます。まず体の問題のチェックとしては、基本になる身体発育の確認があります。身長・体重を測定し、成長曲線にプロットしていきましょう。数値が97%以上だったり3パーセンタイル未満だったりする場合、また数値のプロットがグラフの2つの線を超えて増加している場合、つまり増えすぎの場合、逆に身長や体重の増加がなく停滞している場合には医療機関に紹介しましょう。身長と体重のバランスにも注意が必要です。
<粗大運動発達>
次に運動発達を見ていきます。粗大運動発達については、5歳では片足立ちできるかどうかを見ます。問診では、片足で5秒以上立てるかどうかを聞き、実際の診察では片足立ちを左右それぞれ確認しましょう。5秒以上できない場合また左右差がある場合は療育相談に紹介しましょう。
<微細運動発達>
微細運動のチェックとしては、問診で「ボタンのかけ外しができますか?」「お手本を見て四角が書けますか?」を聞きます。診察場面では、親指と人差し指のタッピングを左右それぞれ確認します。タッピングがリズムよくできていない場合、著しい左右差がある場合には療育相談に紹介しましょう。
<目の異常>
次に目の異常をチェックします。問診では、目のことで気になる症状がないかどうかを確認します。さらに3歳児健診で目の異常を指摘されたかどうかも確認しましょう。保護者から視力や目の症状の相談があった場合には、眼科に紹介しましょう。また3歳で要精密検査になってもそのままスルーされていることがありますので、それに気がついた場合も必ず眼科に紹介しましょう。
目の診察では、白色瞳孔、羞明・流涙・充血の有無、眼球の大きさに左右差がないかどうか、まぶたの異常がないかどうかチェックします。さらに左右それぞれで固視・追視・輻輳の確認をします。追視は8方向の確認をしましょう。またペンライトを用いて、眼位の確認をします。どれか一つでも異常があれば眼科に紹介しましょう。
<耳の異常、発音不明瞭>
次に耳の異常や発音についての確認をします。問診としては、はっきりとした発音で話ができるかどうか、特にカ行やサ行が言いにくくてタ行になってしまっていたり、不明瞭な発音があったりしないかを聞きます。また聞き間違いが多いと感じていないかどうかを聞きましょう。
発音が不明瞭な場合、いくつかの原因が考えられます。例えば高音が聞こえないタイプの難聴では子音が聞き取りにくくなり、カ行やサ行の聞き取りが悪く、それらが上手に発音できなくなっていることもあります。また舌小帯短縮や粘膜下口蓋裂が発音不明瞭の原因になっていることもあります。家族以外には聞き取れないという場合には、鼻咽腔閉鎖不全や筋緊張低下が背景にある可能性も考えます。いずれにしても発音に関して気になる所見があれば耳鼻咽喉科に相談しましょう。
また聞き間違いが多いと答えた場合には、次のようなことをさらに確認してみましょう。ざわざわしているときに聞き返しが多いか、高音部の難聴の場合にこのパターンになりやすいともいわれています。また少し離れた場所から呼びかけたときの反応はどうか、ささやき声で質問して反応があるかどうかについても確認してみましょう。これらについても問題があれば、耳鼻咽喉科に紹介し、聴力の精査が必要です。
行動面の評価で指摘されうる疾患
5歳児健診の行動面の評価で指摘され得る疾患には、軽度から境界域の知的発達症、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、場面緘黙、吃音、機能性構音障害などがあります。
理解に関する課題
まず理解に関するチェックでは、会話のやりとりをしっかり観察することが必要です。氏名と年齢が言えているかどうか、保育所や幼稚園の名前、所属する組の名前、担任の先生の名前が言えるかどうかを確認します。さらに気持ちや考えの表現のチェックとして、好きなおかずや好きな遊び、好きなことを尋ねてみると良いと思います。
聞き取りの後は、じゃんけんとしりとりをしてみましょう。5歳児であれば平均的にはじゃんけんの勝ち負けを正しく理解していて、またしりとりのルールも理解できています。実際にじゃんけんをしてみて、3回続けてじゃんけんの勝ち負けが正しく判断できているかどうかを見てみましょう。また、しりとりが3往復以上、正しくできているかどうかも確認します。
以上、この解説動画の冒頭部分をご紹介しました。この動画の内容は以下の通りです。ぜひ、ご覧ください。(動画の長さ:約23分43秒)
〜この動画では以下の内容を解説しています〜
- なぜ5歳児健診?
- 体の問題のチェック
- 身体発育
- 粗大運動発達
- 微細運動発達
- 目の異常
- 耳の異常、発音不明瞭
- 行動面の評価で指摘されうる疾患
- 理解に関する課題
- 会話のやり取りを観察/氏名と年齢は?/ジャンケン/しりとり
- ASDとADHD
- 情緒・行動面のチェック項目
- こだわりや仲間関係が気になったら
- ASD診断基準(DSM-5)
- ASDの特徴
- 多動性衝動性/不注意が気になったら
- ADHD診断基準(DSM-5)
- 発達特性を量的に評価する
- 過剰適応状態を見逃さないように
- 生活習慣・睡眠のチェック
- 睡眠はとても大事
- 育児困難について
- 事故予防
令和3年度~5年度こども家庭科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業
https://www.jpa-web.org/dcms_media/other/5歳児健診マニュアル.pdf
2)American Psychiatric Association. DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(2014)
自治体保健師のためのWEBセミナー
お母さんをもっと笑顔にする 地域の子育て支援をいっしょに考えよう
主催:株式会社メディカ出版
共催:大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻
この動画は上記プロジェクトのために制作されたものです。
(動画収録:2024年10月)
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