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トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【連載】『感染症界隈』が苦手な人の会「肺炎」

*本連載は2017年6号本誌連載の再掲載記事になります。

今月の会のテーマ 肺炎

??会員からの質問

 肺炎には市中肺炎、院内肺炎、医療・介護関連肺炎、人工呼吸器関連肺炎、誤嚥性肺炎、非定型肺炎などさまざまなものがあり、また、それぞれの肺炎の治療に用いる抗菌薬も違うようで、よく分かりません。肺炎とその治療について分かりやすく解説してもらえますか?

ざっくり解説すると!!

  • 肺炎に罹患した場所が自宅や職場ならば「市中肺炎」です。入院はしていないけれども、医療環境に頻繁に出入りしている人の肺炎ならば「医療・介護関連肺炎」、急性期病院に入院中に合併した肺炎ならば「院内肺炎」となります。「人工呼吸器関連肺炎」は「院内肺炎」です。
  • 「市中肺炎」「医療・介護関連肺炎」「院内肺炎」の順に医療環境による汚染が濃厚になることから、病院内に蔓延している耐性菌が肺炎の原因になる頻度も増えます。
  • 「市中肺炎」は健常な人においても肺炎を発症させることができる細菌が原因です。一方、「医療・介護関連肺炎」や「院内肺炎」は脆弱な患者で発生する肺炎です。健常な人に肺炎を引き起こすことができない病原体であっても、「医療・介護関連肺炎」や「院内肺炎」を引き起こすことができます。そして、その多くが耐性菌です。
  • 「誤嚥性肺炎」は日常的に誤嚥している高齢者で発生することが多く、高齢者は病院やクリニックを頻繁に訪れていることもあって「医療・介護関連肺炎」には「誤嚥性肺炎」が多くみられます。

理解しておくべきキーワード

市中肺炎 :社会生活を営む健常人に発症する肺炎であり、細菌性肺炎と非定型肺炎があります。前者は肺炎球菌やインフルエンザ菌などが原因菌となります。後者はマイコプラズマ・ニューモニエ、クラミドフィラ・ニューモニエなどが原因菌です。

院内肺炎 :入院48時間以降に新しく出現した肺炎のことです。入院が必要な患者での肺炎ということから、患者は基礎疾患をもち、免疫能や全身状態などが低下しています。そのため、治療が困難になることが多いのです。

医療・介護関連肺炎 :「長期療養型施設や介護施設に入所している患者」「病院を退院してから90日以内の患者」「介護を必要とする高齢者・障がい者」「通院にて透析や化学療法などの血管内治療を受けている患者」に発生した肺炎です。市中肺炎と院内肺炎の間に位置するものですが、医療環境に滞在もしくは出入りしている患者での肺炎と考えてください(図1)。

インフェ2017年6号 感染症界隈 図1 図1 耐性菌への曝露の機会


人工呼吸器関連肺炎 :気管挿管による人工呼吸開始48時間以降に発症する肺炎です。気管挿管4日以内に発症した肺炎を早期発症型、5日以降に発症した肺炎を晩期発症型といいます。後者では耐性菌が原因菌になっている症例が多いことが知られています。人工呼吸器関連肺炎は院内で発生することから、院内肺炎に属します。

誤嚥性肺炎 :細菌が唾液や胃逆流物などとともに肺に流れ込んで生じる肺炎のことです(図2)。高齢者の肺炎の70%以上が誤嚥に関係しており、再発を繰り返す特徴があります。誤嚥性肺炎は医療・介護関連肺炎の主な発生機序となっています。

インフェ2017年6号 感染症界隈 図2 図2 誤 嚥
喉頭・気管方向への侵入禁止機能が不完全になったため、口腔からの飲食物や唾液、胃からの逆流物が食道方向ではなく、喉頭・気管方向に流れ込んでしまう。


それでは、矢野が解説します!分かりにくかったらすみません

 「肺炎の原因菌をイメージせよ!」といわれたら、「ライオンとハイエナ」です(図3)。ライオンはシマウマやインパラなどを追いかけて捕まえ餌にします。テレビ番組などで見る彼らは物凄いスピードで走っています。一方、ハイエナは小動物などを捕食することもありますが、ほとんど死肉に頼っています。ハイエナがシマウマのような元気な大型の動物を高速で追いかけて、餌にすることはありません。

市中肺炎 

  市中肺炎は、通常は仕事や学校に行っている元気な人々が発症します。スポーツクラブに行ったり、体育の授業を受けたりしている正常免疫の人々に肺炎を引き起こすことができる病原体が原因となって発症します。これはライオンが元気なシマウマやインパラを捕獲しているのに似ています。そのため、市中肺炎は「ライオン肺炎」と名付けるとよいかもしれません(図3)。

  ライオンは、アフリカ大陸に分布しているアフリカライオンと、アジアに分布しているアジアライオン(インドライオン)に大きく分けられます。そこで、「ライオン肺炎」も「アフリカライオン肺炎」と「アジアライオン肺炎」に分けてみましょう。市中肺炎には、細菌性肺炎と非定型肺炎があるので、細菌性肺炎を「アフリカライオン肺炎」、非定型肺炎を「アジアライオン肺炎」にしたいと思います。前者の原因菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス、後者の原因菌はマイコプラズマ・ニューモニエ、クラミドフィラ・ニューモニエ、レジオネラ・ニューモフィラです。


院内肺炎および医療・介護関連肺炎

  院内肺炎と医療・介護関連肺炎は、入院もしくは頻回な通院が必要な患者に肺炎を引き起こす病原体が原因となっています。すなわち、体力や抵抗力の弱った患者のみに肺炎を引き起こすことができる病原体による肺炎です。これはハイエナに似ています。そのため「ハイエナ肺炎」と理解しましょう(図3)。ハイエナがうようよいるような病院に長期間入院していれば、患者はハイエナに汚染されてしまいます。

インフェ2017年6号 感染症界隈 図3

図3 肺炎の分類
VAP:人工呼吸器関連肺炎


ライオンとハイエナの駆除

市中肺炎の治療 :それではライオン肺炎(市中肺炎)の治療はどうしたらよいでしょうか?まず、アジアライオン(非定型)かアフリカライオン(細菌性)かを確認します(表1)[1]。この6項目中4項目以上を満たす場合に非定型肺炎を疑います。原因菌としてマイコプラズマ・ニューモニエやクラミドフィラ・ニューモニエを推定して、マクロライド系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬を使用します。3項目以下の場合は細菌性肺炎を疑い、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスが原因菌であると推定して、ペニシリン系抗菌薬などの抗菌薬を選択します。

院内肺炎および医療・介護関連肺炎の治療 :ハイエナ肺炎(院内肺炎、医療・介護関連肺炎は、ハイエナが耐性化してきているので耐性菌にも有効な薬剤が必要となってきます。そのため、入院が必要なほど重症だったり、耐性菌汚染の可能性が高ければ、カルバペネム系抗菌薬やタゾバクタム・ピペラシリンのような緑膿菌にも有効な広域抗菌薬を用いることになります。

  人工呼吸器関連肺炎は院内肺炎に準じ、気管挿管5日以降に発症した肺炎ならば、耐性菌を考えて広域抗菌薬を開始します。誤嚥性肺炎は医療・介護関連肺炎として多くみられ、広域抗菌薬が必要なことが多いのですが、嚥下機能を評価して栄養摂取の方法を検討することが大切です。

表1 細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別法 インフェ2017年6号 感染症界隈 表1

(文献1より一部改変)

あれ?うまくいかないときはどうすればいい?

誤嚥性肺炎の治療がうまくいかないとき :肺炎の治療がうまくいかないことを頻回に経験するのは誤嚥性肺炎です。肺炎は治っても嚥下障害は改善していないので、抗菌薬治療をしているときでも誤嚥を繰り返します。そのため、肺炎がなかなか治癒しなかったり、一度改善した肺炎が反復する誤嚥によって再燃したりします。このような場合は、嚥下障害に対するリハビリテーションを同時に実施しなければなりません。また、口腔内の常在菌が肺に流れ込んでくることから、口腔ケアも大切です。肺炎球菌ワクチンも有効であることが知られています。胃瘻は誤嚥性肺炎の予防に有効というエビデンスはないので、胃瘻を造設すべきということはありません。


●文献

1) 一般社団法人日本呼吸器学会.「呼吸器感染症に関するガイドライン」成人市中肺炎診療ガイドライン.2007.


インフェクションコントロール34巻4号表紙

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