矢野邦夫先生に「妊婦におけるヒトパルボウイルスB19感染症」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
*INFECTION CONTROL34巻3月号の掲載の先行公開記事となります。
「妊婦におけるヒトパルボウイルスB19感染症」
CDCが妊婦におけるヒトパルボウイルスB19感染症について週報(MMWR)に記載しているので紹介する[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/pdfs/mm7347a4-H.pdf]。
はじめに
ヒトパルボウイルスB19(B19)は、健康な小児や妊娠していない成人では無症候性の感染や軽度の病気を引き起こすことが多いが、妊娠中(特に妊娠20週未満)の感染は、重篤な周産期後遺症を引き起こすことがある。2024年7月、ミネソタ州保健局は、母体胎児医学の専門家から、胎児合併症を伴う妊婦のB19感染の増加について通知を受けた。当時、米国ではB19の流行は報告されていなかったが、欧州の調査では、検査、臨床、献血スクリーニングのデータを通じて2023年後半から2024年にかけてB19感染が増加していることが示されていた。
調査と結果
2024年5月から8月にかけて、20~40歳の女性5人のB19感染がミネソタ州保健局に報告された。患者間の疫学的な関連は確認されておらず、また、同じ地域に住んでいなかった。4人には同居している小児がおり、そのうち2人の小児は病気(1人は輸血を必要とするB19関連貧血)で、もう1人は学校でB19が蔓延していると報告した。5人目の患者は、発熱性発疹疾患が蔓延していた保育施設のスタッフとして曝露したと推定された。
3人の患者にはB19感染に一致する症状(発熱、発疹、倦怠感、疲労、関節痛、リンパ節腫脹など)がみられた。5人の患者全員が妊娠13~20週でB19感染しており、IgMまたはPCR検査によって臨床的に確認された。このなかには、B19のPCR羊水検査が陽性の3人が含まれている。免疫不全状態や血液疾患を患っている患者はいなかった。
患者Aは胎児水腫を呈し、胎児輸血が実施できる前の妊娠20週目に胎児死亡を経験した。患者Bは3ヵ月間毎週評価を受けたが、合併症は認められなかった。患者CとDは胎児輸血を必要とする重度の胎児貧血を発症した。患者E は胎児水腫(重症浮腫)を伴う重度の胎児貧血を発症し、2回の胎児輸血が必要であった。患者B、C、D、Eは出産または新生児の合併症が確認されることなく満期出産した。
ミネソタ州保健局の公衆衛生研究所は、2人の患者の羊水を使用してメタゲノム配列解析を行ったところ、世界で最も一般的に流行している遺伝子型1Aであった。また、少なくとも35の単一ヌクレオチド多型が異なっており、最近の共通曝露源または伝播事例との関連はなかった。
2019年1月から2024年9月までのミネソタ州住民の医療システムの電子健康記録データを分析したところ、2019~2023年と比較して、2024年のパルボウイルス検査、陽性結果の数、陽性結果の割合、診断が増加しており、小児において最大の増加がみられた。
2024年1月から9月までの10ヵ月間に、B19感染の診断または検査陽性から60日以内に、B19関連妊娠合併症(胎児水腫、胎児貧血および血小板減少症、胎児輸血、死産を含む)が19人特定された。一方、2019~2023年の60ヵ月間ではB19関連妊娠合併症は29人であった。
2022年6月12日から2024年3月1日までに、合計36人の確定例と1人の疑い例が確認された。疑い例は、確定例の症例を直接ケアしてから5日後に発症したワクチン未接種の医療従事者であった。この医療従事者は検体採取前に曝露後予防を受けており、検体はポリメラーゼ連鎖反応検査と培養で髄膜炎菌陰性であった。
結論と行動
B19感染(疑い)の患者には、「妊婦やその他リスクのある人(免疫抑制状態や慢性溶血性血液疾患など)に曝露させたときには、曝露した接触者に曝露があったことを知らせ、医療相談するようアドバイスする」ことを教育する必要がある。産科医はB19に対する強い疑いをもち続け、「B19に曝露した妊婦」または「母体または胎児のB19感染に一致する症状がある妊婦」に対して、検査(血清学的検査やPCR 検査を含む)を推奨する必要がある。そして、B19感染した妊婦は、産科専門医による胎児または妊娠の合併症の評価を受ける必要がある。
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*INFECTION CONTROL34巻3月号の掲載の先行公開記事となります。
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