世界を席巻したコロナ禍後、日本の母乳育児率は、母乳栄養が約50%から30%に激減、逆に混合栄養が45%から60%に急増するという驚くべき結果となりました1、2)。
何らかのかたちでわが子に母乳を与えようと努力する母親、生存に必須である母乳を必要としている新生児/乳児、そして母親と児の最良を目指して心を尽くし支援する助産師、皆が日々奮闘しています。その奮闘と努力は、確実な成果につながっているでしょうか? 何をどうすれば、お母さんと赤ちゃんにとって楽しくラクな母乳育児がスタートし、軌道に乗り、トラブルなく安定走行できるようになるのでしょうか? いま一度、日々のルチーンケアを見直すことにより、母親・赤ちゃん・助産師が、いまどきの「コスパ・タイパの良い」確実な成果を手にすることができるかもしれません。
たとえば、乳腺炎が発症してからその対処のために多大なエネルギーを投入するのは、大火事になってから消防車が何台も出動して消火活動するようなものです。小火(ボヤ)を出さない、ボヤのうちに消火して事なきを得る、ここを目指した助産ケアが望まれます。
今回の特集は、上記のような観点を含め、最新の乳腺炎の定義や病態生理に関する情報、ボヤを出さないための母乳育児支援の基本の確認、「乳腺炎ケアガイドライン2020 2版」の利活用を含めた乳腺炎につながる様々な乳房トラブル(ボヤ)への対処、乳腺炎、膿瘍形成と切開排膿後への対処、さらに、乳腺炎と間違えやすい乳がん等の他の疾患との鑑別についても、事例や写真を用いてわかりやすく解説しています。
また、冒頭では、乳腺炎に対する助産師のケアが社会的評価を得て診療報酬として算定されるようになったことも、皆さんと共有したく概説しました。
皆さんの日々の支援を向上させ、母子にとってより良い成果へと至る一助になれば幸いです。
プランナー
日本赤十字看護大学 看護学部母性看護学・大学院国際保健助産学 教授
井村真澄
2)こども家庭庁.令和4年度母子保健事業実施状況・乳幼児健康診査問診回答状況.2022.
本記事は『ペリネイタルケア』2025年1月号特集扉からの再掲載です。