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トップページ 新生児・小児/助産/ウィメンズヘルス Cure&Care&Nursing 『からだ・私たち自身』から続く助産道|藤井ひろみ|Roots|#011

大手前大学国際看護学部 学部長・教授

藤井ひろみ


 看護とは全く違う大学に進学していた19歳の私に、ある本との出会いがありました。『Our Bodies, Ourselves』。米国の女性たちが、女性による・女性のための・女性の健康をテーマに書き綴った大作です。私の地元にあったウィメンズブックストアのオーナーである中西豊子さんというフェミニストが、この本の日本語版の出版に関わりませんか? と、私に声を掛けてくれたのです。そして、彼女の情熱に呼応した多くの女性たちと共に、翻訳・編集を担うことになりました。社会学者の上野千鶴子さんが翻訳した原稿を、最年少の私が編集して…という具合に。今やそうそうたる面々になった方々も、みんな、若かった!

 1988年に完成した『からだ・私たち自身』(松香堂書店刊)は、「女性のからだは自分のもの。子どもやパートナーのためのものじゃない。だから、自分のからだや性について自己決定していいし、そのためにもっとからだや性について知ろう」という、いわばSexual Reproductive Health/Rights(SRHR)を日本語で示した画期的な一冊となり、出版後に大きな反響を呼びました。このプロジェクトに関わった全員が、その後の生き方や仕事にSRHRの影響を受けたと思います。私も、SRHRを支えるのは助産師だ! と確信し、その後、開業助産師になりました。

 当時の中西さんと同い年になった現在、私は性の多様性を研究テーマとする研究者でもあります。19歳のあの日々の中で、性の多様性について書かれた本がほとんどないことを中西さんに訴えたら、「あなたが書けばいい」と言われ、そのときストンと何かが腹に落ちました。『からだ・私たち自身』から20年後、日本で初めてLGBTという語を使った拙書『医療・看護スタッフのためのLGBTIサポートブック』(メディカ出版刊)を出版しました。『からだ・私たち自身』と中西さんとの出会いで気付いた自分のことを、自分の手で社会に発信する姿勢、それが私の生き方になりました。

 助産師は最高の仕事の一つだと思います。広い世界や多様な価値観に目を向けて、さらに発展させていきましょう!



本記事は『ペリネイタルケア』2024年12月号の連載Rootsからの再掲載です。