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トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール ■必読■「Shorter is better」を公開しました

独立行政法人 国立病院機構 北海道がんセンター 感染症内科 医長・感染対策室 室長の藤田崇宏先生に抗菌薬の投与期間の短縮についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。


「Shorter is better」

TOPIC 

 薬剤耐性(Antimicrobial resistance, AMR)対策において欠かせないのが抗菌薬適正使用(Antimicrobial stewardship program, ASP)です。薬剤耐性菌を生み出さないために最も重要なのは抗菌薬を使用しないことですが、必要な場合は積極的に使用せざるを得ません。必要な抗菌薬を適切に使用しつつ、薬剤耐性菌の選択圧を下げる方法として、最近は抗菌薬の投与期間を可能な範囲で短縮する試みがなされています。その標語が「Shorter is better(短いことはよいことだ)」です。

抗菌薬の投与期間短縮の検討

 感染症を引き起こしている微生物と臓器がはっきりしていれば、抗菌薬の投与推奨期間はある程度定まっており、それに沿って抗菌薬の投与を終了できます。もし微生物も臓器もはっきりしておらず、そのうえで抗菌薬の投与を続けてよいのかが分からないのであれば、まず何を治療しているのかを明らかにしなければなりません。

 微生物と臓器が判明している場合の抗菌薬の投与期間が定められたのは現在のEvidence basedmedicine(EBM)の考え方が定着するよりも以前のことで、その多くが経験とエキスパートオピニオンによるものでした。昨今、日常的によく遭遇する感染症に対する抗菌薬の投与期間と、従来の推奨期間・より短い期間を比較した研究が多く行われるようになっており、多くの感染症がこれまで考えられていたよりも短期間の抗菌薬投与で十分に治療し得ることが判明してきています (表1) [1]。

 多くの疾患で抗菌薬の投与期間は1週間単位で設定されていましたが、これには単純に人間の活動が1週間単位で区切られていること以上の必然性はありませんでした。近年は7日ではなく5日を単位に考えようというアイデアも提唱されています[2]。

 これらの短期の推奨期間は、主として治療経過が良好であった場合が想定されています。膿瘍やドレナージ不良部位のある感染症ではより長期の治療が必要な場合もあるので、投与期間を当てはめられる状況かをよく検討するところから始めましょう。

 広域(ブロードスペクトラム)の抗菌薬を狭域(ナロースペクトラム)の抗菌薬へと変更するDe-escalation も抗菌薬適正使用の方法として重要です。しかしブロードであろうと、ナローであろうと、正常な細菌叢に与えるダメージにはさほど差がなく、抗菌薬投与そのものを終了する方がより薬剤耐性菌対策としては有効とする考えもあります[3]。診断が確定している感染症に対する抗菌薬適正使用チーム(AST)の介入方法としても、治療期間を短く切り上げることが有用と考えられます。

 なお、この治療期間の短縮がまだふさわしくない感染症もあります。心内膜炎や髄膜炎、膿瘍がある場合は慎重にするべきです。黄色ブドウ球菌菌血症やカンジダ血症は、短縮以前に、血液培養の再検査による陰性化を確認してから最低2週間程度の治療期間を担保し、合併症の検索が適切に行われるよう監視することがAST にとってはより重要です。

知って得する!OneMore知識

 抗菌薬が臨床に使われ始めたころは一体何日間投与されていたのでしょうか? 1940年代の論文を紐解くと、肺炎に対してペニシリンを1日半から2日投与したら治癒したとか、菌血症を伴う肺炎球菌による肺炎であっても、ペニシリンを最長4日で終了していたという報告があります。現在では考えられない短期治療です[4]。

 ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム製剤)の原型にあたるサルファ剤は1930年代に実用化され、丹毒の治療に用いられた報告があります[5]。この報告での投与法は、「熱が下がるまでは多めに、解熱後は少ない量を退院まで飲ませる」というプロトコールでした。当初は、抗菌薬による感染症の治療が手探りで始まり、経験の集積により現代に至ったことを示しています。

ICT必見!先生からのHOTなおコトバ

・ これからの抗菌薬投与は「Shorter is better」、短い治療でも問題ないという知見がどんどん増えてきています。

・ ASTラウンドで長期投与例に介入する際に、すでに短期投与と長期投与で効果に差がないと報告されている感染症には短期投与を推奨していくのもよいでしょう。ただし短期の治療期間が当てはめられるかどうかは一例ずつ検討が必要です。

・ 黄色ブドウ球菌菌血症とカンジダ血症は「Shorter is better」の例外です。ガイドラインなどを参考に血液培養の陰性化から最短でも2週間の治療を推進しましょう。


引用・参考文献

1) Bassetti, S. et al. Optimizing antibiotic therapies to reduce the risk of bacterial resistance. Eur J InternMed. 99, 2022, 7—12.

2) Spellberg, B. The Maturing Antibiotic Mantra:“Shorter Is Still Better.”J Hosp Med. 13(5), 2018, 361—2.

3) Rice, LB. Antimicrobial Stewardship and Antimicrobial Resistance. Med Clin North Am. 102(5), 2018,805—18.

4) Dawson, M. et al. THE CLINICAL USE OF PENICILLIN:OBSERVATIONS IN ONE HUNDRED CASES. JAMA. 124(10), 1944, 611—22.

5) Snodgrass, WR. et al. Sulphanilamide in the Treatment of Erysipelas. Br Med J. 2(4014), 1937, 1156—9.