矢野邦夫先生に「妊娠中の医療従事者のための感染対策」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
*INFECTION CONTROL34巻1月号の掲載の先行公開記事となります。
「妊娠中の医療従事者のための感染対策」
妊娠中の医療従事者および妊娠を予定している医療従事者が「胎児に悪影響を与える可能性がある感染症」に罹患することは避けるべきである。そのために、手指消毒や適切な個人防護具(personal protective equipment, PPE)の着用が必要であるが、それに加えて、感染症の患者へのケアから外す必要があるのであろうか? CDCが「医療従事者における感染制御:医療従事者と患者の間で伝播する特定の感染症の疫学と制御」[https://www.cdc.gov/infection-control/media/pdfs/Guideline-IC-HCP-H.pdf]に記述しているので、抜粋して紹介する。
推奨事項
胎児に害を及ぼす可能性のある感染症(サイトメガロウイルス感染症、HIV感染症、ウイルス性肝炎、単純ヘルペス、パルボウイルス感染症、風疹、水痘など)に罹患している患者のケアから、医療従事者を「妊娠している」または「妊娠を予定している」という理由だけで日常的に除外してはならない。
背景
妊娠中の医療従事者は一時的に免疫不全状態にあり、出産可能年齢の医療従事者が感染症に職業感染することがいくつかの理由から特に懸念される。一般に、妊娠中の医療従事者は職場で感染症に罹患するリスクが高くなることはなく、妊娠自体が医療従事者の感染症への曝露リスクを変えることはない。しかし、妊娠により、水痘などの一部の感染症の合併症や肺炎の発症リスクが高まることがあり、先天性水痘症候群(註釈:四肢形成不全、小頭症、皮膚や眼の異常、知的障害、低出生体重など、重篤な出生異常を引き起こす可能性があり、妊娠第1または第2トリメスターに水痘を発症した女性から生まれる新生児の0.4~2.0%に発生すると推定されている)など、胎児にリスクをもたらす可能性がある。
また、予防接種の安全性に影響するため、妊婦は妊娠が終了するまで接種を待つように求められることがある。生ワクチンは妊娠中の医療従事者に接種すると、理論的には胎児にリスクをもたらすため、生ワクチン、弱毒ウイルスワクチン、生菌ワクチンは、妊娠中は一般に禁忌である。しかし、妊娠中であっても、すべての不活化ウイルスおよび死菌ワクチンと免疫グロブリン製剤(例:B 型肝炎免疫グロブリン、水痘帯状疱疹免疫グロブリン)については適応があれば、投与することができる。さらに、破傷風/ジフテリア/百日咳(Tdap)、不活化インフルエンザ、COVID-19のワクチンは妊婦に特に適応がある。
妊娠中の医療従事者および妊娠を予定している医療従事者へのカウンセリングは、医療従事者への定期的な医学的評価の一環として推奨されており、職場の安全にとって最も重要である。通常、このようなカウンセリングでは妊娠中に感染すると胎児に悪影響を与える可能性のある感染症の伝播リスクと、感染を防ぐために推奨される感染予防および管理対策が取り上げられる。
結論
医療従事者は推奨される予防策によって感染から守られるため、「妊娠している」または「妊娠を予定している」という理由だけで、胎児に害を及ぼす可能性のある感染症の患者のケアから日常的に除外されることはない。ただし、一部の新興病原体や深刻な影響を及ぼす病原体については、公衆衛生当局が妊娠中の医療従事者に対して就労制限を推奨する場合がある。通常、妊娠中または妊娠を予定している医療従事者が感染症に職業上曝露したり、感染症に罹患したりした場合、「推奨される治療」「曝露後の管理」「カウンセリング」を提供できるように、その個人を産科医に紹介する。産科の医療従事者(産科医、家庭医学提供者、助産師など)を医療に含めることは、その個人の安全と健康にとって非常に重要である。
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*INFECTION CONTROL34巻1月号の掲載の先行公開記事となります。
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