岡 いくよ
新学期が順調に始まり、大学での日常生活が軌道に乗りつつあります。看護師や助産師を目指す大学生と共に、学内の看護実習室で体験型のマタニティクラスや赤ちゃんのつどいを始めて1年半。大学内にいかに学びの環境を充実させることができるのか、妊産婦さんと赤ちゃんとパパたち出産世代の家族を、大学として支えることができるのかと模索することが、私の現在地といえるかもしれません。出産を巡る産育コミュニティが生まれる仕掛けを、大学内に創出することで、ケアを必要とする人々と専門職が、立場や施設、自治体の枠を超え、緩やかにつながっていく。またそれが、ケアに関わる専門職のスキルアップや研鑽、研究に貢献できる、これからの大学の新たな役割を見据えています。
私自身は、産前、産後のつどいの活動を始めて30年が経過しました。今でも自治体や大学の付属こども園、子育てプラザなどとも連携し、つどいの場が続いています。さまざまなつどいの場を仕掛けてきましたが、近年では、「ママや上の子は参加しないパパと赤ちゃんのつどい」が6年目を迎え、その役割と支援の方向性が見えてきました。看護学生の実習の機会にもなっているこれらのつどいでは、出産世代の人たちが学生を見守ります。育児についての日常生活を伝えつつ、子どもの扱いを教えるなど、支援されるだけの存在とならず、みんなで赤ちゃんたちを愛おしく見つめ合います。
これら実践の世界と研究の世界を架橋するのは、筆者の飛び込んだ社会学、とりわけ生活環境主義や日常生活世界を基点とする一群のフィールドワーカーたちの世界でした。そこは、生活者の立場に立ち、さまざまな事象から何らかの可能性を見出そうと議論が広がる場所でした。社会学に身を委ねたのは、個々の妊産婦の社会関係や死をも見通し、出産を切り離さず人生の一連の流れの中で捉え直すため、自身の実践を医療だけでなく、より広い視野から検討を重ねたかったからです。人の営みの諸相を多角的に捉えながら、ミクロな実践の記述へと今も導かれています。研究と現場のはざまを彷徨いつつ、自分の実践を見つめ、また模索を続ける。今はそんな人とのつながりをありがたく受け入れる日々が、穏やかに続いています。
本記事は『ペリネイタルケア』2024年9月号の連載Rootsからの再掲載です。