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トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【連載】CDCガイドラインニュース「乳牛と高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス」

矢野邦夫先生に「乳牛と高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。

*INFECTION CONTROL33巻9月号の掲載の先行公開記事となります。

「乳牛と高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス」

 米国の乳牛において高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのアウトブレイクが発生し、2症例のヒト感染が確認された。その詳細をCDCが報告しているので紹介する[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/pdfs/mm7321e1-H.pdf]。

A(H5N1)ウイルス感染の2症例

 2024年4月1日、テキサス州保健局は、酪農場労働者がA(H5N1)ウイルス感染している乳牛への曝露後に、RT-PCR で高病原性鳥インフルエンザの陽性反応を示したと報告した。この症例には結膜炎のみがみられ、ほかの症状はなかった。隔離を指示され、オセルタミビルリン酸塩で治療されて回復した。家族には病気は確認されず、全員がオセルタミビルリン酸塩の曝露後予防を受けていた。

 その1週間前、米国農務省は乳牛におけるA(H5N1)ウイルスの複数の州でのアウトブレイクを報告していた。A(H5N1)ウイルスは、人間の居住地やその周辺に生息し、農場の死んだ猫、鳥、そのほかの動物からも検出された。

 2024年5月22日、ミシガン州保健福祉省は、乳牛のA(H5N1)ウイルス感染が確認された酪農場の労働者におけるA(H5N1)症例を報告した。この人も眼の症状のみを報告した。これら2症例は、鳥インフルエンザA ウイルスが牛からヒトへ伝播したと考えられる最初の事例である。

乳牛におけるA(H5N1)ウイルス

 米国で乳牛のA(H5N1)ウイルス感染が最初に報告されたのは2024年3月であるが、予備データによると、2023年12月から発生していた可能性がある。2024年5月22日の時点で、9つの州の52の乳牛群で、感染牛が確認されている。症状は非特異的であり、乳量の減少、反芻の減少、濃厚乳などである。透明な鼻汁が出た牛もいた。感染牛の低温殺菌されていない(生)牛乳からは、高レベルのA(H5N1)ウイルスが検出された。

世界のインフルエンザA(H5N1)のヒト症例

 1997年から2024年4月下旬までに、世界23ヵ国から909人のヒトA(H5N1)症例が散発的に報告された。ヒトでは52%が致死的である。2022年以降、909人のうち26人が8ヵ国から報告され、うち死亡者7人が含まれている。これ以降、ミシガン州とオーストラリアの症例を含む2症例が追加報告された。ヒトA(H5N1)症例のほぼすべてが、最近の家禽への曝露を報告している。米国では、これまでに3人のA(H5N1)症例が確認されている。全員が軽症で、入院はしておらず、完全に回復した。

抗インフルエンザ薬

 米国では、4つの抗インフルエンザ薬(バロキサビル マルボキシル、オセルタミビルリン酸塩、ペラミビル水和物、ザナミビル水和物)がインフルエンザの治療に推奨されている。CDC は感受性検査を実施し、テキサス州の酪農場労働者から分離されたA(H5N1)ウイルスがバロキサビル マルボキシルおよびノイラミニダーゼ阻害薬に感受性があることを見出した。A(H5N1)症例には、オセルタミビルリン酸塩治療が推奨される。オセルタミビルリン酸塩は、A(H5N1)症例の濃厚接触者(家族など)の曝露後予防にも推奨される。

牛のA(H5N1)感染症

 牛のA(H5N1)感染症は2~4週間続くことがあり、ウイルスの排出期間は不明である。さらに、症状がない牛でA(H5N1)ウイルスが確認されていることから、労働者のなかには自分が曝露したことに気付いていない人もいるかもしれない。最近の検査では、小売乳製品サンプルからは、生きた感染性A(H5N1)ウイルスは検出されなかった。しかし、全国の小売牛乳サンプルの約5件に1件でA(H5N1)ウイルス断片が同定されたことから、牛のA(H5N1)ウイルス感染が広範囲に及んでいる可能性がある。現在(2024年6月)流行しているA(H5N1)ウイルスは、ヒトの上気道で最も多い受容体に容易に結合する能力をもたないため、ヒト間で容易に伝播しない。しかし、A(H5N1)ウイルスが鳥やそのほかの動物に世界的に広く蔓延しているため、散発的なヒトへの感染が継続すると予想される。

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*INFECTION CONTROL33巻9月号の掲載の先行公開記事となります。

*本記事の無断引用・転載を禁じます。