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トップページ 新生児・小児/助産/ウィメンズヘルス Cure&Care&Nursing 価値観についての議論|中野玲二|新生児医療の あ!のひと|#004

価値観についての議論

 医学部の学生のときに新生児科医になりたいと思った理由は、「なんとなく」としか言えませんが、新生児科医になってよかったと今も思っています。もちろん、どのような 仕事も気持ちよくできるのが良いに決まっています。そのためには、当然かもしれませんが、医療という仕事の目的にfaithful(忠実)になることが大切であると私は感じています。これはシンプルそうですが、実際は難しいことなのかもしれません。どうしても人間は「自分」というものに向き合ってしまうからです。

 もともと人間は、自意識から完全に解放されることはありませんが、少しでも自意識から解放されて仕事ができるといいのだと思います。ただし、医療チームとして仕事の目的に対してfaithful になるには、「患者さんとその家族のために少しでもベターな医療を提供するための、チームで議論を尽くすというプロセス」が不可欠です。

 「ええい、そんな七面倒臭いことしないで責任者が決めればいい」という声が聞こえてくるかもしれません。しかし、衝突・対立から建設的に落とし所を探るというプロセスを粘り強く続けていくことは、最強の教育プロセスであり、経験・キャリアに関係なく学ぶことは限りなくあります。トップダウンで決めているチームよりも議論を尽くして決めているチームの方が、より良い医療を提供できるということを示すのが新生児科医としての私の目標の一つです。

 昨今は、自尊心という言葉を耳にすることが増えました。「私(たち)はすごい!」というようなプライド的なものは、僕的には「No thank you!」ですが、「まあいいか!」と許容しながら、小さな前進をポジティブに認識できるような自尊心こそが、建設的に仕事をする上で大切なことであると思います。
 私たちは、仕事をしているときにさまざまな価値観を基に判断を繰り返しています。このさまざまな価値観をレビューするような作業が、今後の私の研究課題です。

静岡県立こども病院新生児科科長、周産期母子医療センター長
中野玲二

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す!がおのひとこと 

 父親になる前は、「とっても良い父親になれる」と全く無根拠な自信が少しありましたが(笑)、わが子が生まれて実際に父親になり、そのような無根拠な自信は砕け散りました。でも、そういった自分を許しながら、子どもたちと一緒に少しずつ前に進んでいくことが、父親になるということなのだと思うようになりました。子どもたちに本当に感謝しています。写真は巣立ちしたわが子の代わりに、わが家に立ち寄ってくれたキジバトです。


本記事は『with NEO』2024年4号の連載「新生児医療の あ!のひと」からの再掲載です。

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