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トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【連載】CDCガイドラインニュース「ワシントン州における毒素非産生 性ジフテリア菌の増加」

矢野邦夫先生に「ワシントン州における毒素非産生性ジフテリア菌の増加」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。

*INFECTION CONTROL33巻8月号の掲載の先行公開記事となります。

「ワシントン州における毒素非産生性ジフテリア菌の増加」

 ジフテリア菌感染症は、毒素産生株と毒素非産生株によって引き起こされる。現在(2024年5月)、米国ワシントン州において、毒素非産生性ジフテリア菌による感染症が増加している。その詳細が週報(MMWR)に記載されているので紹介する[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/pdfs/mm7317a4-H.pdf]。

ジフテリア菌

 毒素を産生する好気性グラム陽性球菌であるジフテリア菌は、ジフテリアの主な原因病原体である。毒素非産生性ジフテリア菌による毒素遺伝子の獲得と発現は生物学的に妥当なことであり、ジフテリアが風土病となっていない米国へのジフテリアの再導入につながる可能性がある。ジフテリアトキソイドを含むワクチンは毒素に対する免疫を産生するが、毒素非産生性ジフテリア菌によって引き起こされる感染症を防ぐことはできない。

ワシントン州での毒素非産生性ジフテリア菌の増加

 ワシントン州では、臨床検体からジフテリア菌が検出されるとただちに通知される。2000年から、ワシントン州はすべてのジフテリア菌分離株をワシントン州公衆衛生研究所に提出することを義務付けている。そして、ワシントン州で報告される毒素非産生性株の数は、2012~2017年の17株から2018~2023年の179株へと約10倍に増加した。2023年11月、この増加に寄与する要因を特定し、毒素非産生性ジフテリア菌の疫学と感染症の臨床的特徴を説明するために、毒素非産生性株の症例に関する州全体の調査が実施された。

調査と結果

 2018年1月1日から2023年9月30日までに、ワシントン州39郡のうち14郡(36%)で176人の患者からジフテリア菌が確認された。すべての分離株はワシントン州公衆衛生研究所でジフテリア菌として同定され、その後CDCによって毒素非産生性であると判定された。

 医療カルテの抽出が166人(94%)の患者に対して実施された。120人(72%)が男性で、年齢中央値は44歳(範囲=8ヵ月~76歳)であった。これらの患者から、171件の毒素非産生性株が同定され、そのうち134人(78%)は皮膚創傷由来であった。しかし、ジフテリア菌は血液(21件;12%)および尿、痰、滑液などのほかの体液(16件;9%)からも分離されている。ホームレスを経験している人(64%)または違法薬物を最近使用した人(63%)が患者のなかで不釣り合いに多かった。6人の患者(4%)は、ジフテリア菌のみに起因する心内膜炎と診断された。14人(8%)の患者が研究期間中に何らかの原因で死亡したが、ジフテリアを示唆する臨床所見を示した患者はいなかった。

検査法

 ジフテリア菌の分離株全体の65%を処理した5つの臨床検査機関の検査責任者に、グラム陽性桿菌を同定する手順についてインタビューした。そのほとんどがマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI-TOF)の使用の増加を報告した。最も多くジフテリア菌を同定した研究所(56人;34%)は、MALDI-TOFを導入した2013年以降、ジフテリア菌を同定するための微生物学的技術やプロトコルを変更していない。

結論

 毒素非産生性ジフテリア菌感染症の臨床的特徴は、毒素産生性株によって引き起こされるジフテリアの臨床的特徴とは異なるものの、重篤な感染症を呈することがある。この分析では、患者の74%が救急外来で診断され、12%が菌血症、4%が心内膜炎を患っていた。その症状はほかの微生物によって引き起こされる感染症と同じであった。14人(8%)の患者は、毒素非産生性ジフテリア菌の検出後すぐに死亡したが、その死因はさまざまであり、基礎疾患、感染症、ホームレスの経験、薬物使用などの要因の影響を受けている。2013年以降に実施された検査手順には大きな変化はなく、ジフテリア菌の増加は検査技術やプロトコルの変更によるものではないことを示している。

インフェクションコントロール33巻7号表紙

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*INFECTION CONTROL33巻8月号の掲載の先行公開記事となります。

*本記事の無断引用・転載を禁じます。