次世代に命をつなぐ妊娠は生命の危険と常に隣り合わせです。周産期のトラブルの多くは予測不可能かつ不可避ですが、誰が担うかで母児の予後が大きく左右することもあります。そこで本新春増刊では「見逃せない妊娠中の疾患30」を特集しました。
女性の心身は妊娠することで劇的に変化するため、妊娠前から高血圧や子宮筋腫などの基礎疾患(持病)を有する方は、妊娠中に病状が悪化することがあります。さらに、基礎疾患が早産や胎児発育不全などの妊娠トラブルを惹起することもあり、それら基礎疾患と妊娠が相互に及ぼす影響について理解することは重要です。また、産科合併症(妊娠に伴う異常)については“温故知新の心構え”で知識のアップデートが必要です。例えば、原因が多岐にわたるため一定の見解が得られていない早産管理、古くはヒポクラテスの著書にも記されている妊娠高血圧腎症においては、近年、予防・予知・産後のフォローアップなどが話題となっています。本書を活用し、胎盤早期剥離と全く異なるにもかかわらず混同されやすい慢性早剥羊水過少症候群(CAOS)など他の産科合併症についても知識の整理をお勧めします。
本書では妊娠中に比較的よく遭遇する30の疾患を取り上げ、第一線で活躍するエキスパートの先生方に、最新の知見を交えながら分かりやすく解説いただきました。近年注目されているプレコンセプションケアは、より健全な妊娠・出産のチャンスを増やす可能性があります。妊婦の身近な存在である助産師は、慢性的な疾患や産科合併症既往を持つ女性に産前産後も適切な情報とケアを提供できることが望まれます。妊婦が抱くさまざまな不安や悩みを軽減するためにも、正しい知識を習得した助産師のサポートが不可欠であり、本書がママと家族の笑顔につながれば望外の喜びです。
編集
熊本大学大学院生命科学研究部 産科婦人科学講座 教授
近藤 英治
本記事は『ペリネイタルケア』2023年新春増刊号 序文からの再掲載です。