大阪発達総合療育センター
臨床心理士/公認心理師
阿部瑠子
そこでは、0歳の赤ちゃんから、幼児期・学童期の子ども、思春期を経て成人まで、幅広い年齢層の人たちと、そのご家族に出会います。発達のスピードのゆっくりさや偏り、身体の不自由さなどがあり、その原因は生まれつき、あるいは後天的な病気や事故などさまざまですが、ご本人や家族のお話を聴くと、何らかの困難や悩み、 “生きにくさ” を抱えている人が多いです。私たち心理士は、まずは発達相談(発達検査・知能検査を含む)という形で、ご本人の得意・不得意を見ながら、毎日の生活でのわかりやすさ・過ごしやすさ、気持ちの安定やご本人らしい生き方につながるような支援をご家族と一緒に考えています。必要に応じて、プレイセラピーやカウンセリングなどの心理的支援も行っています。
また、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、保育士、介護福祉士など、多くの専門職の人が働いているので、他職種と一緒に支援する “チーム医療” としての連携も大切にしています。
学生時代、ボランティアをしていた母子生活支援施設や児童養護施設でたくさんの子どもたちに出会いました。子どもたちは、たとえば「うれしい!」と感じたらパーッと明るい表情や仕草でありのままに表現し、「悲しい」「怒った」と感じたら全力で泣いたり暴れたりします。表現が複雑になりがちな大人と違って、子どもは人の原初的な欲求や表現をストレートに感じられる存在として、私にはとても魅力的に感じました。そんな「子どもってすごい!面白い」という発見が、私の「人が好き」「人に関わる仕事がしたい」という気持ちを強くしました。
大学では、虐待が起こるメカニズムや虐待を受けた子どもの心理的ケアについて学びました。そして、虐待が起こる環境や親の心理面に少しずつ関心が向き、子育てや親子関係をサポートすることが子どもの心身の発達のためになり、ひいては、虐待の予防にもつながるのではないかと考えるようになりました。
大学院修了後は、 “子育て支援” に携わりたいという思いから、大学院附属のこころの相談室、保健センターの3歳児健診、区の保健福祉センターの家庭児童相談員、高校スクールカウンセラーなど、おもに保健医療や福祉の領域で仕事をしながら、現在に至っています。
今の職場で出会う患者さんたちやご家族は、病気や障がいがあるがゆえに困難や葛藤に人生の早期から向き合わざるを得ないことが多いと思います。たとえば身体の不自由さから生じる困難だけでなく、「みんなと同じように過ごしたい」「友達と出かけたい」「私の得意なことってなに…?」など、社会生活のなかでの悩みを抱えています。心理士として、ご本人やご家族の人生の節目での歩みに寄り添いながら、親子ともに成長する姿や悩みを生き抜いていく力を目の当たりにして、とても学びになる素晴らしい経験をさせてもらっています。
また、私自身は、当センターに来て初めて、思うように身体が動かない、言葉を話せない重い障がいのある人と接するようになりました。初めはとても戸惑いましたが、関わりを重ねるうちに、たくさんの人たちの個性や “つながり” を実感しました。そして、これこそが心理士にとって重要な感受性や想像力が必要とされる場ではないかとも思い、日々向き合っています。
いま、物事の効率やスピードに価値がおかれ、目に見える変化が求められる時代や社会です。そのなかで、こころの有り様や変化のように “目に見えないもの” に目を向けること、ゆっくり “待つ” “見守る” “育てる” といった異質ともいえる視点を大切にすることの意味がより大きくなっているように感じます。それを忍耐強く、寛容に、続けていくことに、心理職としてのアイデンティティがあり、人がより良く生きることや生きにくい人たちが少しでも生きやすくなる社会につながるのではないかと信じています。
このような心理分野の仕事に魅力を感じたら、ぜひ興味のある現場に身を置いて色々な経験をしてみてください。
臨床心理士/公認心理師
阿部瑠子
いまの働きかた
大阪発達総合療育センター(医療機関名:南大阪小児リハビリテーション病院)で、月~金曜までの週5日、常勤の心理士として他の3名の心理士と一緒に働いています。当センターは、外来診療だけでなく、知的障がい・肢体不自由をもつ子どものための児童発達支援センターという通園部門や、おもに肢体不自由児や重症心身障がい児者を対象とした入所施設としての役割があります。また、発達障がいのある子どもたちのための療育支援も行っています。そこでは、0歳の赤ちゃんから、幼児期・学童期の子ども、思春期を経て成人まで、幅広い年齢層の人たちと、そのご家族に出会います。発達のスピードのゆっくりさや偏り、身体の不自由さなどがあり、その原因は生まれつき、あるいは後天的な病気や事故などさまざまですが、ご本人や家族のお話を聴くと、何らかの困難や悩み、 “生きにくさ” を抱えている人が多いです。私たち心理士は、まずは発達相談(発達検査・知能検査を含む)という形で、ご本人の得意・不得意を見ながら、毎日の生活でのわかりやすさ・過ごしやすさ、気持ちの安定やご本人らしい生き方につながるような支援をご家族と一緒に考えています。必要に応じて、プレイセラピーやカウンセリングなどの心理的支援も行っています。
また、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、保育士、介護福祉士など、多くの専門職の人が働いているので、他職種と一緒に支援する “チーム医療” としての連携も大切にしています。
心理職をめざした理由
さかのぼると私自身はもともと、自分のことや周りの人のことについて感じた思いや経験を通して、「なんで?」「どうして?」と、こころの有り様について考え続けることが好きでした。そして、高校・大学になるころから、人の役に立つ仕事に就きたいと思い、なかでも、人のこころに寄り添うような仕事をしたいと考えるようになっていました。はじめは「自分にできるのか…」と迷いや葛藤がありましたが、そこで背中を押してくれたのが、 “子ども” の存在です。学生時代、ボランティアをしていた母子生活支援施設や児童養護施設でたくさんの子どもたちに出会いました。子どもたちは、たとえば「うれしい!」と感じたらパーッと明るい表情や仕草でありのままに表現し、「悲しい」「怒った」と感じたら全力で泣いたり暴れたりします。表現が複雑になりがちな大人と違って、子どもは人の原初的な欲求や表現をストレートに感じられる存在として、私にはとても魅力的に感じました。そんな「子どもってすごい!面白い」という発見が、私の「人が好き」「人に関わる仕事がしたい」という気持ちを強くしました。
大学では、虐待が起こるメカニズムや虐待を受けた子どもの心理的ケアについて学びました。そして、虐待が起こる環境や親の心理面に少しずつ関心が向き、子育てや親子関係をサポートすることが子どもの心身の発達のためになり、ひいては、虐待の予防にもつながるのではないかと考えるようになりました。
大学院修了後は、 “子育て支援” に携わりたいという思いから、大学院附属のこころの相談室、保健センターの3歳児健診、区の保健福祉センターの家庭児童相談員、高校スクールカウンセラーなど、おもに保健医療や福祉の領域で仕事をしながら、現在に至っています。
実際になってみて
実際に働くようになって、大学・大学院で学んだ心理学の知識だけでなく、子どもの発達に関する最近の知見、精神医学の知識、社会的サービスなど、さまざまな領域にわたっての知識や経験が必要になりました。現在の職場に来て5年以上経った今でも、日々勉強しながら、患者さんから学ぶこともたくさんあります。今の職場で出会う患者さんたちやご家族は、病気や障がいがあるがゆえに困難や葛藤に人生の早期から向き合わざるを得ないことが多いと思います。たとえば身体の不自由さから生じる困難だけでなく、「みんなと同じように過ごしたい」「友達と出かけたい」「私の得意なことってなに…?」など、社会生活のなかでの悩みを抱えています。心理士として、ご本人やご家族の人生の節目での歩みに寄り添いながら、親子ともに成長する姿や悩みを生き抜いていく力を目の当たりにして、とても学びになる素晴らしい経験をさせてもらっています。
また、私自身は、当センターに来て初めて、思うように身体が動かない、言葉を話せない重い障がいのある人と接するようになりました。初めはとても戸惑いましたが、関わりを重ねるうちに、たくさんの人たちの個性や “つながり” を実感しました。そして、これこそが心理士にとって重要な感受性や想像力が必要とされる場ではないかとも思い、日々向き合っています。
これからの展望と希望
公認心理師という国家資格ができたことで、さらに心理専門職の働きかたや領域が広がり活躍することを期待しています。たとえば、まだ大学などでは一般的でない、重症心身障がい児者に関わる心理士の知識や研修機会が充実することや、また、在宅医療が進むにあたって、訪問での診療・看護などが広がるなか、心理士も地域生活を支える一員として身近でサポートできる存在になればいいなと思っています。心理職に就きたいと思っている学生へ
子どもやご家族に喜んでもらえることが、何より私のやりがいや原動力になっています。また、自分自身にとっても、内面を顧みなければならないことは多々ありますが、色々なことを知ったり考えさせられたりと学ぶことが多く、自分の年齢を重ねながら続けることの意義を感じられる仕事ではないかと思います。いま、物事の効率やスピードに価値がおかれ、目に見える変化が求められる時代や社会です。そのなかで、こころの有り様や変化のように “目に見えないもの” に目を向けること、ゆっくり “待つ” “見守る” “育てる” といった異質ともいえる視点を大切にすることの意味がより大きくなっているように感じます。それを忍耐強く、寛容に、続けていくことに、心理職としてのアイデンティティがあり、人がより良く生きることや生きにくい人たちが少しでも生きやすくなる社会につながるのではないかと信じています。
このような心理分野の仕事に魅力を感じたら、ぜひ興味のある現場に身を置いて色々な経験をしてみてください。