2019年7月13日(土)〜14日(日)、大阪国際会議場にて第25回日本心臓リハビリテーション学会学術集会が開催された。新しい心臓リハビリテーションの構築を今一度考え、進化させることを目的とし、「心リハイノベーション:行動医学からICTまで」がテーマとして掲げられた。会長は木村 穣先生(関西医科大学 健康科学科 教授)が務めた。
本学会での公認心理師に関するシンポジウム「循環器疾患患者に対する公認心理師の役割」を取材した。
医師、看護師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士などが連携し、患者さん一人ひとりに合った運動療法や生活指導を行う。患者さんとのカウンセリングも重要な項目の一つであり、心リハチームの中に心理士が配置され、患者さんの支援を行っている施設もある。
本シンポジウムでは、心リハにかかわる他職種スタッフから公認心理師への期待が述べられた。座長を務めたのは石原俊一先生(文教大学人間科学部 心理学科)と池亀俊美先生(公益財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院 看護部)。
水谷和郎先生(甲南病院 循環器内科)は2019年4月に同院へ異動となり、新たに心リハチームの立ち上げにかかわるなかで、専任の心理士の必要性を感じているという。たとえば急性心筋梗塞の患者さんが退院するとき、「死にかけたのに本当にこのまま退院しても大丈夫なんだろうか」と心のどこかで不安や心配を抱えている可能性に触れ、このような患者さんには総合的なケアである心リハが必要だとした。
また、心リハの定義には「カウンセリング」と明記されているが2)、心リハチームに心理専門職が配属されているのはまれなため、実際ほとんど実施できていないことを指摘した。そのため、公認心理師という国家資格に期待を寄せている。
心不全患者さんは、増悪と寛解を繰り返し徐々に終末期を迎える3)。がんとは異なる経過をたどることから、緩和ケアを開始するタイミングの見極めが難しく、水谷先生は、「心不全の緩和医療においては目先だけではない患者さんの思いを受け止める必要がある」と話す。「死ぬかもしれない」という体験を繰り返すため、心不全患者さんにおいてうつ病を抱えるケースもあり、緩和医療においても公認心理師の需要は高いと提言した。
「公認心理師は新しい国家資格のため、医師をトップとしたこれまでの枠組みとは異なる、独立した立場からのアプローチが可能なのでは」と水谷先生は話す。また、心リハチームにおいてはスタッフ間のコミュニケーションが非常に大切であり、「心理学を学んできている心理師こそコミュニケーションのプロであり、チーム医療の要となりうる」と述べた。最後に会場にいる医師に対し、「患者さんのことを思うなら、ぜひ心リハの立ち上げ時に心理師をチームに配置してほしい」と訴えた。
また、看護師と心理職との連携において、互いに問題解決にかけるスピードが異なることを理解する必要があるとした。
「急性心筋梗塞の患者さんは約1週間で退院するが、その間、病室はCCU(冠動脈疾患集中治療室)からHCU(高度治療室)に転棟となり、担当看護師も変更となる。また、その1週間で退院後の生活や再入院を防ぐための教育を行わなければならない」と仲村先生は患者さんの退院の流れを説明した。
看護師は入院期間という限られた時間の中で問題解決を行っているため、心理職に相談した際には「待ちましょう、様子をみましょう」ではなく、時間のとらえ方を具体的に提示することや、問題によっては「解決できない」と教えてほしいと提案した。
川端先生は、理学療法士は日々変化する患者さんの状況にあわせて適切なプログラムを作成するため、傾聴することを大切にしているという。患者さんのしたいことを聴き、患者さんの心臓にとって行ってもよいことを判断している。
心リハではあくまでも患者さんの自己責任による判断を重視する姿勢が大切なのではないかと述べ、患者さんが自分で判断するための材料を提供することが医療者の役割だとした。
患者さんの個別性にどこまで寄り添えるか、心リハは “熱い” 領域であるとし、「ぜひチームに参加して専門性を発揮してほしい」と心理職にメッセージを送った。
庵地雄太先生(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門 心不全科) は、循環器専門病院の循環器緩和ケアチームに所属しながら、心リハチームにも携わっている公認心理師である。
循環器領域での緩和ケアなどで心理職の需要は高まっているが、心理職とどう接してよいのかわからないという声が他職種から寄せられることもあるという。一方、心理職にとっても心リハは新しい分野のため、「今すぐ介入してほしい」となっても戸惑ってしまう現状がある。
他のコメディカルからよく出る意見として、「メンタルヘルスが必要なのはわかるがどのように依頼すればいいかわからない」「心理士に介入を頼んだがなかなか返事がこない」「心理職は患者さんと何をしているのかがわからない」などを紹介した。
庵地先生はこのような職種間でのギャップを埋めるため、まずは心リハや、循環器領域で働く心理職同士のコミュニティを2017年に設立した。20都道府県34施設から集まり、今年からは研修会の開催も予定しているという。
■引用・参考文献
1)心臓病の基礎知識 – 心臓リハビリって何? Q.1.日本心臓リハビリテーション学会.http://www.jacr.jp/web/faq/q117/(2019年9月閲覧)
2)日本心臓リハビリテーション学会ステートメントー 日本心臓リハビリテーション学会の使命 ー.日本心臓リハビリテーション学会.http://www.jacr.jp/web/about/statement/(2019年9月閲覧)
3)急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン.
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf(2019年9月閲覧)
(文・構成/こころJOB編集室)
本学会での公認心理師に関するシンポジウム「循環器疾患患者に対する公認心理師の役割」を取材した。
心臓リハビリテーションとは
心臓リハビリテーション(以下、心リハ)とは、「心臓病の患者さんが、体力を回復し自信を取り戻し、快適な家庭生活や社会生活に復帰するとともに、再発や再入院を防止することをめざしておこなう総合的活動プログラムのこと」1)である。医師、看護師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士などが連携し、患者さん一人ひとりに合った運動療法や生活指導を行う。患者さんとのカウンセリングも重要な項目の一つであり、心リハチームの中に心理士が配置され、患者さんの支援を行っている施設もある。
本シンポジウムでは、心リハにかかわる他職種スタッフから公認心理師への期待が述べられた。座長を務めたのは石原俊一先生(文教大学人間科学部 心理学科)と池亀俊美先生(公益財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院 看護部)。
循環器医療にかかわる専門職からみた公認心理師の役割
医師目線から見た公認心理師への期待
水谷和郎先生(甲南病院 循環器内科)は2019年4月に同院へ異動となり、新たに心リハチームの立ち上げにかかわるなかで、専任の心理士の必要性を感じているという。たとえば急性心筋梗塞の患者さんが退院するとき、「死にかけたのに本当にこのまま退院しても大丈夫なんだろうか」と心のどこかで不安や心配を抱えている可能性に触れ、このような患者さんには総合的なケアである心リハが必要だとした。また、心リハの定義には「カウンセリング」と明記されているが2)、心リハチームに心理専門職が配属されているのはまれなため、実際ほとんど実施できていないことを指摘した。そのため、公認心理師という国家資格に期待を寄せている。
心不全患者さんは、増悪と寛解を繰り返し徐々に終末期を迎える3)。がんとは異なる経過をたどることから、緩和ケアを開始するタイミングの見極めが難しく、水谷先生は、「心不全の緩和医療においては目先だけではない患者さんの思いを受け止める必要がある」と話す。「死ぬかもしれない」という体験を繰り返すため、心不全患者さんにおいてうつ病を抱えるケースもあり、緩和医療においても公認心理師の需要は高いと提言した。
「公認心理師は新しい国家資格のため、医師をトップとしたこれまでの枠組みとは異なる、独立した立場からのアプローチが可能なのでは」と水谷先生は話す。また、心リハチームにおいてはスタッフ間のコミュニケーションが非常に大切であり、「心理学を学んできている心理師こそコミュニケーションのプロであり、チーム医療の要となりうる」と述べた。最後に会場にいる医師に対し、「患者さんのことを思うなら、ぜひ心リハの立ち上げ時に心理師をチームに配置してほしい」と訴えた。
心リハを担当する看護師が公認心理師に期待すること
仲村直子先生(神戸市立医療センター中央市民病院 看護部)は心筋梗塞後の患者さんで、心臓のダメージは少なく治療も成功し回復しているのに元気のない患者さんがいることを例に挙げ、看護師は患者さんの心理面の変化には気付くが、その変化が本当に大丈夫なのか判断に迷うことがあると述べた。また、看護師と心理職との連携において、互いに問題解決にかけるスピードが異なることを理解する必要があるとした。
「急性心筋梗塞の患者さんは約1週間で退院するが、その間、病室はCCU(冠動脈疾患集中治療室)からHCU(高度治療室)に転棟となり、担当看護師も変更となる。また、その1週間で退院後の生活や再入院を防ぐための教育を行わなければならない」と仲村先生は患者さんの退院の流れを説明した。
看護師は入院期間という限られた時間の中で問題解決を行っているため、心理職に相談した際には「待ちましょう、様子をみましょう」ではなく、時間のとらえ方を具体的に提示することや、問題によっては「解決できない」と教えてほしいと提案した。
包括的心臓リハビリテーション~理学療法士の役割とチーム医療の重要性~
心リハは運動療法だけではなく包括的なプログラムで成り立っているため、効果を得るためには多職種連携が不可欠だと川端太嗣先生(兵庫県立尼崎総合医療センター リハビリテーション部)は話す。川端先生は、理学療法士は日々変化する患者さんの状況にあわせて適切なプログラムを作成するため、傾聴することを大切にしているという。患者さんのしたいことを聴き、患者さんの心臓にとって行ってもよいことを判断している。
心リハではあくまでも患者さんの自己責任による判断を重視する姿勢が大切なのではないかと述べ、患者さんが自分で判断するための材料を提供することが医療者の役割だとした。
患者さんの個別性にどこまで寄り添えるか、心リハは “熱い” 領域であるとし、「ぜひチームに参加して専門性を発揮してほしい」と心理職にメッセージを送った。
公認心理師がいま出来ること、今後すべきこと
庵地雄太先生(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門 心不全科) は、循環器専門病院の循環器緩和ケアチームに所属しながら、心リハチームにも携わっている公認心理師である。
循環器領域での緩和ケアなどで心理職の需要は高まっているが、心理職とどう接してよいのかわからないという声が他職種から寄せられることもあるという。一方、心理職にとっても心リハは新しい分野のため、「今すぐ介入してほしい」となっても戸惑ってしまう現状がある。
他のコメディカルからよく出る意見として、「メンタルヘルスが必要なのはわかるがどのように依頼すればいいかわからない」「心理士に介入を頼んだがなかなか返事がこない」「心理職は患者さんと何をしているのかがわからない」などを紹介した。
庵地先生はこのような職種間でのギャップを埋めるため、まずは心リハや、循環器領域で働く心理職同士のコミュニティを2017年に設立した。20都道府県34施設から集まり、今年からは研修会の開催も予定しているという。
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ディスカッションでは、「保険点数がつかないため上層部が心理師を雇うかどうか」「患者さんのスクリーニングを行ってもらうほうがよいのか、スクリーニング後の患者さんに介入してもらったほうがよいのか」「どうすれば現場での雇用を増やせるのか、評判を高めるための戦略は何か」などが会場にいる医師からの意見として挙がった。■引用・参考文献
1)心臓病の基礎知識 – 心臓リハビリって何? Q.1.日本心臓リハビリテーション学会.http://www.jacr.jp/web/faq/q117/(2019年9月閲覧)
2)日本心臓リハビリテーション学会ステートメントー 日本心臓リハビリテーション学会の使命 ー.日本心臓リハビリテーション学会.http://www.jacr.jp/web/about/statement/(2019年9月閲覧)
3)急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン.
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf(2019年9月閲覧)
(文・構成/こころJOB編集室)