2019年6月にパシフィコ横浜で開催された「日本心理臨床学会第38回大会」の一般公開プログラムを取材した。
野島一彦先生(跡見学園女子大学)は、心理職の国家資格化は実現されたが、資格の「現実化」のために検討すべき課題として養成、試験、研修、職能団体、職域拡大、政治連盟を挙げた。
たとえば産業・労働分野では、職場不適応でうつになった場合、本人や家族が苦しむだけでなく、国家として支出する医療費は増え、税収は減る。そのような観点からも、働く人の心の健康の保持・増進は非常に意義があり、公認心理師に期待しているとした。
話題提供では、「社会」「メディア」「連携」のなかで心理臨床がどのように位置づけられてきたかが発表された。
津川律子先生(日本大学)は、阪神・淡路大震災後に被災者へのカウンセリングが重要視されてきたように、心理臨床は社会の変移とともに発展してきたことを紹介した。心理臨床の仕事を発展させるためには、「積極的に外に出ること。自分たちの業務が周囲にどう映るのか考え続けることが職業人としての責務だと思う」と述べた。また、地域・経済格差なくカウンセリングを利用できる態勢を整えなくてはならないと話した。
指定討論では、大山泰宏先生(放送大学)が「公認心理師資格ができたことで心理職のアイデンティティがあらためて問われている」と指摘。アイデンティティを見いだすためには「成り立ちを知ること」「他者からどう見られているか知ること」が重要だと述べた。
ディスカッションでは、心理職によるカウンセリングは、単なる相談と比べて専門的な対話では聴き方や内容の深さが明らかに異なること、結果を単純に数値化できるものではないということが紹介され、心理職の専門性は寄り添って話を聴いているだけではないということを、他職種や一般の人にもっと知ってもらう必要があると議論された。
登壇者3名に共通しているのは個々のケース対応を超えた活動を行っている点である。
田嶌先生からは児童養護施設での暴力問題を解決するために「安全委員会方式」という仕組みを全国に広めていること、冨永先生からは阪神・淡路大震災や東日本大地震での被災地の経験を生かした災害後の心理支援チームの活動、石井先生からは組織改善のためのコンサルテーションや研修などのコンテンツ開発などの仕事内容が紹介された。
指定討論は藤原勝紀先生(京都大学名誉教授)が行った。藤原先生は、個別面接だけでは解決できない社会の問題が生じているとし、社会のシステムを構築する外側の支援と、個別面接を通じた内側の支援が共存・共栄することが重要だと述べた。心理職には、心の病を「心因性」にとどめてしまうのではなく、その枠を超えて、クライエントの生き方を共につくるというクリエイティブな能力が今後さらに求められてくるという。そのために個人の専門分野のスキルのみを高めるのではなく、連携という資質を磨いていってほしいと提言した。
(文・構成/こころJOB編集室)
公認心理師をめぐる諸課題
野島一彦先生(跡見学園女子大学)は、心理職の国家資格化は実現されたが、資格の「現実化」のために検討すべき課題として養成、試験、研修、職能団体、職域拡大、政治連盟を挙げた。
公認心理師の専門性をどう維持するか
臨床心理士資格は5年ごとの更新制だが、公認心理師資格には更新制度がない。そこで、専門性維持のため、いくつかの関連団体では公認心理師の上位資格をつくり、それを更新制にすることが検討されている。上位資格の種類は、「レベル別」「分野別」「業務別」「技法別」などが考えられるが、単独の団体で上位資格を設けて研修を行っていくのは難しいため複数の団体が合同で組織をつくり、協力する体制が必要だと提言した。公認心理師の職能団体
公認心理師をめぐっては「一般社団法人 日本公認心理師協会」「一般社団法人 公認心理師の会」など複数の団体があることを指摘し、「本来、職能団体は1つであることが望ましい」と話した。心理職の職能団体として最大規模である日本臨床心理士会や、地方組織との関係についても言及した。公認心理師の職域拡大
「公認心理師の資格を多くの人に付与したところで仕事があるのか」と心配する声が挙がっていることに触れ、「現在の仕事から探すだけでなく、新たな職域を拡大してほしい」と述べた。たとえば産業・労働分野では、職場不適応でうつになった場合、本人や家族が苦しむだけでなく、国家として支出する医療費は増え、税収は減る。そのような観点からも、働く人の心の健康の保持・増進は非常に意義があり、公認心理師に期待しているとした。
公認心理師の政治連盟の必要性
公認心理師資格の社会的地位の向上のためには政治連盟を結成する必要があると野島先生は述べた。心理学の分野から国会議員として選出された人はおらず、「今ある学会や団体ではない新しい組織をつくり、政治家を動かしていくべき」と本資格の展望を示した。心理臨床という「しごと」― 社会や他職種に対してどう伝えるか ―
「心理職」「心理カウンセラー」という言葉を耳にするが、「心理臨床」という仕事を一般の人にどう伝えればよいのか。一般の人がイメージする「心理臨床」と、専門家の考える「心理臨床」に乖離があるのではないか。座長の葛西真記子先生(鳴門教育大学)の呼びかけから本シンポジウムは始まった。話題提供では、「社会」「メディア」「連携」のなかで心理臨床がどのように位置づけられてきたかが発表された。
津川律子先生(日本大学)は、阪神・淡路大震災後に被災者へのカウンセリングが重要視されてきたように、心理臨床は社会の変移とともに発展してきたことを紹介した。心理臨床の仕事を発展させるためには、「積極的に外に出ること。自分たちの業務が周囲にどう映るのか考え続けることが職業人としての責務だと思う」と述べた。また、地域・経済格差なくカウンセリングを利用できる態勢を整えなくてはならないと話した。
指定討論では、大山泰宏先生(放送大学)が「公認心理師資格ができたことで心理職のアイデンティティがあらためて問われている」と指摘。アイデンティティを見いだすためには「成り立ちを知ること」「他者からどう見られているか知ること」が重要だと述べた。
ディスカッションでは、心理職によるカウンセリングは、単なる相談と比べて専門的な対話では聴き方や内容の深さが明らかに異なること、結果を単純に数値化できるものではないということが紹介され、心理職の専門性は寄り添って話を聴いているだけではないということを、他職種や一般の人にもっと知ってもらう必要があると議論された。
こころとからだの視点から、心理臨床の来し方・行く末を考える― ベテランと若手がともに ―
本シンポジウムでは、平野直己先生(北海道教育大学)が司会を務め、話題提供者として田嶌誠一先生(九州大学名誉教授)、冨永良喜先生(兵庫県立大学)、石井実夏先生(EAPオフィスレジリエンシー)からこれまでの活動が報告された。登壇者3名に共通しているのは個々のケース対応を超えた活動を行っている点である。
田嶌先生からは児童養護施設での暴力問題を解決するために「安全委員会方式」という仕組みを全国に広めていること、冨永先生からは阪神・淡路大震災や東日本大地震での被災地の経験を生かした災害後の心理支援チームの活動、石井先生からは組織改善のためのコンサルテーションや研修などのコンテンツ開発などの仕事内容が紹介された。
指定討論は藤原勝紀先生(京都大学名誉教授)が行った。藤原先生は、個別面接だけでは解決できない社会の問題が生じているとし、社会のシステムを構築する外側の支援と、個別面接を通じた内側の支援が共存・共栄することが重要だと述べた。心理職には、心の病を「心因性」にとどめてしまうのではなく、その枠を超えて、クライエントの生き方を共につくるというクリエイティブな能力が今後さらに求められてくるという。そのために個人の専門分野のスキルのみを高めるのではなく、連携という資質を磨いていってほしいと提言した。
(文・構成/こころJOB編集室)