臨床心理士・公認心理師
にしむら
前回の座談会記事の公開にあわせて、読者の方々へアンケートを行いました。
回答者は58名(2022年12月23日時点)。ご協力いただき、ありがとうございました。単一の質問ですので詳しい分析は難しいですが、公認心理師資格取得者の現状を推し量るための、興味深い結果だと思います。
上位のものから紹介していきます。おわりに、若干の考察を加え、令和の心理職の現状と課題にふれています。最後までお読みいただけますとうれしく思います。
質問:公認心理師資格の活かし方4パターンについて、あなたはどちらに当てはまりますか?
アンケート方法:WEBアンケート
調査機関:2022年10月18日~12月23日(集計時)
読者のみなさんは、本アンケート結果をどのようにご覧になりましたか? 「心理的支援を仕事の中心におく」が4割程度であることは、筆者の予想通りではありませんでした。
同調査では、第2回試験までの公認心理師資格取得者のうち、臨床心理士をもつ人が約71%という結果でした。筆者は第1回試験を受験しましたが、身近な臨床心理士のほとんどが受験したと記憶しています。
公表されている資格者数は、公認心理師57,645人、臨床心理士39,576人と、公認心理師が18,000人あまり上回っています(2022年12月現在)2,3)。
同調査では教諭免許をもつ人が約29%とかなり多く、次いで精神保健福祉士 約9%、産業カウンセラー 約7%、社会福祉士 約6%でした。前回の座談会参加者の方々は、他職種から公認心理師を取得した方の代表例ということもわかります。
いわゆる“心理職”の保有資格の現状は以下の図の通りと思われます。
図 心理職の保有資格の現状(文献1を参考に作成)
同調査では「この1年間の活動の主な内容」を複数回答で尋ねています。結果をみてみると、「心理支援」約82%、「心理支援に関わるマネジメント(管理)・コーディネーション(調整)業務等」約24%、「『他の専門性に基づく活動』(医療職・福祉職・教育職等)」約20%でした。
この情報と比べると本アンケートの1位「心理的支援を仕事の中心に置く」が41.4%なのは、やはり少なく感じます。もちろん、調査の対象者、目的、方法、選択肢の呈示などが異なることは前提になります。それを考慮しても、“王道”が少ないのは、本サイトの読者には、資格取得、転職、スキルアップなど、リスタートを求める方が多いからかもしれません。心理職ではダブルワーク以上の方も多く、座談会に参加されたBさんや筆者のように各現場によって役割が異なることや、働き方や価値観が多様になり、4つの選択肢に分類しきれないことも影響しているでしょう。
言えることは、国家資格のインパクトはときに大きくときにじわじわと影響し、心理職のあり方が次第に変化してきたのではないかということです。変化は、制度、役割、組織、資格者数、支援内容、個人の内面のそれぞれに生じているように思います。
それらがどの程度、「国民のこころの健康の増進」に寄与してきたかはわかりません。今後、職能団体や厚生労働省が検証を行っていくと思います。一人ひとりの心理職の働きが実を結び、ポジティブなのものになればと願います。本アンケートを3年後に行ったらどうなるか? 興味深いです。
若干の懸念としては、公認心理師を取得しても十分に活用していない方々が一定数いるのではないかということです。ダブルワーク以上や副業が多いのも、心理的支援を中心とする仕事の数が実際に少ないためといえます。資格取得者は増えていますから、需要と供給のバランスから考えると、待遇向上は簡単にはいかないのかもしれません。
最近、東京都スクールカウンセラーを対象にしたアンケートが話題になりました4)。とても貴重で興味深い結果であり、詳細はリンクを参照いただきたいと思います。筆者が注目したいのは、ストレスを感じている割合が一般より高く、その背景には雇用が不安定で安心して業務に関われないということがある点です。これはスクールカウンセラーのみならず心理職の約4割を占める非正規雇用という働き方にも共通するのではないでしょうか。
同アンケートを行った団体は、都の教育委員会と団体交渉を行っていくそうです(当該ツイート)。先に述べた厚生労働省の調査でも関係各所に対して具体的な提言を行っています。たいへん心強く思います。
これからはさらに、私たち一人ひとりの心理職が、働く環境の向上のために、よく考えて具体的に動いていく必要があるのではないでしょうか。自分たちが「心理職になってよかった」と思え、対象者や関係者の方々が「心理職に会えてよかった」と思ってもらえるように。
引用・参考文献
1)一般社団法人日本公認心理師協会.厚生労働省 令和2年度障害者総合福祉推進事業 公認心理師の活動状況等に関する調査.2021.https://www.jacpp.or.jp/document/pdf/00-all-FY2020_mhlw_shogaifukushi_research_final.pdf(2022年12月5日閲覧)
2)一般財団法人日本心理研修センター.公認心理師都道府県別登録者数.https://www.jccpp.or.jp/download/pdf/number_of_registered.pdf(2024年6月13日閲覧)
3)公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会.「臨床心理士」資格取得者の推移.http://fjcbcp.or.jp/shitokusha/(2022年12月5日閲覧)
4)臨床心理士・公認心理師のための心理職ユニオン.東京都スクールカウンセラー労働実態調査報告.https://www.shinrishiunion.org/about-1(2022年12月5日閲覧)
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にしむら
前回の座談会記事の公開にあわせて、読者の方々へアンケートを行いました。
回答者は58名(2022年12月23日時点)。ご協力いただき、ありがとうございました。単一の質問ですので詳しい分析は難しいですが、公認心理師資格取得者の現状を推し量るための、興味深い結果だと思います。
上位のものから紹介していきます。おわりに、若干の考察を加え、令和の心理職の現状と課題にふれています。最後までお読みいただけますとうれしく思います。
質問:公認心理師資格の活かし方4パターンについて、あなたはどちらに当てはまりますか?
アンケート方法:WEBアンケート
調査機関:2022年10月18日~12月23日(集計時)
1位 心理的支援を仕事の中心におく 41.4%
“王道”が1位になりました。カウンセリングや心理アセスメントが主な業務でしょう。医療では、診療報酬や施設基準の対象となることも増えています。私設相談室やオンラインカウンセリングなども普及してきています。座談会にご参加いただいたBさんは福祉専門職からここに飛び込んで頑張っておられました。2位 心理職以外の現職に役立てる 25.9%
座談会に参加されたAさんのようなパターンです。教育、看護、社会福祉…どこでどのように役立てていらっしゃるのかは気になるところです。2022年度までの特例措置を利用して、現任者から受験をした方が多いことの表れだと思います。3位 実現したいことの手段の一つにする 22.4%
同じく座談会に参加されたCさんのようなパターンです。それぞれの課題意識や描く未来に向かってまい進されている方々と思われます。実現したいことは、身近なことから大きな社会的課題まで多様で幅広いのではないかと想像します。チャレンジされている方々に敬意を表します。4位 新しい可能性を探す 10.3%
イラストのように、わくわくと夢を描いている方々でしょう。現時点では資格を活かしていない方も含まれるかもしれません。進む道は一つではありませんし、資格を絶対に活用しなければならないわけでもありません。読者のみなさんは、本アンケート結果をどのようにご覧になりましたか? 「心理的支援を仕事の中心におく」が4割程度であることは、筆者の予想通りではありませんでした。
はたらく心理職の現状~厚生労働省の調査からちょっと考察~
2020年度に厚生労働省の事業として行われた「公認心理師の活動状況等に関する調査」1)を参考に、本アンケート結果に若干の考察をしてみたいと思います。同調査では、第2回試験までの公認心理師資格取得者のうち、臨床心理士をもつ人が約71%という結果でした。筆者は第1回試験を受験しましたが、身近な臨床心理士のほとんどが受験したと記憶しています。
公表されている資格者数は、公認心理師57,645人、臨床心理士39,576人と、公認心理師が18,000人あまり上回っています(2022年12月現在)2,3)。
同調査では教諭免許をもつ人が約29%とかなり多く、次いで精神保健福祉士 約9%、産業カウンセラー 約7%、社会福祉士 約6%でした。前回の座談会参加者の方々は、他職種から公認心理師を取得した方の代表例ということもわかります。
いわゆる“心理職”の保有資格の現状は以下の図の通りと思われます。
図 心理職の保有資格の現状(文献1を参考に作成)
同調査では「この1年間の活動の主な内容」を複数回答で尋ねています。結果をみてみると、「心理支援」約82%、「心理支援に関わるマネジメント(管理)・コーディネーション(調整)業務等」約24%、「『他の専門性に基づく活動』(医療職・福祉職・教育職等)」約20%でした。
この情報と比べると本アンケートの1位「心理的支援を仕事の中心に置く」が41.4%なのは、やはり少なく感じます。もちろん、調査の対象者、目的、方法、選択肢の呈示などが異なることは前提になります。それを考慮しても、“王道”が少ないのは、本サイトの読者には、資格取得、転職、スキルアップなど、リスタートを求める方が多いからかもしれません。心理職ではダブルワーク以上の方も多く、座談会に参加されたBさんや筆者のように各現場によって役割が異なることや、働き方や価値観が多様になり、4つの選択肢に分類しきれないことも影響しているでしょう。
おわりに 令和の心理職はどこへ向かう
筆者は公認心理師の受験勉強を始めるまで「心理的支援」という言葉を使用したことはありませんでした。平成を臨床心理士として過ごした多くの心理職の方々も同様ではないでしょうか。正直にいうと心理職について15年ほど「心理支援を仕事の中心に置く」のみを想定していたので、後にこうやってライターなどに携わることは考えていませんでした。ここでは言葉の定義やその是非について述べません。言えることは、国家資格のインパクトはときに大きくときにじわじわと影響し、心理職のあり方が次第に変化してきたのではないかということです。変化は、制度、役割、組織、資格者数、支援内容、個人の内面のそれぞれに生じているように思います。
それらがどの程度、「国民のこころの健康の増進」に寄与してきたかはわかりません。今後、職能団体や厚生労働省が検証を行っていくと思います。一人ひとりの心理職の働きが実を結び、ポジティブなのものになればと願います。本アンケートを3年後に行ったらどうなるか? 興味深いです。
若干の懸念としては、公認心理師を取得しても十分に活用していない方々が一定数いるのではないかということです。ダブルワーク以上や副業が多いのも、心理的支援を中心とする仕事の数が実際に少ないためといえます。資格取得者は増えていますから、需要と供給のバランスから考えると、待遇向上は簡単にはいかないのかもしれません。
最近、東京都スクールカウンセラーを対象にしたアンケートが話題になりました4)。とても貴重で興味深い結果であり、詳細はリンクを参照いただきたいと思います。筆者が注目したいのは、ストレスを感じている割合が一般より高く、その背景には雇用が不安定で安心して業務に関われないということがある点です。これはスクールカウンセラーのみならず心理職の約4割を占める非正規雇用という働き方にも共通するのではないでしょうか。
同アンケートを行った団体は、都の教育委員会と団体交渉を行っていくそうです(当該ツイート)。先に述べた厚生労働省の調査でも関係各所に対して具体的な提言を行っています。たいへん心強く思います。
これからはさらに、私たち一人ひとりの心理職が、働く環境の向上のために、よく考えて具体的に動いていく必要があるのではないでしょうか。自分たちが「心理職になってよかった」と思え、対象者や関係者の方々が「心理職に会えてよかった」と思ってもらえるように。
引用・参考文献
1)一般社団法人日本公認心理師協会.厚生労働省 令和2年度障害者総合福祉推進事業 公認心理師の活動状況等に関する調査.2021.https://www.jacpp.or.jp/document/pdf/00-all-FY2020_mhlw_shogaifukushi_research_final.pdf(2022年12月5日閲覧)
2)一般財団法人日本心理研修センター.公認心理師都道府県別登録者数.https://www.jccpp.or.jp/download/pdf/number_of_registered.pdf(2024年6月13日閲覧)
3)公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会.「臨床心理士」資格取得者の推移.http://fjcbcp.or.jp/shitokusha/(2022年12月5日閲覧)
4)臨床心理士・公認心理師のための心理職ユニオン.東京都スクールカウンセラー労働実態調査報告.https://www.shinrishiunion.org/about-1(2022年12月5日閲覧)
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