妊娠・出産の大きなイベントを終えて、新しい家族が加わると生活は一変します。産後は、
自分自身のこころとからだの回復を図りながら、育児へと向かうことになります。生まれて間
もない児は、自分の存在の維持をかけて、昼夜を問わず、ケアしてくれる人を求めます。その
中にあって、一人で育児をするのは大変困難な状況といえます。かつて日本は、その多くが大
家族の中にあって、母親以外の手も、育児の知恵も身近にありました。しかし、社会状況は変
化し、核家族世帯が増え、家族単位がコンパクトになりました。そして、産後の母親の自殺を
予防するためのメンタルヘルスケアの必要性や、子どもの心身の健康が将来に及ぼす影響につ
いても取り上げられるようになりました。胎児期から生後早期の環境が、生涯を通じて健康に
影響するというDOHad(developmental origins of health and disease)や、小児期の被虐待や
機能不全家族との生活による困難な体験(adverse childhood experience;ACE)による、成人
期以降の健康および社会的リスクが指摘されています。母子が安定して心安らかな生活を送る
ことができるように、社会全体で支え、生活の質を上げていくことが重要だと考えます。
産後ケア事業は、2014年から妊娠・出産包括支援モデル事業として開始され、2015年には
補助事業として本格実施されるようになってきました。開始から約10年を経て、本特集では改
めて、行政による産後ケア事業について、確認したいと思います。そして、多様な産後ケアの
あり方について、それぞれの施設から実践例を紹介していただきます。母親が孤立することな
く、多くの人に見守られ、こころやからだを癒しながら、多くの愛情を児に注ぐことができる
ような希望のもてる社会を、目指していけることを願っています。
プランナー
長崎大学生命医科学域 教授
江藤宏美
本記事は『ペリネイタルケア』2024年7月号特集扉からの再掲載です。
*** 今月号からスタート!! ***
新連載①
“助産ガイドライン解説版”にもとづく 指導力アップ↑講座>
妊産婦に伝わる!行動が変わる!教育資料イノベーション
〈第1回〉明日からの保健指導に活かせる!「妊娠出産される女性とご家族のための助産ガイドライン」の紹介と活用方法
「妊娠出産される女性とご家族のための助産ガイドライン」(助産ガイドライン解説版)は、「エビデンスに基づく助産ガイドライン」を妊産褥婦向けにひもとき、納得のいく医療を受けていただく一助となることを目的に、2021年に発刊されました。一方、周産期医療の現場で用いられている妊産褥婦向けの教育資料の多くは、情報が十分とはいえません。“妊産褥婦が理解しやすく、行動変容につながりやすい資料”を作成するためのヒントを本連載でお伝えします。
新連載②
助産師のための かんたん英会話
〈第1回〉訪室時の会話