CPRA(シープラ)「子育て適応包括尺度」/
「妊婦さんと産後ママさんを見守る・助けるプロジェクト」について、
大阪大学の遠藤誠之先生に行ったインタビューの内容を紹介します!
Q:CPRA(シープラ)について、自治体の母子保健・親子保健の担当者である保健師や、
周産期医療従事者にもわかるように教えてください。
A:CPRAはアセスメントツールです。正式名称は「子育て適応包括尺度」(Comprehensive Scale for Parenting Resilience and Adaptation)で、
「子どもの特性」「環境リソース」「サポート認識」「母親の認知発達・人格特性」「困難感」
の5つのドメイン(軸)で、母親の子育て適応とレジリエンス(キャパシティ)を捉えることができます。
実際には、①妊産婦さん・お母さんには、前向きに育児に臨めるように
自分の強み・弱みを知ってもらうこと、②自治体の保健師さんなどが妊産婦さんや子育て中のお母さんをアセスメントして、必要な支援・サポートにつなげること、を目的とした利活用を想定しています。
Q:妊産婦へのアセスメントというと、EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)がありますが…。
A:EPDSは産後うつ病のスクリーニング検査で、母親の気持ちを評価しますが、
主にハイリスクの方がターゲットになります。EPDSでピックアップされる方(9点以上)は全体の約1割です。EPDSで介入・支援の対象にならない方も、妊娠中の生活や子育てにおいて、日々いろんな育児の負担感を抱いているということは、皆さんもご存じのとおりかと思います。
このCPRAは広く、子育てをするお母さん全体、すべての方を対象にするものです。
Q:具体的には、CPRAを受ける妊産婦さん・お母さんは何をするのですか?
A:妊産婦さん・育児中のお母さん本人に、システム上で81の質問に答えていただきます。
そうすると、妊産婦さん・お母さんが自身の強み・注意すべき点などを客観的に俯瞰することができます。
また、保健師さんには、その妊産婦さん・お母さんの分析結果が提示されます。
現在は、お母さんへのメッセージについて、「どのようなメッセージ・言葉、提示の仕方がいいのか」を検討しているところで、また保健師さんへの分析結果の提示についても、「どのような形がよいか」、今も岡山県奈義町の保健師さんと共同で検討している最中です。
Q:今も保健師さんは妊産婦さんへのアセスメントを行っていますが、
CPRAを使うとどのような利点がありますか?
A:CPRAの利点は、そのアセスメントを行う側、保健師個人の経験やスキルによらず、
一定の結果が得られることです。標準化、質の担保です。
自治体のなかでも、そもそも出産が少ない自治体もあれば、たくさんの保健師がたくさんの妊産婦・お母さんに対応している自治体もあり、保健師の経験年数やキャリア、業務の分担もさまざまだと思います。
CPRAは、システムの中で本人に回答してもらって、そのアセスメントを保健師サイドのみんなで見ることができますから、同じ基準での評価を保健師さんの属性にかかわらず共有できるのです。
そしてそれは、うまくいけば業務の効率化につながると思います。
Q:今、分娩施設で「妊婦さんと産後ママさんを見守る・助けるプロジェクト」として
CPRAの参加者募集をされていますが、どういうことを目的にされているのでしょうか?
A:目的は、たくさんのCPRAのデータを集めて、育児困難感のビッグデータを作ることです。
日本中のお母さんが「何に困っているか」についてのデータを集めて、アセスメント・分析の
精度をさらに上げたいと思っているからです。数が増えれば分析は、より精緻になります。
居住地によって、あるいは年齢によって、いろんな比較検討もできるようになります。
傾向などが把握できれば、分析の精度を高めて81項目あるCPRAの質問数も減らすことができると思います。
Q:今後、将来的には、どのような活用・展開を考えているのですか?
A:CPRAは、対面で用いるアセスメントツールとしても非常に有用ですが、将来的には、
たくさんの妊産婦さんから得られたデータを特定の妊産婦さんのアセスメントに利用し、
支援していけるものに発展させていきたいと思っています。
このプロジェクトを進めていく中で、【わたしの「困った」がみんなを救う/みんなの「わかった」がわたしに届く】という標語が生まれたのですが、それをとても気に入っています。
個人の「困った」を集積して、みんなが使えるものにするのです。昔は家族や地域のなかで、
その循環がありました。今はリアルな世界で知恵や経験を循環させることが難しくなっています。自然な知識の蓄積が疎になったのです。これからはバーチャルとリアルの組み合わせが大切と考えています。
CPRAで集めた多くの皆さんのデータが集積されて、それがまた一人ひとりへのメッセージやアドバイス、実際の支援につながっていけば、と願っています。
(2024年4月19日取材)