MENU
新規会員登録・ログイン
トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【連載】CDCガイドラインニュース「抗真菌薬耐性白癬菌の性感染の可能性」

矢野邦夫先生に「抗真菌薬耐性白癬菌の性感染の可能性」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。

*INFECTION CONTROL33巻7月号の掲載の先行公開記事となります。

「抗真菌薬耐性白癬菌の性感染の可能性」

 抗真菌薬耐性白癬菌であるTrichophyton indotineaeの性感染が疑われる症例がEmerging Infectious Diseasesにて報告されているので、紹介する[https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/30/4/24-0115_article]。

白癬

 白癬(皮膚糸状菌症)は、白癬菌属、小胞子菌属、表皮菌属によって引き起こされ、多くの場合、市販の局所用抗真菌薬を使用して治療される。経口テルビナフィン塩酸塩は、通常、免疫不全の人または高齢者に発生する広範囲の皮膚感染症に対する第一選択の抗真菌薬である。

Trichophyton indotineae

 最近出現したT. indotineaeによって、免疫正常者における広範で難治性のテルビナフィン耐性皮膚糸状菌症のアウトブレイクが南アジアでみられている。T.indotineaeは顔面白癬、体部白癬、下腿部白癬を引き起こし、ヒトからヒトへ容易に拡散する。培養ではT.indotineaeをほかの白癬菌属から区別できないため、同定には高度な分子学的技術が必要である。

症例

 2022年の冬、健康な若いシスジェンダー女性が南アジアを旅行した。そこに滞在しているときに、性器と臀部に紫色の病変をもった男性と腟性交をした。その後、彼女は同様の病変を経験した。その病変は太ももの内側から始まり、性器と臀部に広がった。2022年の春に米国に戻り、プライマリケア医と皮膚科医の治療を求めた。接触皮膚炎の疑いで局所用コルチコステロイド、局所用抗真菌薬クリーム、プレドニゾロン、ジフェンヒドラミン塩酸塩が投与された。しかし、病変は改善せず、コルチコステロイドが状態を悪化させた。大腿皮膚のパンチ生検の結果は菌糸陽性であり、皮膚糸状菌症と一致した。その後、局所ケトコナゾール、経口テルビナフィン塩酸塩、フルコナゾールを含む複数の抗真菌薬コースを受けたが、病変は改善しなかった。

 2023年春、感染症専門医による身体検査により、臀裂を含む臀部に環状の鱗片状の色素沈着した発疹と恥丘の3つの小さな色素沈着が判明した。彼女には、米国に新しい性的パートナーの男性がおり、彼もまた性交後に性器に同様の病変を発症した。T. indotineae感染症を疑い、1週間のイトラコナゾールが処方された。4日後の電話による経過観察で、彼女は発疹の大きさと搔痒が減少したと報告した。彼女は再診しなかったが、6週間後の遠隔診療では、搔痒症が再発し、右臀部と陰唇に新たに2つの小さな搔痒斑ができたと報告した。そのため、追加の2週間のイトラコナゾールが処方された。搔痒症は治まり、3ヵ月の追跡調査でも再発はなかった。患者の性的パートナーの発疹も治ったが、彼が受けた治療については不明である。

真菌学的検査

 感染症の医師は、クリーブランド医療センターの医療真菌学センターに真菌培養と高度な真菌学的検査のために臀部から削り取った皮膚検体を送った。そこで、テルビナフィンのMIC(最小発育阻止濃度)が16μg/mLであることが実証された。皮膚糸状菌にはブレークポイントは存在しないが、テルビナフィンのMIC≧0.5μg/mLは、耐性を与える遺伝子変異と相関している。そして、分離株はT. indotineaeであることが特定された。

考察

 診断検査を行わない視診では皮膚糸状菌症と炎症性皮膚疾患(接触皮膚炎など)を区別できない。コルチコステロイドの不適切な使用により、皮膚糸状菌症が悪化する可能性がある。診断検査は、真菌性皮膚感染症を正確に診断し、適切に治療するために不可欠である。イトラコナゾールはT. indotineaeに対して効果的であるが、吸収、薬剤間の相互作用、保険適用、長期治療や高用量の必要性の問題がある。

インフェクションコントロール33巻7号表紙

(本誌のご購入はこちらから)

*INFECTION CONTROL33巻7月号の掲載の先行公開記事となります。

*本記事の無断引用・転載を禁じます。