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トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【連載】寄生虫からひもとく風土病探訪記「第2回 発熱と皮疹をみたら? 疫学情報をうまく生かして情報発信を!」

第2回 発熱と皮疹をみたら? 疫学情報をうまく生かして情報発信を!

*本連載は2019年1月号~12月号の本誌連載の再掲載記事になります。



患者の特徴

72歳男性。5日前に発熱と皮疹が出現し近くの皮膚科を受診し、蕁麻疹の診断で軟膏の処方を受けた。解熱しないため、3日後に内科を受診。セフェム系抗菌薬の処方を受けるが解熱せず、本日救急外来を受診した。血圧低下、肝腎機能障害があり全身状態は不良。毎日健康のために近くの里山でウォーキングをしている。

さてこの寄生虫は…?

◎日本紅斑熱

 日本紅斑熱はRickettsia japonicaが病原体であり、マダニによって媒介される。病原体を持つマダニに咬まれてから2〜8日後に高熱や発疹が現れ、重症例では多臓器不全を起こす。2017年に静岡県では7人が発症し、このうち2人が死亡した。多くが私の住む静岡県東部地域で感染したと推測されている。過去5年間でみると13例中4例が死亡しており、一般的な致命率0.91%に比べ明らかに高い[1]。

ダニ採取

 私も10月の休日に東部の山に入りダニ採取活動を試みた。ダニは吸血する動物が通るのを植物や土の上で待ち、動物の皮膚や毛皮に吸着する性質を持つ。これを利用し、白いネル布を下草や地表に接触させながら歩き、白布に付着したマダニを集める。ダニを採るのについ夢中になるが、冷静に見たら明らかに怪しい集団である(図1)。図1図1 日本紅斑熱流行地でダニをとる怪しい集団

白い布を地面や草の上を這わせるようになぞり、布についたダニを確認する。


 採取を開始したのは住宅地から数分の山の入り口。最初の一振りでK医師の白布にダニが見つかった。こんな住宅の近くで!しかも小さい!小さい幼虫はわずか1mmの大きさであり、これは刺されても分からない。時には一振りで十数匹の幼虫がひしっとしがみついてくる(図2)。散歩感覚で山に入り、刺される状況が容易に想像できた。 

 採取後自分が刺されていないか心配になり、今回のダニ採取のリーダーである国立感染症研究所細菌第一部の川端寛樹先生に話を伺った。マダニは動物が通るような山の日陰に多い。山に入る際は、近い距離であっても長袖長ズボンが好ましい。服の隙間から入ることもあり、裾をなかに巻き込んでおく必要がある。市販されている忌避剤(DEETやイカリジン)も有効である。山に入った後は入浴やシャワーを浴びることで、身体に付いたマダニを物理的に除去する。吸着後数日たつと口器が皮膚へ強固に固着するため除去が困難となるそうだ。脱いだ衣服は天日干しにするか乾燥機に入れ乾燥させる。私たちもさっそく温泉に浸かり、体を隅々までよく洗うこととした。

図2-1

(愛知医科大学医学部 感染・免疫学講座 角坂照貴先生より借用)

図2-2

1mmに満たない幼虫たち

図2 皮膚に吸着したタカサゴキララマダニの若虫と布地にびっしりと群がる幼虫たち

情報発信

 患者目線から離れ、医療従事者として何ができるだろうか?静岡県環境衛生科学研究所微生物部の阿部冬樹先生にお話を伺った。阿部先生は、静岡県で患者発生が多いのは東部地域であるが、ダニの定期調査では西部と中部(静岡は3つの地方に分かれる)のダニからもRickettsia japonicaが検出されていると教えてくれた。臨床からの検査依頼も東部地域からのものが多く、ほかの地域では見逃されている患者がいることを懸念している。そのため、患者発症がない地域の医療機関にも情報発信が必要と考えている。診断例が1例でも出れば意識が変わるかもしれない。

 話を伺い、東部地域にのみ情報発信を行っていた自分を反省した。こうしたダニの分布や疫学情報をうまく生かして地域に情報発信をすることが、致命率を下げることに役立つと考える。その後も啓発活動の対象をどうするか、情報発信のタイミングなど話題は尽きず、今後の課題を多くいただいた。


■文 献

1) 静岡県公式ホームページ.−危機管理情報− マダニが媒介する感染症「日本紅斑熱」に注意しましょう!.http://www.pref. shizuoka.jp/kinkyu/documents/180830danikiki.pdf


インフェクションコントロール33巻2号表紙

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