浜松市感染症対策調整監 兼 浜松医療センターの矢野邦夫先生に「カンジダ・アウリス(Candida auris)」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
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カンジダ・アウリス(Candida auris)
はじめに
2016年6月、CDCは「米国の医療施設に対する臨床警告:多剤耐性酵母Candida aurisによる侵襲性感染症が世界的に発生している」を発信した[1]。この警告には、C. aurisは「死亡率の高い侵襲性医療関連感染症を引き起こしている」「多剤耐性真菌であり、治療の選択肢が制限されている」「同定には特殊な方法が必要であり、従来の生化学的方法に頼ると別の酵母と誤って同定される可能性がある」「医療施設でアウトブレイクを引き起こす可能性が高い」などと記述されている。
さらに、CDCは「薬剤耐性の脅威レポート(2019年)」において、「緊急の脅威」として5つの病原体を列挙し、そのなかの一つにC.aurisをあげた(表1)[2]。世界保健機関(WorldHealth Organization, WHO)もまた2022年に真菌の優先病原体リストを公開し、C. aurisを「クリティカルな優先グループ」に位置づけている[3]。ここではC. aurisの5つの問題点および感染対策について解説する。
表1 薬剤耐性の脅威がある病原体
C. aurisの5つの問題点[4]
[問題点①]世界で急速に拡大している
C. aurisは2009年に日本で初めて報告されたが[5]、分離株の遡及検査に基づくと、最も古いC.aurisは1996年に韓国で発生している[6]。全ゲノム配列決定(Whole GenomeSequencing, WGS)および一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism, SNP)分析を疫学的観察と併用することで、異なる地理的地域で異なるC.aurisクローン集団が独立して同時に出現したことが実証されている[7]。現在(2023年12月)、C.aurisは6大陸40ヵ国以上で検出されており[8]、地域別に4つの異なるクレード(clade Ⅰ:南アジア型[インド、パキスタン、マレーシア]、clade Ⅱ:東アジア型[日本/韓国]、clade Ⅲ:南アフリカ型、clade Ⅳ:南米型[ベネズエラ])が確認されている[7]。日本で分離されるclade Ⅱは非侵襲性であり、海外のclade Ⅰ、Ⅲ、Ⅳは侵襲性感染症を引き起こすことがある9)。
[問題点②]重篤な感染症を引き起こすことがある
C.aurisは、表在性(皮膚)感染症から、生命を脅かす重篤な感染症まで、さまざまな感染症を引き起こす可能性がある。その症状は感染部位(血流、開放創、耳など)と重症度によって異なり、C. auris 感染症に特有な症状はない。
重症の基礎疾患をもち、複雑な医療を必要とする患者がC.auris感染症のリスク因子となる。特にがん患者、骨髄移植患者、臓器移植患者などの免疫不全患者や重症患者において、侵襲性カンジダ症(カンジダ血症、中枢神経系、眼、骨、内臓などの感染症)を引き起こすことがある。その他のリスク因子には「腎機能障害」「10~15日を超える入院」「人工呼吸器の使用」「中心静脈カテーテル治療」「完全非経口栄養」などがある。また、抗真菌薬(特にトリアゾール系)の使用歴も、C. aurisのリスクを増加させる[3,4]。
C.aurisによるカンジダ血症患者は、ほかのカンジダ属によるカンジダ血症患者よりも入院期間または集中治療室の滞在期間が長期となる。実際、成人および小児のC.aurisカンジダ血症患者の入院期間の中央値は46~68日であり、最長で70~140日の範囲であった[3]。
また、C.aurisによる侵襲性カンジダ症の致死率は29~53%である。しかし、C.auris感染症の患者の多くは、もともと重篤な状態にあるため、C.aurisが患者の死亡にどの程度関与したかを知るのは困難である[4]。
一方、リスク因子をもたない健康な人(医療従事者や家族など)では、C.aurisによる感染症が引き起こされるリスクが低い[4]。
[問題点③]薬剤耐性があることが多い
C.aurisは、特にアゾール系抗真菌薬に対する本質的な耐性を備えている。フルコナゾールに対するC.aurisの耐性率は87~100%と高く、ほかのアゾール系抗真菌薬に対する感受性にはばらつきがある[3]。アムホテリシンBに対しては8~35%という比較的中程度の耐性を示し、エキノキャンディン系抗真菌薬に対しては0~8%と低い耐性を示した[3]。ほとんどのC.auris分離株はエキノキャンディン系抗真菌薬に対して感受性があるが、最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration, MIC)は、C.albicansでみられるMICよりも高い。3つの主要なクラスの抗真菌薬(アゾール系、ポリエン系、エキノキャンディン系)のすべてでMICが上昇していることが、C.auris分離株でも報告されている[1,10,11]。
したがって、C.auris感染症の患者には、エキノキャンディン系抗真菌薬による初期治療が推奨される。C.aurisはすぐに耐性を獲得する可能性があるので、抗真菌薬を投与されているカンジダ血症の患者では、血液培養の追跡調査にて、耐性化を注意深く監視しなければならない[4,12]。患者がエキノキャンディン系抗真菌薬に臨床的に反応しない場合、または数日間持続するカンジダ血症がある場合は、抗真菌薬をアムホテリシンB脂質製剤に切り替える。すべてのC.auris株に対して抗真菌薬の感受性検査を実施すべきであり、その結果を参考にして抗真菌薬を選択する。
一方、C.aurisの保菌者には、抗真菌薬による治療を実施すべきではない。これによって病気が予防されるというエビデンスはないためである[4]。
[問題点④]同定するのが難しい
C.aurisの同定には特殊な方法が必要である。一般的な検査キットを用いると、C.aurisのデータベースが欠けていることから、正しい同定ができない。そのため、別のカンジダ属(C.haemulonii、C.famata、C.sake、C.catenulataなど)に誤同定されてしまう[7,12,13]。その結果、患者は間違った治療を受けることになる。したがって、誤同定されやすい菌種名や詳細不明のカンジダ属が検出されたら、抗真菌薬耐性、流行地域の滞在歴などを考慮し、C.aurisを念頭に置いた対応を行う[7]。C.aurisを同定するためには質量分析や遺伝子解析が必要となる。
[問題点⑤]病院や介護施設でアウトブレイクが発生している
C.aurisは環境表面やヒトの皮膚で数週間生存できる[8,14]。そのため、感染者や汚染された環境表面や機器との接触を通じて拡散し、医療施設でアウトブレイクを引き起こしている[12,15,16]。したがって、適切な感染対策を実施する必要がある。
C. auris の感染対策[4,9]
C.aurisは手指を介して、環境表面や感染者の皮膚より伝播するため、適切な手指衛生が重要である。この場合、医療従事者のみならず、患者や面会者にも頻回に手指衛生を実施してもらう。
C.aurisの保菌者または感染症の患者は個室に収容する。そして、消毒薬を使用して病室を清掃し、医療従事者が入室するときには、手袋とガウンを着用する。来院した患者が表2のような状況を経験していた場合は、医療施設に通知するように指導する。
C.aurisに感染した患者は、症状の有無に関係なく、非常に長期間にわたって皮膚や体のほかの部位にC.aurisをもち続けることがある。そのため、感染拡大を防ぐための措置は、患者が医療施設にいる期間で継続される。ただし、高齢者施設などの一部の施設では、施設の方針に基づいてケースバイケースで対策を決定する。
C.aurisに接触した可能性のある患者に対しては、真菌検査することが推奨される。これにより、医療従事者は誰が保菌しているのかを知り、ほかの人への感染を防ぐための措置を講じることができる。
表2 医療施設に通知する必要がある患者の状態
【引用・参考文献】
1) CDC. Clinical alert to US healthcare facilities-June 2016. Global emergence of invasive infections caused by the multidrug-resistant yeast Candida
auris. https://www.cdc.gov/fungal/candida-auris/candida-auris-alert.html
2) CDC. 2019 Antibiotic Resistance Threats Report. https://www.cdc.gov/drugresistance/biggest-threats.html
3) WHO. WHO fungal priority pathogens list to guide research, development and public health action. https://www.who.int/publications/i/
item/9789240060241
4) CDC. Candida auris . https://www.cdc.gov/fungal/candida-auris/index.html
5) Satoh, K. et al. Candida auris sp. nov., a novel ascomycetous yeast isolated from the external ear canal of an inpatient in a Japanese hospital.
Microbiol Immunol. 53(1), 2009, 414.
6) Lee, WG. et al. First three reported cases of nosocomial fungemia caused by Candida auris. J Clin Microbiol. 49(9), 2011, 313942.
7) 廣瀬由紀ほか.Candida auris.日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌.2(1),2022,15.
8) Du, H. et al. Candida auris:Epidemiology, biology, antifungal resistance, and virulence. PLoS Pathog. 16(10), 2020, e1008921.
9) 国立国際医療研究センターほか.カンジダ・アウリスの臨床・院内感染対策マニュアル 第1.0版.https://dcc-irs.ncgm.go.jp/document/manual/
Candida-auris_manual_vol1.0.pdf
10) Lyman, M. et al. Notes from the Field:Transmission of Pan-Resistant and Echinocandin-Resistant Candida auris in Health Care Facilities Texas
and the District of Columbia, January-April 2021. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/pdfs/mm7029a2-H.pdf
11) Kilburn, S. et al. Antifungal Resistance Trends of Candida auris Clinical Isolates in New York and New Jersey from 2016 to 2020. Antimicrob
Agents Chemother. 66(3), 2022, e0224221.
12) Tsay, S. et al. Approach to the Investigation and Management of Patients With Candida auris, an Emerging Multidrug-Resistant Yeast. Clin
Infect Dis. 66(2), 2018, 30611.
13) CDC. Identification of Candida auris . https://www.cdc.gov/fungal/candida-auris/identification.html
14) Welsh, RM. et al.:Survival, persistence, and isolation of the emerging multidrug-resistant pathogenic yeast Candida auris on a plastic Health
care surface. J Clin Microbiol. 55(10), 2017, 29963005.
15) Adams, E. et al. Candida auris in Healthcare Facilities, New York, USA, 20132017.
Emerg Infect Dis. 24(10), 2018, 181624.
16) Eyre, DW. et al. A Candida auris outbreak and lts control in an lntensive care setting. N Engl J Med. 379(4), 2018, 132231.
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*INFECTION CONTROL33巻3月号の掲載の先行公開記事となります。
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