矢野邦夫先生に「人工呼吸器に依存する小児施設の入居者における非結核性抗酸菌」についてご執筆いただきましたので、掲載いたします。
「人工呼吸器に依存する小児施設の入居者における非結核性抗酸菌」
人工呼吸器に依存する小児施設の入居者において非結核性抗酸菌アウトブレイクが発生した。CDCがその詳細を報告しているので紹介する[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/pdfs/mm7242a5-H.pdf]。
はじめに
非結核性抗酸菌であるMycobacterium abscessus(M. abscessus )は、医療現場での水系媒介疾患のアウトブレイクの原因となる日和見病原体である。2022年9月29日、ペンシルベニア州保健局(Pennsylvania Department of Health, PADOH)は、ベッド数34床の小児施設において人工呼吸器に依存している入居者からM.abscessus 陽性の呼吸器分離株の通知を受け取った。この施設は住宅サービスとして認可されているが、医療施設としては認可されていない。症例は「2022年3~8月の期間に、この施設の入居者からM.abscessusが最初に培養陽性となった」と定義された。3症例が確認され、その内訳は保菌2人と臨床感染1人であった。PADOHはこのアウトブレイクを調査し、危険因子を特定し、感染対策と制御措置を推奨した。
調査と結果
10月12日、PADOHは感染対策と制御措置の実践状況を視察するために現地訪問を実施した。呼吸療法士による無菌テクニックを遵守しなかった呼吸器ケアが3件観察された。気管切開チューブの再処理(再利用のための洗浄と消毒)に関して、製造元は在宅ケアと医療現場向けに異なる指示を提供していた。後者には、病原体伝播のリスクを軽減するためのより厳格なプロセスが含まれていた。スタッフは製造元のいずれのプロセスにも従わず、代わりに、有効性に関する文献のない非医療用洗浄ツールと紫外線哺乳瓶滅菌器を使用して独自の手順を作成していた。PADOHは、医療現場における気管切開チューブの再処理に関する厳格な製造元の指示に従い、呼吸器ケア中に無菌操作を遵守することを施設に推奨した。10月31日に実施された2回目の現場訪問では感染対策と制御措置の改善がみられた。しかし、スタッフは依然として、医療に関する製造元の推奨による気管切開チューブの再処理を行っていなかった。
建物の複数の区域は2年間使用されておらず、滞留水と汚染に対する懸念が高まっていた。この施設には、水関連の感染症を防ぐために推奨されている水管理計画や水質の監視がなかった。
10月31日、PADOH は蛇口、エアレーター、シャワーヘッドと排水管、ろ過水と製氷機から21の環境サンプルを収集し、M. abscessus の保菌または感染を有する入居者が居住する臨床治療区域からの水サンプルを収集した。抗酸菌が、21の環境サンプルのうち16(76%)で確認され、M. abscessus がシャワー排水綿棒から同定された。入居者の部屋のシンクと気管切開チューブの再処理室のシンクからの最初の採取と、洗浄後のペアの水サンプルの従属栄養細菌(訳者註:有機栄養物を比較的低濃度に含む培地を用いて低温で長時間培養したとき、培地に集落を形成するすべての菌のことをいう。配水系システム内における塩素の消失や滞留に伴って従属栄養細菌が増加する)は、安全な飲料水に関する環境保護庁の基準を超えていた。PADOHは、水質が一貫して環境保護庁の基準を満たすまで、施設が水管理コンサルタントを雇い、水管理プログラムを開発し、臨床区域に局所フィルタを設置することを推奨した。この施設は水管理コンサルタントと協力して推奨事項を実施した。PADOHは8ヵ月間共同モニタリングを継続した。
暫定的結論
疫学および検査室のエビデンスは、このM. abscessusのアウトブレイクが基準以下の水質と不適切な感染対策と制御措置に関連していることを示唆している。建物内のスペースが長期間使用されないと、配管内に水が滞留する可能性がある。そして、水管理プログラムが欠如していれば、水質が監視されていないことになる。
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*INFECTION CONTROL33巻3月号の掲載の先行公開記事となります。
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