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トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【再掲】2011年東日本大震災関連連載「感染管理認定看護師の被災地活動レポート『避難所での感染対策では,柔軟な思考と培った経験が必要とされる』」

*本記事は2011年7号掲載記事の再掲載になります。

*プライバシーの都合により、一部変更しております。

はじめに

 私は,日本看護協会災害支援ナースとして,2011年4月7日~4月12日の期間,宮城県の石巻市にある避難所へ行きました.石巻市は,今回の震災と津波により町のほとんどが大きな被害を受け,石巻市役所の周辺は駅が壊れ,道は泥で汚れるなか,給水車が止まっているといった状況でした.

 日本看護協会災害支援ナースは,避難所において寝泊まりし,被災者の健康管理や医療支援チームとの調整などを行います.私は,約320名の被災者がおられる大街道小学校で2泊し,翌日3ヵ所の避難場所を回り,残り3日間は宮城県看護協会災害本部でお手伝いをさせていただきました.

  写真1

写真1  本日のトイレ清掃係(被災者)がトイレ清掃を1日2回行う

避難所の現状

 大街道小学校は上下水道も電気もなくライフラインが途切れた状態でした.避難所では24時間体制で,市や他府県の職員や小学校教員が,被災者の相談対応,自衛隊や巡回する医療チームとの対応を行っていました.また,被災者から選ばれたリーダーや,必要に応じて各教室(教室で暮らしているので)の代表者を交えて,1日2回ミーティングも行われていました.私もそのミーティングに参加し看護師としての意見を述べることができましたので,状況に合わせ,優先順位を考えた感染対策を提案しました.感染対策は,私たちが実践するのではなく,実際にこの環境下で暮らす人々が実践することに意義があります.

写真2

写真2  仮設トイレの周辺は津波の後がそのまま残り,停電のため夜は真っ暗になる

感染対策の課題

 上下水道が途切れているため,排泄後に手を洗うことも排泄物を処理することもできない状況でした.室外の仮設トイレには「排泄後の紙はビニール袋に入れること」と書かれた掲示物がありました.下水処理ができず,汲み取りが来なければ排泄物があふれる可能性があるため,紙や水を捨ててはならないのです.トイレの清掃は,被災者が話し合い1日1回順番で行っていました.給水車の水をバケツに入れ,水を用いて便器周辺を擦り,使用した水はトイレ周辺へ捨てるという方法です.

 排泄物の処理ができず,手も洗えない状況のため,なおさらドアノブなど人の手がよく触れる場所の汚れを除去したいと考えました.

働きかけたこと

食中毒や排泄物に関連する感染性胃腸炎の拡大防止のため,下記の3点を提案させていただきました.

①手は,ウェットティッシュで汚れを拭き取った後に,擦式アルコール製剤で手指消毒を行う.排泄後や食事前などの場面に限定せず,思い出せば1日何回でも実践する.

②トイレ清掃は1日2回に増やす.清掃後にたまった床の水は新聞紙で吸い取る.

③水を使わないスプレー式除菌剤が救援物資にたくさんあったので,部屋やトイレを清掃するときに,それを用いて「人がよく触れる場所」を拭き上げる.

 その結果,被災者全体をとりまとめる人,市の職員や他府県から応援に来ている都道府県の職員,小学校の教師が中心となって,各部屋のリーダーへ伝え,翌日から中学生が除菌剤を取りに来ました.この避難所は,教室ごとに数家族が分かれて生活しており,各部屋にもリーダーがおられますが,ミーティングを通して理解を求めることができました.

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写真3  ミーティング翌日に高頻度接触面を清掃する中学生

これから支援に行かれる方へ

 下水道が復旧していれば,プールの水を利用して,排泄後にバケツで便器を流す,床の清掃に利用することができるかもしれません.私が見たほかの避難所では,プールに車などが落ち,油などの汚染がひどいところもありました.このような場合には,床の清掃に際して,プールの水でなく給水車の水を利用するように調整していただきたいと思います.