MENU
新規会員登録・ログイン
トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【再掲】2011年東日本大震災関連連載「CDC「医師のための津波関連情報」からみる 地震・津波災害と感染症対策のポイント 」

*本記事は2011年5号掲載記事の再掲載になります。

サマリー

① ほとんどの創傷感染では,ブドウ球菌および連鎖球菌が原因となるが,水(真水や海水)で汚染された創傷では水媒介病原体にも注意する.

② 肝疾患や免疫患者において,創傷が海水に汚染した場合にはビブリオ・バルニフィカス感染に注意する.

③ すべての創傷では破傷風対策を十分に実施する.

はじめに

 2011 年3 月11 日午後 2 時 46 分ごろに発生した東日本大震災(マグニチュード 9.0)は一瞬の間に多くの人々に危害を加え,その後発生した津波によって被害は増大した.さらに原子力発電所のトラブルも人々を恐怖に陥れている.この地震に関連して,米国疾病予防管理センター(CDC)が「医師のための津波関連情報」[1]をホームページに公開したので,そのなかから感染症について緊急に必要な情報を抜粋して提供する.

創傷の処置[2]

  • 出血を止めるために,出血している創傷に直接圧力を加える.止血帯は組織の活力を低下させるので,ほとんど用いられていない.
  • 大きな汚染,壊死組織,異物について創傷を調べる.
  • 創傷のある部分を締め付けるような指輪や装身具は取り除く.
  • 創傷の周辺を石けんと滅菌水または入手できる溶液で洗い流し,必要ならば麻酔薬を用いる.
  • 太い針と注射器を用いて生理的食塩水にて創傷を灌注する.これらが入手できなければボトル水を利用してもよい.
  • 汚染した創傷,咬傷,刺創は開放のままにしておく.未滅菌環境で縫合された創傷,または洗浄,灌注,デブリドマンが適切に実施されていない創傷は汚染による感染の危険性が高い.感染の危険性が高いということで初期閉鎖されなかった創傷は,経験のある医療従事者によって滅菌下で遅延一次縫合することを考慮する.
  • 壊死組織や異物は感染の頻度を増すので,修復処置の前にはそれらを除去する.
  • 必要ならば創傷の近傍の毛を刈る.剃毛は必要ないし,創部感染の機会を増やしてしまう.
  • 乾いたドレッシングで創傷を覆う.深い創傷には生理的食塩水に浸したガーゼを詰めて,大きな乾いたドレッシングで覆う.
  • 創傷のある患者には,ほかにも外傷があるかもしれないので油断しない.
  • 専門施設への紹介,経過観察,再評価を十分に行う.
  • 汚水や土壌や砂は感染を引き起こす.創傷はごく少量の汚物によって汚染されている.
  • 刺創では,そのなかに衣類や破片が少量でもあれば感染を引き起こす.
  • 挫滅創は切創よりも感染に弱い.

創傷感染の治療[2]

  • ほとんどの創傷感染はブドウ球菌および連鎖球菌によるものである.
  • 感染創傷の初期抗菌治療には抗ブドウ球菌活性のあるβ-ラクタム薬(セファレキシン,ジクロキサシリン,アンピシリン/ スルバクタムなど)およびクリンダマイシンが推奨される.
  • 最近,市中感染型MRSA による皮膚および軟部組織感染が増えている.これらの病原体によって引き起こされている感染はβ-ラクタム薬による治療には反応しないし,この治療薬に反応しない患者ではMRSA 感染を考慮すべきである.市中感染型MRSA 感染の治療にはST合剤(経口)またはバンコマイシン(注射)が用いられる.クリンダマイシンも選択できるが,すべての菌株に感受性があるわけではない.
  • 皮下膿瘍の切開やドレナージもまた創傷感染の治療では重要である.

水が関連した創傷汚染[2]

  • 水(真水や海水)による創傷の汚染は水媒介病原体による感染を引き起こす.これらの病原体による感染は,たとえ洪水の後であっても多くはないが,すでに述べたような初期治療に反応しない患者においては考慮すべきである.
  • これらの感染に関連する水媒介病原体にはエアロモナス属,非コレラビブリオ属,時々はシュードモナス属やそのほかのグラム陰性桿菌が含まれる.ST 合剤,アモキシシリン/ クラブラン酸,新世代ニューキノロン(レボフロキサシン,モキシフロキサシン,ガチフロキサシン)ではエアロモナス属が治療できるし,シュードモナス属や多くのグラム陰性桿菌も治療できる.
  • 海水の中で受傷した創傷感染や貝類または海洋動物への接触による創傷感染の原因病原体としてビブリオを考慮する.ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus ) による創傷感染は広範囲のデブリドマンを必要とし,死亡率も高い.これによる感染症では水疱病変(出血性のこともある)を呈することがある(図1).特に,肝臓疾患や免疫不全を基礎疾患に持つ人はビブリオ・バルニフィカス感染の危険性が高い.

図1

図1 ビブリオ・バルニフィカス感染症の皮膚病変(CDCホームページ)[4]より)

ビブリオ・バルニフィカスによる創傷感染の管理

  • ビブリオ・バルニフィカスは温かい海水に生息している[3].肝臓疾患や免疫不全状態の人は解放創や皮膚病変を海水に触れないようにしてビブリオ・バルニフィカス感染症を防ぐようにする[4].ビブリオは乾燥によってすぐに死滅するので,水が引いて乾燥した地域では心配ない[4].
  • 発熱があり,出血性水疱やセプシスの症状があれば血液培養を行う.
  • 抗菌薬はドキシサイクリン(1 回100 mg 経口/注射を1 日に2 回,7 ~ 14 日) に加えて第三世代セファロスポリン[例,セフタジジム1~2g(静注/ 筋注)を8 時間ごと]を併用するのが推奨される3).
  • レボフロキサシン,シプロフロキサシン,ガチフロキサシンのようなニューキノロンの単剤療法はドキシサイクリンとセファロスポリンによる併用療法と比較して少なくとも同程度の効果がある(動物モデルにて)[3].
  • 小児ではドキシサイクリンとニューキノロンは禁忌である.この場合にはST 合剤+アミノグリコシドによる治療が可能である[3].

破傷風

  • 創傷のある人々には破傷風の危険性がある.破傷風は重症感染症であり,致命的になることもある毒素性疾患であるが,破傷風トキソイドによって100%防ぐことができる.いかなる創傷であっても,破傷風に罹患する可能性はあるので,医療従事者による評価が行われるべきである[2].
  • 破傷風菌は嫌気状態では芽胞を産生し,中枢神経系に結合する毒素を産生する.潜伏期は8 日(3 ~ 21 日)であり,局所性破傷風,頭部破傷風,全身性破傷風の3 つの臨床型がある[5].
  • 局所性破傷風(Local tetanus)はあまりみられない臨床型であるが,創傷部位と同じ解剖学的部位での 持続的な筋肉の痙攣がみられる.この痙攣は数週間続くが,ゆっくりと改善する.局所性破傷風は全身性破傷風の発症の前にみられることもあるが,一般的に症状は軽く,死亡率は約1%ほどである[5].
  • 頭部破傷風(Cephalic tetanus)はまれな臨床型である.中耳炎(中耳の細菌叢に破傷風菌が生息している)や頭部の外傷後に合併する.脳神経が巻き込まれ,特に顔面部位でみられる[5].
  • 全身性破傷風(Generalized tetanus)は最も多い臨床型(約80%)である.最初の症状は開口障害,そして項部硬直,嚥下困難,腹筋の硬直へと下行してゆくのが一般的である.そのほかの症状としては,発熱,血圧上昇,頻脈がある.痙攣は頻回にみられ,数分間持続する.痙攣がみられる期間は3 ~ 4 週間である.完全な回復には数ヵ月を要する[5].
  • 破傷風に特徴的な検査所見はない.診断は臨床的に行われ,細菌学的な確認には左右されない.破傷風菌が創部から検出されるのは症例のわずか30%であるし,破傷風ではない患者から破傷風菌が検出されることもある[5].
  • 破傷風に対する抗菌薬予防は実践的でもないし,創傷管理に有用でもない.適切な免疫が重要である.能動免疫(±受動免疫)の必要性は創傷の状況と患者の免疫歴に左右される.破傷風トキソイドの初期接種歴のある人においてまれに破傷風が発生している.
  • 清潔創でもなく小さな創傷でもない人で破傷風トキソイドの接種歴が0 ~ 2 回または接種の既往がはっきりしない場合には,破傷風トキソイドと同時に破傷風免疫グロブリンも投与する(表1).これはトキソイドの初期接種は免疫を誘導せずに,免疫システムを抗原刺激するだけであるからである.破傷風免疫グロブリンは抗毒素を直接提供することによって一時的な免疫を提供する.このような対応によって,破傷風トキソイドによる免疫反応がまだ起こっていないとしても,予防レベルの抗毒素の獲得を確実にすることができる[5].

表1

表1 破傷風創傷管理における破傷風トキソイドと破傷風免疫グロブリン

■文 献
1)CDC. Tsunami-related information for clinicians.http://emergency.cdc.gov/disasters/tsunamis/clinicians.asp
2)CDC. Emergency wound management for healthcareprofessionals.http://emergency.cdc.gov/disasters/emergwoundhcp.asp
3)CDC. Management of Vibrio vulnificus wound infections after a disaster. http://emergency.cdc.gov/disasters/disease/vibriofaq.asp
4)CDC. Vibrio Illnesses after hurricane Katrina - Multiple states, August - September 2005. http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm54d914a1.htm
5) CDC. Tetanus. http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/downloads/tetanus.pdf