*本連載は2017年2号本誌連載の再掲載記事になります。
??会員からの質問
最近、「抗菌薬スチュワードシッププログラム」という言葉をよく聞きますが、カタカナが多くて意味がよく分かりません。分かりやすく解説してもらえないでしょうか?
ざっくり解説すると!!
- 抗菌薬スチュワードシッププログラムとは、医師が抗菌薬を適正に処方できるように薬剤師、看護師、臨床検査技師、病院管理者が皆でサポートするためのプログラムのことです。
- このプログラムには「Antibiotic“Time outs”」「事前許可制と事後届出制」「抗菌薬の注射薬から経口薬への適時な移行」などが含まれます。
- その目的には「治療効果の最大化」「有害事象の最小化(クロストリジウム・ディフィシル感染症の減少など)」「薬剤感受性の回復」「医療財源の活用の最適化」などがあります。
理解しておくべきキーワード
抗菌薬スチュワードシッププログラム:米国感染症学会および米国医療疫学学会は、抗菌薬スチュワードシップの定義を「抗菌薬の投与量、投与期間、投与経路を含めた最適な抗菌薬レジメの選択を促進することによって、抗菌薬の適正使用を向上および評価するためにデザインされた協調的な介入」としています [1]。日本語訳としては「抗菌薬適正使用支援プログラム」が用いられています [2]。
Antibiotic “Time outs”(図1):抗菌薬開始後48時間で「患者は抗菌薬が有効な感染症に罹患しているか?」「投与薬剤、投与量、投与経路は正しいか?」「デ・エスカレーションできるか?」「治療期間はどのくらいか?」について確認します。この48時間は抗菌薬の継続の可否について集中的に考える時間となります。患者の皮膚に付着している細菌が、採血時に血液培養ボトルに混入してしまうことによって検出される細菌です。真の原因菌ではありません。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、コリネバクテリウム属、バシラス属、プロピオニバクテリウム・アクネス、ミクロコッカス属などが問題となっています。
事前許可制と事後届出制(図2):「事前許可制」は特定の抗菌薬について、処方前に許可を得ます。「事後届出制」は抗菌薬を処方した後に届け出ます。これらは、患者予後に悪い影響を与えず、抗菌薬使用を向上させ、抗菌薬耐性を減らし、クロストリジウム・ディフィシル感染症を減らすことが示されています。
それでは、矢野が解説します!分かりにくかったらすみません
お酒を飲みすぎる医師
講演会などで「医師が不適切な抗菌薬を使用していると思ったら、気軽に『○○先生、この感染症にはもう少し狭域の○○抗菌薬はどうでしょうか?』などと助言してくださいね」などとお話しすると、看護師や薬剤師などのスタッフから「医師にそのような助言など、とてもできません!」と言われることがあります。それでよいのでしょうか?
たとえば、某医師がいました。彼はアルコールが大好きで、宴会などではビールも焼酎もウイスキーもおかまいなく、グイグイ飲んでしまいます。単に飲むだけならばよいのですが、そのあとが大変!ベロベロとなり、周辺の人に絡み、ゲロを吐いてしまうのです。その後、寝込んでしまって、起こすのがまた大変! 皆が「どうしよう。どのようにして自宅まで連れて帰ればいいのだろう?」と困ってしまうのです。
そのような医師が、皆さんの歓送迎会や忘年会に来て、目の前に座りました。そして、いつもの通りグイグイと飲み始めたのです。このときどうしますか?「先生! いつも酔っぱらって、後が大変なんだから、今日はあまり飲まないでね」などと助言するのではないでしょうか? そうしないと、2時間後に自分の身に降りかかってくるであろう不幸から身を守れないからです。
たかが、「ゲロで衣類が汚れる」とか、「寝込んでしまった後の介護が大変だ」ということで、医師に助言するのですから、患者の生命を守り、耐性菌の発生と蔓延を防ぐための抗菌薬の適正使用について助言しないのは間違っていると思います。
■抗菌薬開始後48時間で判定すべし!
抗菌薬を開始したら、48時間までのカウントダウンを始める。その間、感染症の診断は正しいか、抗菌薬をこのまま継続してよいか、投与経路や投与期間はどうかなどを必死に考える。
■抗菌薬の処方の前?後?
「事前許可」「事後届出」は抗菌薬の処方の前か後かで決まる。ほとんどの病院では事後届出を実施しているが、届け出されることで安心してはいけない。処方医に教育的なフィードバックをする。
間違った会社経営
某企業の経営の立て直しに、やる気満々の社長が就任しました。「当社の収益を増大し、赤字経営を2年で黒字化する!」と宣言し、一生懸命に製造・売り上げを向上させました。同時に、支出は最小限にし、徹底的な黒字化戦略をとったのです。環境対策は莫大な費用がかかるので、それを節約するために、汚染物を川に垂れ流し、空気中にPM2.5(微小粒子状物質)を大量に放出し続けたのです。会社役員や従業員が「環境対策も実施しましょう」といっても、聞き入れません。「会社の経済的発展が最優先だ!」と言って……。
この社長は適切な戦略をとっているとは思えません。彼は会社の収益を最大にし、支出を最小にし、そして、環境汚染も最小にしなければならないはずです。抗菌薬についても、同様のことがいえます。患者の治療のみを視野にした処方ではなく、耐性菌対策も考慮した処方が必要なのです。
抗菌薬は特殊な薬剤です。唯一、環境を変えてしまう薬剤といっても過言ではありません。一般的に、薬剤の作用と副作用は処方された患者に発生し、周辺の患者には何ら影響はありません。一人の患者に鎮痛剤を処方しても、隣のベッドの患者の痛みは除去できません。鎮痛剤が投与された患者に薬剤アレルギーによる全身発疹が出たとしても、その隣の患者に発疹が出ることはないのです。しかし、抗菌薬が処方されると、感受性菌が死滅し、特に腸管内には耐性菌のみが生き残ります。さらに抗菌薬を継続していくと、耐性菌のみが増殖していくのです。患者の腸管内で増殖した耐性菌は糞便とともに体外に排出され、オムツ交換などを実施した看護師の手指に付着します。その看護師が手指衛生を徹底していればよいのですが、手指衛生が不十分なままほかの患者のケアをすると、耐性菌も伝播してしまいます。そのようなことが積み重なると、病室全体、病棟全体に耐性菌が蔓延することになります。
誰も、降圧剤や胃薬の届出制や許可制などしません。抗アレルギー薬の“Time outs”もしないのです。降圧剤、胃薬、解熱鎮痛剤、抗アレルギー薬などのスチュワードシッププログラムについては聞いたことがありません。抗菌薬のみ、スチュワードシッププログラムが提唱されています。すなわち、病室や病棟といった環境が汚染されないためにも抗菌薬が厳しく制限されるのです。もちろん、抗菌薬スチュワードシッププログラムは環境対策(薬剤感受性の回復)のみが目的ではありません。適切な抗菌薬を選択して、患者の予後を改善させ、有害事象を最小にし(クロストリジウム・ディフィシル感染症の減少など)、医療資源の活用を最適化するといったことも目標となっています。

あれ?うまくいかないときはどうすればいい?
抗菌薬スチュワードシッププログラムの協力が得られない! :落ち込むことはありません。抗菌薬スチュワードシッププログラムにはさまざまな対策が含まれているのですが、それらを、あれもこれもといって、一気に実施しようとしてもうまくいきません。数ヵ月で一つの対策を実施し、それを積み重ねていくことが大切です。特定の抗菌薬の事前許可制について反対する医師が多ければ、事後届出制を開始しておき、タイミングを計って事前許可制に移行するとか、新規に購入を開始する広域抗菌薬から事前許可制を始めるなどの方法があります。
●文献
1) Fishman, N. Policy statement on antimicrobial stewardship by the Society for Healthcare Epidemiology of America(SHEA),the Infectious Diseases Society of America(IDSA),and the Pediatric Diseases Society(PIDS).Infect Control Hosp Epidemiol.33(4),2012,322-7.
2) 抗菌薬の適正使用に向けた8学会提言.抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship;AS)プログラム推進のために−提言発表の背景と目的−.http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/kobiseibutuyaku_teigen.pdf

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