哺乳動物であるヒトが母乳で育つことは当たり前のことです。しかし、母乳育児に関しては、科学的な根拠に乏しい情報の氾濫や、熱心な母乳育児支援者からの押し付けのような“指導”などにより、一部の母親が“母乳”という言葉に過剰な反応を感じるようになってしまいました。結果として、社会全体だけでなく医療者も、母乳育児については腫れ物に触るかのようになり、“元気な赤ちゃんは粉ミルク(人工乳)でも問題ない”と言わざるを得ない状況になったと感じています。
科学的なエビデンスをみると、母乳で育つ(育てる)ことは、児だけでなく母親自身、さらには社会全体に対してもたくさんのメリットがあります。母乳の利点を生かす研究は日々進んでおり、臨床応用されるようにもなってきています。母乳で育てることを希望する母親が、周囲からの影響を受けることなく、また、母乳育児を押し付けられることなく、本人の希望に添って児に母乳を与えられるように、私たち医療者が母親を支えなければなりません。もちろん、人工栄養を選択せざるを得ない場合もあるでしょう。そのような場合も母親の思いを傾聴したうえで、児と母親の健康を守れるように情報提供をしなければなりません。
この特集を読んでいただき、母乳の利点、母乳分泌の生理など母乳育児に関する基礎知識を確認し、現代の誤った母乳育児に対するメッセージ(母乳育児の押し付けを含む)から、母乳で育てたいと考えている女性と赤ちゃんを守る一助になることを願っています。
プランナー
昭和大学医学部 小児科学講座 主任教授/日本母乳バンク協会 代表理事
水野克己
日本母乳バンク協会/助産師
水野紀子
本記事は『ペリネイタルケア』2024年1月号特集扉からの再掲載です。